第6話 脱サラダンジョン①

 自宅車庫に突然発生したダンジョン。その調査隊が派遣され、調査に立ち会った次の日、軽トラを失ったオレは、バスを使って出勤した。

 

 都会と違って電車なんて各市町村間をつなぐような路線しかなく、市内の外れから中心部に通う足とはなり得ない。


 それに田舎のバスというものは本数がやたらと少なくて使い勝手が悪く、いつもより30分も早く職場に到着してしまった。でもまあ、通勤時間帯にバスがあるだけありがたいと思うしかない。


 就業開始時間にはまだ早いが、昨日休んだことでデスクの上に山盛りにされている書類の山に取り掛かる。



「あら? 武田さん? 今日は早いんですね。おはようございます!」


 元気に声をかけてきてくれたのは、同じ部署に努める新人OLの早坂さんだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 ちなみにオレの名前は武田佳樹たけだよしき。32歳の独身だ。


 両親は約10年前、オレが大学を卒業する間際に相次いで病気でこの世を去っている。両親とも、癌になりやすい家系だったようで、オレも注意が必要だ。

 

 姉が一人いるが、仙台市の方に嫁いでおり、自宅にはいない。ちなみに、姉とは3歳差、10歳になる姪と8歳になる甥がいて、オレの事をおじさんと呼んでくれるかわいいやつらだ。



 というわけで、オレは自宅に一人暮らし。誰に気遣う事もない花の独身貴族だ。


 軽トラは、死んだ親父が農作業で使っていたものをそのまま譲り受けた。

 オレはファッションとか車とかに無頓着なので、特に抵抗もなく、社会人1年目から乗っていた。


 おやじたちが手掛けていた農地は結構な広さで田んぼと畑があるのだが、オレは農業に明るくないので、近くに住んでいる血縁の遠い親戚に貸し出す形で毎年わずかながらの小作料をもらっているという感じだ。


 で、オレが就職したのは地元の総合商社。

 

 大学を卒業するとき、そのまま都会に残りたい気持ちもあったし、当時付き合っていた彼女もいたのだが、両親が他界した後であり姉もすでに嫁いでいたため、実家が空き家になってしまう事がなんとなく嫌で地元に帰ることを決意した。


 その時の彼女とは、数年は遠距離で続いていたが、やはり距離という障害には勝てず自然消滅してしまった。


 そして現在に至る。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 で、約10年勤めているこの会社。田舎なので電化製品、ストーブからトラクターまで何でも扱う田舎の便利屋的総合商社だ。


 そこに今年採用になった、高校を卒業したばかりの早坂真奈美さんは、きれいというよりはかわいい系の、元気いっぱいの19歳だ。


「ああ、おはよう。車使えなくなっちゃってバスで来たからね。それに、昨日休んじゃったからちょうどいいよ。」


「あ、そういえば、部長から聞きました。ダンジョンできたんですって? うわ~、いいなあ~。ウチにもできないかな~」


「ははっ、そんないいもんじゃないよ。実際、昨日査定してもらったけど売っても二束三文だし……」



そんな会話を早坂さんとしていた時、癇に障る声が耳に届く。


「おや~、昨日休んだタケダクンじゃないですか~。突然休んだくせに、出社早々女子社員にちょっかいですかぁ~? いい身分ですね~」

 


……にゃろう。


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