自己肯定感の低い僕は魔王にならない
結生
序章
クソデカ武器×女の子っていいよね
ここは地球。
だが、君たちの知る地球とは少々異なる。大きな違いを上げるとしたら2つ。
1つは魔法が存在すること。
人は生まれながらに魔力を持ち、魔法と科学を使い文明を発展させてきた。
もう1つは魔族の存在だ。
魔族とは人間より遥かに多い魔力を有した生物の総称である。
2千年前、魔界から侵攻してきた魔族と人間は戦争を繰り返し、それは今も続いている。
そして、そんな魔族たちの王を人は魔王と呼んでいる。
******************
9月1日(火)
「あ、もう朝じゃん。寝よ」
ネットの友達とゲームをしていたら、時刻は朝の6時を回っていた。
僕はカーテンを閉め、布団に包まる。
あー、やっぱ徹夜した後、社会人が動き出す時間帯に寝始めるのは最高だなぁ~。
いい感じに睡魔が襲ってきて寝れそうだな~ってなった頃。
「レンちゃ~ん、もう朝よー。起きてー」
お母さんが起こしに来た。
「今から寝るところなんだけど」
「でも、今日から学校でしょ?」
「何言ってるの? 今日は8月17日だよ。まだ夏休み」
「もしかして、エンドレスエイト見た?」
お母さんは現実を教えるかのように、スマホに表示された日時を見せつけてきた。
「ほら、今日は9月1日」
「嫌!」
僕は現実と共にスマホからも目を逸らした。
「そう言って、いつも学校行かないじゃない」
「そんなことない。1学期は7日も登校した」
「このペースじゃ留年確定よ?」
「別に退学でもいい。学校なんかに行く意味なんてないし。お母さんも知ってるでしょ」
そう、学校に行ったって何の意味もない。
だって、僕は何をやってもダメな人間なんだから。
勉強はろくに出来なくて、テストはいつも0点。運動も魔法も全然ダメで、学校で一番成績が悪い。落ちこぼれ。
そのせいでいつも学校のみんなからバカにされる。
「だから、学校には絶対に行かない」
「でも、そんなこと言ってたら、レンくんの夢は叶わないわよ?」
「僕の夢?」
そんなの母さんに話したっけ?
「ほら、レンくん言ってたじゃない。将来は勇者になって世界を救うんだって」
「ぶふーーー!!!!!」
思わず吹き出してしまった。
「それは子供のころの話でしょ! 僕はもう16だよ!」
「あら? 16だってまだ子供よ」
母さんから見たらそうかもしれないけれど、今は子供扱いされたくないお年頃なの理解して。
「とにかく! 僕は学校に行かないからね!」
「もう、しょうがない子ね~」
母さんは結構甘々なので、無理に学校に行かせようとはしないし、怒ったりもしない。
現に毎回0点のテストを差し出しても、「しょうがない子ね~」の一言で済ませてしまう。
「でも、お客さんが来ているから下には降りてきて頂戴ね」
「お客さん?」
誰だろう? こんな朝早くに。
もしかして、先生とか? え、それなら行きたくない。
「僕は行かないから。帰ってもらって」
「あらあら、困った子ね」
困ったと口にするが、あまり困っている感じが全く伝わってこない。
相も変わらずふわふわとした人だ。
「お母様、どうかされましたか?」
と、部屋の外から知らない女の人の声が聞こえた。
「ごめんなさいね、うちの子が出てこなくて」
「そうですか。では、後は私に任せて、お母様は下で待っていてください」
「そう? じゃあ、お願いするわね」
それだけ言い残し、お母さんは部屋を出ていった。
お母さんと話しているのは誰だろうか?
聞いたことない声だ。先生かと思ったがそうではない気がする。
「入るぞ」
え、ちょま……。
布団から飛び起き、扉の方を見ると、僕とそう変わらない年のメイド服を着た少女が立っていた。
「お前が
「え、あ……」
自分の名を呼ばれたが上手く反応できなかった。
それもそのはず、だって彼女はとても美しかったから。
顔立ちは綺麗で、スタイルもいい。そして、何より目を引くのは光って見える長い銀色の髪だ。
「ふむ、聞いていた通りのアホ面だな」
僕が呆けていると彼女はそう罵倒してきた。
「君は一体……」
この子は一体何なのだ?
いきなり人のうちに上がり込んできて、こんな失礼な態度を取るなんて。
どこかで会った?
うんん、彼女のような人に一度でも会えばそう忘れるようなことはない。
というか、なんでメイド服? 誰かに仕えているの?
ってことはじゃあ、彼女はその主の使い?
でも、メイドを従えるような知り合いに心当たりはないけど……。
「私の名前はプリムラ。お前を一人前の魔王にするためにやってきた」
「へ?」
今、この人なんて言った? 魔王? 誰が?
「どうした? 聞こえなかったのか? 私はお前を魔王にするために派遣された教育係と言ったのだ」
「いや、聞こえていた。聞こえていたんだけど、その言っている意味が分からない」
「意味が分からない? なるほど、頭が悪いと聞いていたが、言語能力にここまで難があるとは」
「いや、そう言うことじゃないから!?」
この子、表情や声のトーンが全く変わらないから冗談で言っているのか、本気で言っているのか判断がつかない。
「なら、魔王が何か知らないのか。確かに引きこもりでは世俗に疎いか」
「そ、そんなことないやい! 知ってるもん! あれでしょ? 魔族で一番偉い人でしょ? それでその魔王は数年に一度代替わりしてるって。後、今の魔王は魔族からの支持率が結構高くて人気だって聞いた。」
「ツイ〇ターか」
「な! 引きこもりがみんなツ〇ッターで情報を得てるとか、偏見だ!」
「違うのか?」
「………………いえ、そうです……」
「なら、世界で今何が起きているか全く知らないわけでないな」
「そりゃまぁ、一般常識くらいは知ってるよ……」
「なら、私の言ったことも分かるはずだ。お前は次期魔王候補に選ばれた。大人しく私の教育を受けろ」
「いやいやいやいやいや、無理。マジ無理。ホント無理。
出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ない出来ないムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ。
だって僕は自己肯定感最底辺のゴミくずなんだから。
それに魔王候補とか分けわかんないし、百歩譲ってそれを飲み込んだところで、魔王になれるわけがない。それに他にも分からないことだらけだし」
「例えば?」
「どうして、僕が魔王候補に選ばれたのかとか、プリムラはどう見ても人間なのに魔王候補の教育係をやるのかとか、メイド服着ている理由とか、他にもいろいろ」
「それを一から説明してやってもいいが、いきなり全部話したって理解できないだろうし、飽きるだろ。お前と、あと読者」
「いきなりのメタ発言!?」
まだ1話目なんだけど!? 新規読者来なくなっちゃうよ!?
「まず、お前には11人の仲間を作ってもらう」
「話進めないでもらっていい? これじゃ僕が魔王を目指す流れになっちゃうじゃん」
「この11人とは将来、魔王になった時、魔王軍の幹部となる者たちだ」
「あ、無視ですか。そうですか」
「なるべく、腕の立つ者がいいが、心当たりはあるか?」
「…………ツイッタ〇で募集するとか?」
「ネットには友達いるのか。ロム専だと思ってた」
「ロム専って今日日聞かないけど。伝わらない可能性のある単語をさも当然のように使うのは良くないってネットで見たよ」
「しかし、ネットは危険だ。変な宗教やビジネスの話を持ってくる奴を引いてしまう可能性がある。やはり、現実で知り合った者でないと信頼性に欠けるな」
「この仲間集め必要? 僕なんかについてきてくれる人なんかいるわけないし、そもそも魔王になれるわけないし」
「お前は魔王候補に選ばれた。だが、他にも魔王になる為に必要な条件というものがある。その一つが11人の幹部を作ること。人望のない奴には誰もついてこないからな」
「じゃ、僕仲間集めやらないです」
そうだ。魔王にならなくていい方法があるのならそっち方面に全力疾走すればいい。
大体、仲間どころか友達すらまともに出来ないのにどうしろって言うんだよ。そんなに慕ってくれる友達いたら人生苦労してないし、引きこもりになってない。
「そうか、仕方ない。どうやらお前には言葉で説明するよりは――」
プリムラは右腕をグッと伸ばす。
「
そう呟いた瞬間、彼女の身長を超える巨大な鎌が出現した。
「体に覚えこませた方がよさそうだ」
「え……」
彼女は何のためらいもなくその鎌を真一文字に振るった。
「うわああああああ!!!!」
僕は勢い余って後ろにすっころぶが、そのおかげで鎌の攻撃を避けられた。
「なっ……」
後ろを振り向くと、窓が綺麗に切り裂かれていた。
どうやら、あの鎌は本物のようだ。
「教育的指導」
彼女は尻もちをついた僕に向かって鎌を振り下ろす。
「どわあ!!!」
急いで横に転がって鎌を躱す。
誰だ、あの人のこと人間って言ったのは。どう見ても死神じゃん!
「っち、避けたか」
「っちって! 今舌打ちした!」
「気のせいだ。それより私の課題をやる気になったか?」
「課題って言うかそのほら、あれ! これから、学校だから!」
僕は壁に掛けてあった制服と鞄をかっぱらい、部屋を飛び出す。
「逃がさない」
「ひいいいいい!!!!!」
転げ落ちるように階段を降り、制服を着ながらプリムラから逃げる。
「あら、レンちゃん。朝食は?」
「いらない! それより、学校行ってくる!」
「よかった。学校行く気になって」
別に学校に行きたいから行くのではないのだが、そんなこと一々言っている暇などない。
早く家から出ないと彼女が追ってくる。
「待ちなさい」
「き、きたーーーー!!!」
プリムラが鎌を振り回しながら、2階から飛び降りてきた。
「随分、賑やかね。プリムラちゃんはご飯食べてく?」
「お母様。お誘いはありがたいのですが、急ぎの用がありますので」
「残念。せっかく作ったのにレンくんも食べないって言うし……」
「そうですか。それでは……」
これを賑やかの一言で済ませることも、プリムラが持っている鎌のこともノータッチのお母さんは相変わらずとしか言いようがない。
とは言え、これはチャンスだ。
プリムラの意識がお母さんに向いているうちに逃げちゃえ。
「遠慮しなくていいのよ。だって、プリムラちゃんは今日から……」
お母さんとプリムラが何か話していたようだが、今はそれどころではない。
僕は自分の命を守る為に、急いで家の外に飛び出した。
「逃げられてしまったか。けど、どうせまたすぐに会える」
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