1-3 隣の変人
「あー…落ち着いたか?」
「…」
俺は、風呂から上がった彼女と向かい合ってソファに座り、話し合っていた…いや、話し掛けていた。
風呂から上がった彼女は、俺の部屋着を着ていて、偶に見え隠れする肌は最初に見た時よりも血色良く見える。
「おーい…」
「…」
返事はない。
ただ、一晩経って落ち着いたのか、風呂に入って落ち着いたのか、それともお漏らしをしたから落ち込んでいるのかは分からないが…
昨日みたいに、死のうとはしない。
「その……なんだ。俺で良かったら話聞くけど?」
俺は彼女へと問いかけた。
彼女が望んでいた自殺を止めたのは俺だ。お漏らしさせた負い目もある。相談に乗らなければならない立場であるだろう。
「「…」」
しかし、沈黙が空間を支配する。
正直、このまま彼女が何も言って来ないなら、もう俺に出来る事はない。
取り敢えずは、俺の私服で自殺して貰ったら困るので、お漏らしをしたパジャマで帰って貰おう。これであとは無罪放免、俺が彼女と出会っていたという事実はなかったかの様にしよう。
俺は鬼畜な事を考えながら、テーブルの上にある煙草を手に取り、口に咥えて火をつけた。
「ーーーです…」
そして煙を吐くと同時に、彼女の方から微かに声が聞こえた。
「悪い。もう一回言ってくれ」
「〜〜っ」
俺が咄嗟に聞き返すと、彼女は言いづらそうに俯いた後に顔をあげて言った。
「彼氏に……動画を上げられたんです」
「動画を、上げられた? SNSとかか?」
「……はい」
俺はそれ以上、彼女に何かを聞く事はなかった。
動画の内容の、大体の予想がついたからだ。
昨日の朝、彼女はスマホを片手に自慰行為をしていた訳だが……もしかしたら、彼女はその自撮りを彼氏に送っていたのではないだろうか。
あり得なくは無い話だ。男が彼女にエッチな動画を送って欲しいとお願いするなんて、男なら一度は思った事があるだろう。
俺は心を落ち着かせる為、一度軽く息を吐いた後に彼女へと問いかけた。
「そのSNSに上げられてたってのは、何で気付いたんだ?」
「彼……2つアカウント持ってるんですけど、その裏垢で私の動画出してるのを見つけて……それでお金も貰ってたみたいで……」
「なるほどな……」
自分の性欲も満たして、懐も潤すってか。最低だな。
「もう生きて行けないですよ!! 私なんてもう死ぬしかない!!」
「うおぉっ!? お! 落ち着けって!!」
そんなに腕を振り回すな! 危ないだろ!?
「取り敢えず落ち着けって!! それ、警察には言ったのか?」
「言いませんよ! 知られたら恥ずかしいじゃないですか!!」
まぁ、確かに。普通なら恥ずかしいだろうな。
だけどーー
「今死にたいと思ってるなら、別に恥ずかしくないだろ。死ぬ前に一矢報いてから死んでも遅くはないんじゃないか?」
俺がそう言うと、彼女は暴れるのを止めて此方を上目遣いで見てきた。可愛い。
「……確かに、そうだけど」
「なら、死ぬ前に警察に伝えに行くぞ」
「え……貴方も来てくれるんですか?」
「まぁ、折角だし」
行く途中に死なれても困るしな。
「そう、ですか……」
彼女は感情を何処かに落としたかの様に、表情無くし呟く。
「じゃあ早速行くか」
俺はそんな彼女と、すぐに警察署へと向かった。
直ぐに解決する事は出来ないが、丸く収まる様にすると若い女性警官が豪語していた。同じ女性として、何処か思う所があったのかもしれない。
「な? 来て良かったろ?」
「……はい。あの、ありがとうございます。一緒に来ていただいて」
彼女は深くお辞儀をしてくる。
そんな大それた事はした訳ではない。ただ警察署に着いて来て、話を後ろの方で少し聞いていた程度だ。
「お礼に……ご飯をご馳走させて下さい」
「ん? そんな気遣わなくいいぞ?」
「いえ、命の恩人なので」
ーーと言われれば、大それた事をした人物になるのか。
「まぁ、じゃあ頂こうかな」
「今晩でも良いですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「分かりました」
ーーそう。
これが俺こと九条進と、ネガティブな自殺志願者である彼女、七原ユウとの"おかしな同棲"の始まりだったんだ。
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