第111話 捜索⑦

 ここは、陽介君たちを見事に救出して、オレの株を上げなければ!


 そんな決意を新たに、ダンジョンの中を軽トラで進んでいく。


 その途中、オレの三半規管に一瞬の違和感が生じる。


「にゃー、今なんか目が回ったニャよ」


 軽トラフロントガラスのHUDヘッドアップディスプレイに投影されたマップを見ると、案の定自分の向いている方向がさっきと異なっている。


 これは、回転床だ。


 某線画ダンジョンゲームでも厄介だった仕掛け。ダンジョン内の同じような風景の中で、突然自分の向いている方向を変えられてしまえば、よっぽど気をつけていない限り迷わないはずがない。まして、ここはダークゾーンの真っただ中なのだ。


 まあ、実際にターンテーブルのような装置で回されたのなら慣性が働いて転倒したりしそうだから大体の方向は感覚でわかるかもしれないが、ダンジョン内のそれは空間そのものに干渉してくるので、美剣みけのような動物的な勘でも持っていなければなかなか気づけないだろう。


 じゃあ、なんでオレがそれに気づいたのかって? 


「「あんちゃん、よく気づけたな。俺たちは訓練されているからどうにか気づけたが、素人には難しいだろうに」」


 

 いや、長文を一字一句たがわず二人で同時にしゃべるほど難しくはないぞ?


 実は、オレは昔から微妙な気圧の変化に敏感なのだ。天気の変わり目さえ予想がつくほどに。おかげで、トンネルの中に入った時などは常に唾をのんで耳の空気抜きをしなければならないほど違和感を多く感じたり、台風が来るとなれば体調を崩してしまうほどだ。

 今回の場合、方向の転換と気圧がどう関連しているのかはわからないが、身体を取り巻く空気が一瞬で移動したような感覚がしたため、事前の知識と照らし合わせ回転床に気付けたというわけだ。


「たぶん、さっきの向きから右に90度回らされた。」


「「「おお、そんなことまでわかるのか(にゃ)」」」


 やばい、美剣まで隊長ズにシンクロし始めたぞ。


 方向か? なんでそんなことまでわかるのかって?


 何のことはない。


 カーナビの自分の方向を確認しただけだ。


「「「「……」」」」


 やばい、マナミサンまでもがシンクロの仲間に。


 まあ、仕方ないか。せっかく回転床に気付いて少しは株が上がったかと思ったのに、結局は軽トラの能力頼みなのだから……



 しかし、これで陽介君たちの未帰還の理由は分かった。


 十中八九、ここの回転床で迷ったのだろう。


 オレ達は軽トラカーナビがあるから何のことはないが、事前に磁力コンパスでも準備して、じっくりコンパスを見ていなければ方向を変えられたことにすら気づくまい。


 と、いうことはだ。


 陽介君たちは、この付近にいるはずだ。

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