ドSロリこと、許斐 姫華。 後編
――やがて昼休みとなり、私は相変わらず美紀と二人で屋上でお昼を食べている。
「いやぁーびっくりしたよ! まさかあの姫華が、他人と話しているなんて……」
お弁当のおかずをつまみながら、美紀が先程の事を早速話題に出す。
「そこまで不思議がる事でもないでしょう……。確かに私は、あまり人と話さないけど」
「あまりどころじゃないよ! 相当だよ! 証拠に今まで友達が全く出来なかったじゃない! 私、割と本気で心配してたんだからね?」
声を大にして抗議する美紀。確かに、友達が居ない事は事実だけど……そこまで心配する程の事でもないでしょうに。
「はいはい分かったわ……私が悪かった、心配してくれてありがとう。これでいい?」
「そう、分かればヨロシ! 全く姫華は素直じゃないんだから!」
「……何か釈然としないわ。まあ良いけど」
「それで、さっきの子とは友達になったの?」
間髪いれずに、怒涛の質問攻めが始まる。
「まあ、あっちがどう考えてるかは知らないけど、とりあえず知り合いではあると思うわ」
「趣味とか聞いた? 遊びに行く約束した? ぱんつもらった?」
「趣味というか、部活は陸上部に入ってるらしいわ。ちなみに知り合ってすぐ、遊ぶ約束を交わせる程私は人間出来ていないわ。そしてさりげなく変態的な事を聞くのは止めなさい」
美紀のお弁当に入っていた卵焼きを取って食べながら、私は冷静にツッコミを入れる。
「あー! さりげなく卵焼き食べたね今! それだったらこっちのトマト食べてよ、もう!」
そう文句を言いながら、フォークで刺したトマトを私の口元に持ってくる美紀。
「ただ自分の嫌いなものを押しつけてるだけでしょうそれは……。はぁ、しょうがないわね」
そう呟きながら、渋々差し出されたトマトを食べる私。
そんな時、丁度良いと言わんばかりのタイミングで屋上の扉が開く。
「あ、やっと見つけた許……斐さん?」
「――あ」
思わず、口を開けたまま固まる私。
お互いに目が合い、硬直する。しばらく全員が固まっていたが、藤乃さんが先に口を開いた。
「お、お邪魔しましたー……」
そう消え入るような声で呟き、静かに扉を閉め彼女は去って行った。
「……どうしたのかしら、彼女」
トマトを食べながら、先程の彼女の不可解な行動の意味を考える。
「いや、今の状況……傍からみたら恋人同士が、あーんってしながらイチャついて弁当を食べてる風に見えなくも……なかったような?」
「ふふ、美紀……流石にそれはないでしょう。だって同性よ?」
「今の時代、同性愛も多いらしいよ?」
「……これはまずいわ。初めて出来た友達に、妙なレッテルを貼られるのは」
しばし考えた後、私は美紀に向けて一言呟く。
「これ、どうしてくれるのよ」
「私のせいかよ」
それからというもの、結局誤解を解くのに半日費やした。
まあ最終的に、あなたも同じ趣味なの? って言ったら分かってもらえた。
「いやぁー今日も終わった終わったー!」
そして少し経ち、今はもう放課後。帰路の途中の私達二人。
緑生い茂る
「そういえばここって、何で
「そんなね、学校の近くだから桜しか植えちゃいけないなんて風潮はないんだよ!」
「いや、別に銀杏を馬鹿にしてるわけじゃないのよ? 秋になれば綺麗だと思うし」
ただ何というか、凄く春って感じがしない。
「まあ、確かに他の道とかで桜咲いてるの見ちゃうとねー。見劣りするといいますか」
美紀が周りを見渡しながら、そんな事を口走る。
「ふふ、それだと美紀の方が馬鹿にしているように聞こえるけど?」
「えっ! ちょっ……そんなことないやい! 銀杏リスペクトしてるもんね! 桜なんかより銀杏派だし!」
私のツッコミに、なんだか意味の分からない事を言いながら、誤魔化そうとする美紀。
「じゃあ今日の、桜餅を食べるのは無しって事で……。桜嫌いな人が食べるのはいけないと思うわ」
「ううん違うよ姫華! 和菓子は全てを包み込んでくれる! だから桜餅は食べてもいいんだよ! というわけで行こーう!」
やや強引な言い訳を言って、私の手を取り突然走り出す美紀。
「全く……相変わらず意味が分からないわ、美紀は」
思えば、あの頃もこんな美紀の笑顔に助けられていた。
――あの頃の私にとって、かけがえのない支えでもあって。
そんな美紀の笑顔は、今でも変わらず……確かにここにあって。
彼女の笑顔を見ていると、ちっぽけな事で悩んでいた事が馬鹿らしくなるくらいに。
生きるとは何か、なんて事を度々考える時がある。
結論など決まって出はしない、不毛な事であると理解はしているつもりだ。
しかし、そう分かってはいるものの、ついつい考えてしまうものである。
それはきっと、今という現実に楽しみを得ていないのだからだと思う。
……いや、少し違ったわ。
それはきっと、今ある身近な幸せに気づいていない不幸者……だからなのかもしれないわ。
今なら、私はそう思える。美紀のおかげでね。
ふふ……お昼の疑惑、あながち間違いではなかったのかもしれない、なんて。
やがて美紀の明るい笑顔に思わず微笑み返しながら、私は静かに呟いた。
「……とりあえず、は、走るのは……止めましょう……」
「えぇ……台無し……。体力なさすぎだよ姫華っ!」
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