ASMRは世界を救う義務教育

「ゼラの部屋はここ。僕の隣だけどいい?」

「別に、引きこもれるならどこでも」

「ねぇ、やっと外に出られるようになったんじゃないの」

「そう。だから、もう、今日は、疲れた」

「さいですか」

「もう寝たい。お布団に包まりたい」

「あ、悪いけど、まだゼラの荷物届いてないよ。布団も」

「なんで!?」

「明日って言ってた」

「じゃあ、それまでうちはどうしたらいいの!」

「僕の部屋でゲームでもしてる?」

「PvP系は嫌だよ」

「僕も嫌だ」

「協力プレイとかってやつもダメ」

「僕も無理だな」

「じゃあ、2人でとかもっと無理じゃん! この万年ソロプレイヤーめ!」

「まぁ、別に会ったからって特別なことしなくてもいいだろう」

「うむ、それもそうだね」

「いつも通り、ダラダラソシャゲを周回しながら、アニメ見たりダラダラ話したり、そんなんでいいでしょ」

「さんせーい」

「んじゃ、僕ベッド使うから、ゼラはソファーね」

「なんでよー! こういう時はレディーを優先させるんじゃないの!?」

「僕がそんな配慮するタイプだと思う?」

「言われれば、確かにしないかも……。じゃあ、せめてかけるもの貸してよ」

「ブランケットでいい?」

「うん」

 僕たちはお互いゴロゴロしながらスマホをポチポチしていた。

「ゼラ~、なんか適当にようつべとか流してよ」

「適当って何? クイズ〇ックとか?」

「頭使うじゃん。脳死で聞ける奴がいい」

「じゃあ、ライバーの配信とか」

「いいね。僕あれ好き、絶壁の錬金術師の配信。あの人の雑談配信マジ良き。友達かって幻視視してしまうほどのクオリティだ」

「うち的にはね。やっぱこれでしょ」

 ゼラが見せてきたスマホの画面に映っていたのは、以前話題に上がった小悪魔系Vuber黒百合クロネ。

 ちょっとエッチなASMR配信だけでなく、ゲーム実況、雑談配信、お歌配信などその活動内容は様々。

 現個人勢Vtuberのトップに立つ人だ。

 視聴者たちを魅惑に煽る様を見て虜になるファンは多い。

 小悪魔系と聞いてただの口調が強い配信者と思うなかれ。



 この小悪魔は甘やかし上手なのだ!

 


 普段の配信では毒を吐きまくるドS女だが、ASMRが始まったとたん、急に母性を全開放し、その結果、100万人以上の赤ちゃんが生まれてしまった。

 彼女のASMR配信を聞いた者たちは例外なく、コメント欄に「ばぶー」と幼児退行した文字が打ち込まれるほどだ。



「んで、そんなエッチなチャンネルの動画を僕と見て何する気?」

「いや、何もしないって。というかなんでASMR見る前提なの?」

「違うのか?」

「そんな無垢な瞳で見られても困るんだけど。普通にゲーム実況とかさ」

「じゃあ、適当にその辺流して」

「はいはい」

 そう言ってゼラが再生したのは最近発売されたばかりのホラゲの実況動画だった。

「なぁ、ゼラ。聞いてもいい?」

「なに?」

「お前、人見知りじゃん。なのに、なんでうちに来ようと思ったのさ」

「え、それ今聞く? ホラゲーのプレイ実況流してるタイミングで聞くことじゃないと思うんだけど」

「いや、なんかこんな感じの雰囲気なら話しづらくならなそうかなぁと思って」

「気の使い方下手くそ過ぎない?」

「で、どうなんだ?」

「どうって?」

「だから、ここに来た理由だよ。僕は正直、来るわけないと思っていたから」

「なに? うちと一緒じゃ嫌ってこと?」

「そうじゃない。僕たちは不登校同盟を結んだ仲だ。そんなお前がなんで学校なんかに行く気になって、しかも、国まで超えてここに来たんだよ」

「そんなの決まってるじゃん。



レンが羨ましかったから」



「………………え、お前、魔王になりたいの?」

「いや、そんなの絶対になりたくないけど。…………へ? 魔王? 待って、なにそれ。何の話」

「あ、」

 やべ。そうだ。まだ、ゼラには魔王のこと話してなかった。どうしよう、これ。

 ゼラはソファーから飛び起き、ベッドで横になっていた僕の上に乗る。

「ねぇ、魔王って何? レン、魔王になるの? でも、レンって人間だよね? 魔族じゃないよね?」

 そして、めちゃめちゃ追及してくる。

 まずいなぁ。ゼラが完全にこっちに興味を持ってしまった。

 ゼラのこと聞くはずだったのに、これじゃあもう無理じゃん。余計なこと口走った。

 仕方がないか。まぁ、ゼラにだったら別に言ってもいいだろうし。

「実はさ……」




 全部包み欠かさず、ゼラに話した。

 魔王候補のこと、プリムラのこと、梗夜きょうや君たちのこと。

 その全て。

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