第2話 エルフっ娘を期待している人に残念なお知らせがある。事件を持ち込んでくる刑事ポジションの奴が先に登場していたわ
日課の空中散歩を終え、俺用の出入り口から家に入ると、犯罪捜査を行う町の警備員、日本なら刑事に近い職業についているヒト族の青年がいた。
「こんにちは、ニッキー」
彼の名はニコラス・ブライアント。愛称はニッキー。
アルカナムがらみの怪奇事件を持ってきてくれることもある、俺らのビジネスパートナーだ。
「この前の事件の報告書はもう出したよな。それともなんか不備があったか?」
「いや。新しい事件だよ。今日、人気のない場所で、身元不明の老婆の遺体が発見されてね」
……そう、持ってきてくれることもある、である。
アルカナムが原因なのか、まだ判別できない状態でも、怪奇事件はすぐに俺らのところに連絡してくる。
警察なら、案件をすぐ他所に持っていくなんて、職務怠慢じゃねぇかって思う方もいらっしゃるだろうが……ここは異世界だ。
あと、正確には警察じゃないし。
俺がわかりやすく、前世の記憶をもとに、最も近いだろう職業を勝手に当てはめているだけだ。
ニッキーは町の治安維持活動をメインとした公職、プリンケプス警備隊に所属している。正式職業名称・警備兵という軍人だ。
軍人が民衆に協力を求めるかって?
そこら辺はこの国独特の社会構造的なものも絡んでいるから、一概に変だと断定しちゃぁいけないよ。
少なくともプリムス王国では、怪奇事件と一度判定されたら、俺が所属するアルカナム興信所や、神聖魔法の権威である教会、魔法のことならなんでもござれの魔法ギルドにも、事件のことを通達する義務が発生する。
不思議な力によって引き起こされた事件に対しては、面子とか関係なしに、みんなで知恵を絞って解決させようって協定があるそうだ。
なんでそうなっているのか、俺は知らんけど。
特有の文化ってことで、受け入れるしかない。
「身元不明の老婆の遺体、ね……。単純に徘徊老人じゃないの?」
「最初はそう考えられたけど、遺体の衣服からおかしな点があってね……」
衣服に縫い付けられた、小銭と家族の絵。
故郷を離れ、出稼ぎにきた人がよくやる、もしもの時の自衛手段だ。
小銭は交通費、家族の絵は精神安定剤替わり。理にかなっている。
この時点ならまだ何の不思議はなかっただろう。
なお、なぜ家族の絵なのかというと、異世界ファーベルは映像技術が地球より発達していないので、写真はなく、手書きなのだ。ただし、魔法技術がある程度カバーしているので、写真のような本物に近い絵。
正式名称、
その場で目視したモノを一瞬で描くのが一般的な使い方だが、透視や千里眼でみたモノも一瞬で絵として残せるという。そういったところから、目に映ったモノというより、脳に記憶されたモノが、
記憶が残っているなら、過去のモノも描けるわけだ。
魔法社会で発展した道具らしいといえば道具らしい、不思議な道具だ。
「で、その描かれた人物……数年前に事業が失敗して転落した元経営者として、ちょっと話題になった人物でね。家族構成も、本人と妻、一人息子に数人の娘。本人と妻の父母は既に他界済み。少なくても家族の中に老婆はいないはずだ」
「へ~」
「極めつけは、右肩の三つのほくろ。娘の一人にあった身体的な特徴と一致している」
「……つまり、ニッキーはその元経営者の娘さんが、何らかしらの方法で老婆にされ、殺されたって言いたいのか」
元経営者ってところから、いろいろ恨みを買っていそうだし。
ニッキーがなんで元経営者とその娘のことを知っているか、少し気になるところだが、アルカナム興信所に持ってきた案件としては納得できる。
「もし、そうなら……ひでぇことする奴がいるものだな」
「ああ、全くだ。犯人を捕まえ、罪を償わせなければならない」
憶測の段階とはいえ、俺の享年よりも若い娘さんを老婆にして殺すなんて、想像しただけでゾッとするしかない。
被害者の無念を晴らしたくなると同時に、そんな惨いことをする殺人鬼を野放しにしておくわけにはいかないだろう。
たとえ、どんな事情があったとしてもだ。
人を殺した時点で、秩序を乱した異常者だ。法による治世を尊ぶこの社会において、償いの機会を与えなければならない。
今は不思議生物的なカラスでも、ニッキーの義憤に共感する。
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