第19話 一階 一番怪しいエジーナの私室へ行ってみた!

 ──一階。


 応接間や大広間、キッチンこそあるが、モノロギ家一族の私室も連なっている。


「とにかく、エジーナの私室は怪しいのは、はっきりしているので、重点的に調べようと思う」


 真っ先に向かったのはエジーナの部屋。

 先の探索で見つけたメモの内容も気になるし、重要な秘密が隠されている可能性もある。

 例え、その場で秘密が解けなくても、秘密を解くための調査に集中すればいいだけのこと。


 そろそろ要件を済ませてくるだろうニッキーとの合流も考えれば、一階にいたほうがいいからね。


「俺とユルネは物理的なものを担当するから、リィノは【魔力感知】で気になるところを見つけてくれ」

「まぁ、判断としては妥当だねぇ、カラス」

「わかったわ、セオ」


 エジーナは当主代理とはいえ、今は主人。

 客間よりも広いのはもちろん、家具も充実している。

 くまなく探すとなると、この人数では一日費やしてもできるかどうか……。


「……当たりをつけるしかないか」

「そうだねぇ。あたしは金庫……ここには見当たらないね」


 金庫はもちろんのこと、カギの掛かった木箱のたぐいは見当たらなかった。


「本棚で最近よく読まれているだろう本から探してみるさ。月の雫っていうのは、何かの隠語だろうからね」

「あー……」


 ガーデニアのメモに書かれた人魚と月の雫のことも気になるな。

 ぱっと見、人魚や月に因んだものがなかったから、保留する気満々だったけど。


 隠語か。


 外部に秘密がもれないように、特定の仲間の間だけで通じるようにしているってか。


 俺はプリムス王国はもちろん、異世界ファーベル全体の文化に疎いから、それ系のネタには弱い。

 エジーナの部屋に所蔵されている本の中にヒントがある可能性は、はっきり言って五分五分だけど、無いとは断定できない。


 隠語大図鑑的な本があって、そこから調べられる可能性に賭けるのもありだと思う。


「俺は……ベッドの下あたりを探るか」


 カラスの小さな体を生かせそうなのが、そこしか思いつかなかった。

 人が入りにくそうな小さな隙間でかつ、隠し場所として重宝されやすいところと言えばそこじゃん。


 性癖しか隠されていないかもしれないけど、万が一ってこともあるじゃん。


 だから、俺は一縷の望みをかけて突き進むしかなかった。


「う~ん……紙媒体はなさそうだな」

 ズッポリと体ごと入った先には、布袋があった。

 エロ本ではないことに安堵したものの、まだ安心してはいけない。


「……袋の中にあるのは、この異世界特有の大人のおもちゃ的なモノかもしれないけど」

 俺はくちばしを使ってズールズールと器用に布袋をベッドの下から引きずり出した。


「あったからにはユルネと共に確認するしかないか」

 ここでユルネ指定なのは、彼女は見た目こそ小さいが、ハーフリングという種族特性で背が低いのであって、実年齢は成人だからだ。


 ゆえに一般的な知識……大人のおもちゃのこともある程度の知識があるだろうよ。


 純粋培養気味のリィノとは違うのだよ!


 ……セクハラで訴えられそうだが、そうなったらそうなったで、故郷のカラスの里では見たことがなかったのだと反論して、話を濁してやる。


「はぁ……。どうやら本棚はハズレのようだねぇ。最近動かした痕跡が全くない」

 ユルネのほうは空振りだったらしく、深いため息を漏らしていた。


 これは、声をかけるチャンスだ。


「ねぇねぇ、ユルネ。ちょっといいかな」

 袋をとりあえず足元に置き、くちばしを大きく広げ、声を出す。

 気づいてもらえるよう、羽もバサバサとしておく。


「ん。カラス、何か見つけたのかい」

 俺の羽ばたきダンスを感じ取ったユルネがしゃがみ込み、視線を俺に合わせてくる。


 この女……デキる。


 しかも、目ざとく俺の足元にある袋を注視してきた。


「その袋、どこで見つけてきた?」

「ベッドの下から」

 俺は正直に答えた。


「あ~……」

 ユルネは先ほどの俺と同じような考えに至ったようで微妙な顔をするが、無視できない情報を呟きだす。


「サズオクベ家の紋章が描かれているからねぇ。詳しく調べないといけないねぇ」

「!」

 まだ中身を確認していないけど……もし、この袋の中身が俺が当初予想した通り、大人のおもちゃ的なモノだった場合は、恨んでも致し方なしと、サズオクベ家に同情しちゃいそうだ。


 プリムス王国の文化に明るくない俺でも、家の紋章はその家の誇りであって、いたずらでも汚してはいけないのだということを知っている。


 友好の証に紋章が記された道具を交換し合い、消耗品だとしても大事に使い続けることで相手への礼儀とする、という。


 使うこと自体には問題ないのだが……なんていうものを入れちゃっているの!


 アダルトなグッズを入れられたから、こんな不可解な事件が起きたなんて……痴情のもつれでも、もう少し考えてくれ。

 そんなエロスの塊が原因の一端にならないでくれ。


 俺はこんな動機は嫌だ!


 頼む。


 違うものであってくれ!


 そんな俺の願いが叶ったのか、アダルトなグッズからは外れていた。


 そこは、よかった。

 ただし、いやらしさという意味ではベクトルが違くてもあっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る