2-1 七原ユウという人間
「じゃ、今晩な」
「はい」
俺は部屋の前まで着くと、簡単に挨拶をして別れ、お互いの部屋へと入った。
時刻は午後3時を回ったぐらい。ご飯まで少し時間があるな。
そう思った俺は徐ろにパソコンを開いた。
今の俺は無職だ。金を稼ぐ当てもない。しかし、金の使い道はなかったからそれなりに貯金はある。そんな俺が手を出すと言ったらーー。
「うーん…ここで買いか?」
投資だった。
友人からやり方を教わったとは言え、素人も素人。まぁ、取り敢えず当たったら凄い額になるとこを買っておく。
あとは時の運。今日は美女との食事だ。ちゃんとおめかしして楽しんで、明日からはちゃんと就活をして頑張っていこう。
そう、思っていた。
「なんでだ」
「? 何がですか?」
七原は俺の部屋の玄関前で、本当に不思議そうに首を傾げた。
いや、何がですかじゃないよ君。
「これからご飯なんだよな?」
「はい」
「じゃあ何だ? その手に持ってるビニール袋は?」
「食料ですよ?」
だ・か・ら!
「何で食料を持ってるんだよ……!!」
いや、確かにご飯をご馳走してくれるとは言った。普通はご飯を奢ってくれるとかそういうのじゃないのか?
「あ、あの、ご迷惑でしたか……そうですよね。私の作ったご飯なんて食べたくないですよね……やっぱり私って死んだ方が良いんだ……」
「……いや、取り敢えず腹減ったから早く作って貰っても良いか?」
「は、はい!」
俺は彼女の言葉を有耶無耶にするかの様に、料理を勧めた。
これでまた自殺しようとするもんなら、これは確実に俺の所為だ。
どっかの誰かが死んだって何とも思わないが、知り合いが死んだとなれば少しは嘘だろ? っという感情に心が支配される。
それが友人や恋人となれば……それは忘れられない、最悪の心境になる。
俺もフラれた瞬間、そうだった。
「あまり汚すなよ」
「はい!!」
俺は冷静を装うかの様に、少し冷たく七原さんへと接する。だが彼女はそれを嬉しそうに受け入れ、材料を出していた。
「材料的に……シチューか?」
「あ、え? いえ、ボルシチを作ろうかなと」
……そんな驚かなくて良いだろ。分かんなかったんだから。というかボルシチって、確かロシアの伝統的料理だったよな?
「やっぱりロシアのハーフか何かなのか?」
俺が聞くと、七原は材料を切り分けながら頷いた。
「まぁ、お婆ちゃんがロシア人なのでロシア語とかは少ししか喋らないですけど」
七原は笑顔で話した。
て事はクォーター。4分の1ロシアの血が流れてるって訳か。やっぱりこの顔のパーツの整い方、そうだよな。
「まだ暫く掛かるので座って待っていて下さい」
「お、おう。そうか」
そう言われると有難い。
俺は早足で、リビングへと向かった。
「ふう〜…」
そして数十分後。俺はベランダでいつもより大きく煙草を吸って吐いた。
ハッキリ言って、彼女が此処に来るとは予想外と言わざるを得なかった。元カノ以外との久々の食事、風呂に入り、香水を付け、オシャレをして行こうと部屋の中はゴチャゴチャ。
少しでもカッコつけて行こうと言うのが裏目に出て、今やっとその片付けが終わった。
「まぁ、あんな美人と一緒にご飯に行くなんて注目の的で? 男からの嫉妬の視線が嫌だから結果オーライと言えばそうだけど」
俺は煙草とは関係ない息を大きく吐いて、項垂れた。
するとーー
「ん? 何だ?」
マンションの玄関前でカメラを持っている人達が、騒いでいる。
「これがーーー!!」
「ーーーウさんのーー!」
「ーーー!?」
何を言っているのかは分からないが…相当な事があったみたいだ。
「どうしたんですか?」
背後から声が聞こえて、すぐに振り返る。そこには手をハンカチで拭いている七原の姿があった。
「な! こんな所で何してる!?」
俺はそれに思わず叫んだ。
「え? ただ後は煮込むだけなので九条さんとお話をしに…」
「……ダメだダメだ。七原はこっちには来るな。副流煙は人体に毒だからな」
コイツは今日の朝まで死のうとしてた人間だ。いや、今もネガティブな発言をしてる所を見ればいつ死んでも分からない。
無闇にベランダに立たせる訳にはいかない。
「? わ、分かりました。なら、ソファに座らせて待たせて貰っていても良いでしょうか?」
「あ、あぁ。だから早くそっちに行け」
もしこの時、七原が此方に来ていたら……もしかしたら、もしかしたらだが…あんな事態にはならなかったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます