第176話 5回目の売却。
「これはこれは武田様。ようこそいらっしゃいました。本日はダンジョンのお買い上げの件でしたわね? ええ、例の、熊岱市の。はい。お買い上げですわね! かしこまりました! 毎度ありがとうございます!」
「ちょっとまってください?」
晴田市の探索者支援センターに到着して中に入った瞬間、ここの所長さんからの熱烈な出迎えを受けてしまった。
この人どんだけあのダンジョンを売っ払いたいんだよ!
いや、この人だけじゃない。
見るとここのセンターの職員がみな手もみをしながらこっちを見ているな。
ほんとにどれだけ売りたいんだろうな。
多分、この人たちの管轄下にダンジョンがあることは結構な負担になるんだろう。
さすがに魔物の間引きとかまではやらないまでも、国の所有物の管理に関する委託みたいな形になって書類とかめんどくさそうだ。
そのうえ、もし魔物の
聞いた話によると、国営のダンジョンでもしっかりとダンジョンごとに管理する部署、人員が割り当てられるところと、十把ひとからげで県の探索者支援センターに管理を丸投げする場合とがあるらしい。
前者に当てはまるのは、例えば日本最大級の釧路ダンジョンとか、ここ晴田県でいえば件のストーンダンジョンとかだな。
こういうところはしっかりと国のダンジョン庁の職員がダンジョンごとに配属されて管理を行っている。まあ、現地雇用の臨時とかパート職員も多いらしいが。
で、後者の丸投げされたダンジョンというと、管理は押し付けられてもそれに関する人員の増員や予算の増額等もほとんどないらしく、支援センターの職員が本来業務と兼務しながら県内全域に散らばる各所のダンジョンを管理するらしい。
特に熊岱市のダンジョンなんかはもともと例の社長の個人所有だったものが管理不十分で一時的に国の管理におかれ、そのまま競売にかけられるような流れになった為余計に面倒くさいようだ。
各地域の警察署とか消防署とか、あるいは自警団とか消防団とかの民間団体とも連携を取って安全確保に努めなければならないのは大きな負担だろう。
探索者支援センターだって、名目上は特殊法人であり、民間事業者なのだ。まるで社会福祉協議会みたいなものだ。
その職員の給料は国家公務員と比べて低いことも察せられる。
まあ、そんな背景があるのなら、そりゃ1日でも早く誰かに買ってもらいたいわな。
まあ、結局オレたちが買うんだけどもね。
「はい、今日はその話もしに来ました。ですが、その前に―」
「「「「「お買い上げありがとうございます!!」」」」」
おおう、職員総出で会話をぶった切ってきやがった。
だから、
買うから。
その前に魔石とか売却させてくれ!
◇ ◇ ◇ ◇
「……はい、たしかに確認させていただきました。……だ、代金の件ですが、この支部にはこれだけの現金のストックがないものでお振込みにさせていただきたいのですが……」
「はい、問題ありません。」
予想通りだ。
だって、金額が金額だもん。
逆にこれだけの現金を常にプールしていたとすれば防犯上良くないと思うし。
「では、今回の魔石等の売却代金、2千861万2千円になります……。お確かめください……」
なんと、驚異の3千万弱!
もう、びっくりを通り越して現実感がない。
我が家の車庫ダンジョンのインフレここに極まれりだ。
内訳的なものとしては、
1万6千円の大オーク魔石が862個。
大オークのタマタマは2個1セット税天引き後の買取価格がなんと5万円。税金無ければ25万もするんだな。どんだけ需要があるんだこれ。それが246セット。
そのほか灰色大狼の魔石やら爪やら牙やらもろもろ込めてのこの金額である。
結構かさばったが、軽トラの無限収納があるから運んでこれた。
軽トラから買い取り窓口までは、魔石とか、タマタマとか、スーパーのカゴに入れてまるでパチンコの玉のように運んできたよ。ネットからカゴを100個単位で買っておいて良かった。
「……武田様? つい数日前に1千万に近い額の売却をされたばっかりですよね? たった2~3日でここまでのドロップ品を集めたという事ですか……?」
おっと、ダンジョン購入の件があるからと直接対応してくれた所長さんだが、その顔が引きつっているぞ。
「……異質化した軽トラやそちらの美剣さんの能力ですか? あ、いや、詮索してはいけませんね。……これで、これで! この支部も全国区の売り上げを上げることが出来ます! これで、人員増加に給料も上がるかも! 武田様! ほんとうにありがとうございます!」
「あっはい」
そのあとで所長さん待望の、熊岱市ダンジョンの買取も行った。ダンジョン代160万円と税金80万円も含め一括購入。
ダンジョンが安く感じるこの不思議よ。
同時に、差し押さえされて競売に出されていた周辺の土地と建築会社の入っていたビルを買うには管轄が県庁になるそうで、この後そちらにも寄る予定。
ちなみに両方合わせて800万円と結構手ごろな値段設定であった。
なお、今回の売却益は、マナミサンと美剣の強い希望で全てパーティー共有費にさせてもらった。
ふたりとも、けっこうお金が貯まったからまだいらない。逆にもらっても使い道に困る。今回は土地建物も合わせて買いましょうと一晩中説得されオレが折れた形だ。
まあ、これであのダンジョンの一帯はすべてオレたちの物になったのであった。
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