第113話 捜索⑨


「どうするにゃ?」


 フォーク手裏剣もどきを構える美剣みけが訊いてくる。


 ダークゾーン内、暗闇での狙撃、投擲。


 射撃武器に特化した者が暗闇での戦闘を繰り返すと、レベルアップの恩恵等で『暗視』が生えてくる場合もあるらしいが、隊長ズは拳銃だけを使うというわけではなく、また、暗闇で戦闘するという経験は普段ないのだろう。暗視スキルは持っていないようだ。


 それに対して美剣はネコ特有の、人間の6~8倍の暗視能力という生物本来の能力がある。


 だが、手持ちの弾フォークとかは最大4発。10匹以上はいるコウモリに対しては手数が足りなすぎる。




「ダメ元で、ちょっと試してみるか」


 オレは、軽トラのクラクションを思いっきり鳴らした!


 コウモリは自分の位置を特定するのに視覚ではなく超音波を発していると聞いたことがある。

 ならば、おなじ『音』であるクラクションで何とかならないだろうか?


 そう思って試してみたのだが、


「にゃー。コウモリ共がボタボタと落ちてきたニャ」


 どうやら効果があったらしい。


 本来はクラクションごときの音でコウモリを駆除するのは無理らしいのだが、【異質化】軽トラの能力だろうか? 見事、クラクションは超音波と化してコウモリの平衡感覚を奪ったらしい。


 だが、中にはレジストしたのか、まだ元気に飛び回っている個体も5匹以上残っている。


「にゃー! これでもくらえにゃ!」


 叫び声と共に美剣が投擲したのは―――割り箸。


 某ホームセンターで売っているお徳用割り箸100膳パック。その包装ビニールを解いて紙の箸袋から外して次々美剣に渡すマナミサン。なんだこのコンビネーションは!


 そうして、すべてのコウモリを地に落とすことに成功する。



「「おいおい、あんちゃん! 効いたからよかったが、そもそも魔物のコウモリが実際のコウモリみたいに超音波使ってるとは限らねえんだぞ?」」


 隊長ズからツッコミが入る。


 くっ……! さすが国民の安全を守る職業の方たちだけあって指摘が的確だ!



 確かに、美剣の投擲がなければ倒しきれなかったわけだが、それでもコウモリの大半を行動不能にしたのはオレなのだ。


「大丈夫ニャ。ご主人とけいとらに任せておけば安心ニャよ」


「そうです。先輩と軽トラは頼りがいがあるんですから!」


 おお、美剣とマナミサンがオレの擁護に回ってくれた!

 だが、微妙にオレのフォローと言うよりも軽トラを褒めているような?


 まあいい。軽トラを扱っている運転のはオレだ。つまり、軽トラが褒められるということは、オレが褒められていると同義なはずだと自分に言い聞かせながら、床に落ちてもがいているコウモリ共を次々と軽トラで轢き潰していく。


「「なんか……エグいな……」」


 ぐちゃぐちゃと音をたてて肉をタイヤで潰していく感覚が体に伝わってくる。


 このダンジョン内で倒した魔物の血とか肉片とかも光の粒子になって消えるのかな?

 もし消えないなら、家に帰るとき真っ赤な血で染まった軽トラで公道を走る羽目になってしまう。通報されると困るなと思いながらも、今荷台に警察官機動隊隊長が乗っていることを思うと不思議な気持ちになる。さすがにオレたちが帰るころには隊長ズは降りているだろうが。まあ、なるようになるだろう。


 この玄室が袋小路であることを確認し、オレ達はほかの通路へと軽トラを進ませた。



 


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