第1話 優秀(自称)なSPとは

 窓の外に見える最上階が見えないタワー。

 女性は窓からそれを見ながら天上人の存在を考えるが、まあ自分には関係ないと、すぐに考えを止める。

 それよりも今日は上司に呼ばれたのだ。遅れてはいけない。

  コンコンッ

 上司の部屋のドアをノックし、名前を名乗る女性。スーツをビシッと着こなし、動きに隙は無い。

 「失礼します、玉城たまきです」

「来たか。入りたまえ」

上司の許可を貰いドアを開ける。が、その際も細心の注意をはらってしまうのは職業病…と言えるのかもしれない。

 程よい調度品でしつらえた部長室。だが、そこかしこに監視カメラが備え付けられている事を玉城は知っていた。

 「藤枝ふじえだ部長、何の用ですか? またお茶を汲んでくれ、とかいうただの雑用ですか? それなら他の者に頼んで」

「そういう簡単な用で頼む訳が無いだろう。話をするからそこに座りなさい」

 藤枝部長に促されるまま備え付けの二人掛けソファーに座る。藤枝部長もそれと同時に上座かみざの一人掛けのソファーに座った。

 「それで話というのは」

「君もせっかちだねえ」

部長の部下の猫の獣人がお茶を持ってきて、目の前のテーブルに置く。

だが、二人しかいないはずなのに何故か三人分用意された。

「実は秘密裏に護衛を任せたい案件があってね」

「秘密裏に? 誰か命を狙われているとかそういう理由ですか?」

「まあそれもあるんだが、とりあえず今回の依頼者を紹介しよう」

そう言って部下に指示をする。

 部下が連れてきたその依頼者は──

 「…はじめまして」

金髪のロングヘアー、背中には白い羽根が着いていて頭には光る輪が浮いている。

小柄で可愛らしい印象の女性だ。

「て、て、天上人!?」

驚きでソファーから転がりそうなのを必死に抑え、平然を装う玉城。

 慌てるのも無理はない。

普段、天上人はとてつもなく高い塔の最上階に一族が暮らしており、地上に降りてくるのはとても珍しいのだ。

 それゆえに見かける事はほぼ無く、噂話だけが先行して眉唾物まゆつばものな怪しい話ばかりだった。

 「…彼女が依頼主のベルトリクスさんだ。見ての通り天使族で普段はあの塔の上階に暮らしている」

 誰もが知っている情報を述べていく藤枝部長。相手の情報を細かく知っていないといけない護衛業務の基礎なのだが、どうにも全部は語られない雰囲気も感じてしまう。

 「それで、護衛という事はどこかへ出掛けたい、とかそういう理由ですか?」

「はい…わたくしこの国の最西端の諸島に行きたいのです」

それはまた大層な理由だ、と玉城は思った。

 ここ首都から最西端の諸島までは飛行機を乗り継いで行かなければならないが、所々で細かいチェックが入ってしまい、身元がバレてしまう可能性がある。

 もし何か誘拐等があった場合、対応しきれるかと言われると不安要素もある。

 「私だけで護衛…ですか?」

「いや、SPが途中で合流してくれるそうだからひとまずそこへ向かってくれ」

「そうですか…で、交通手段は飛行機で?」

「それが一番早くたどり着けるが身元が発覚する可能性が高い。ボディチェックが緩い鉄道を使ってほしい」

 首都からは目的地が遠いので一日二日では足りないだろう。体力も考慮してホテルも手配しておいた方が良いようだ。

 「分かりました。では、新幹線、ホテルの手配、交通網のチェックの後スケジュールを作成して向かいましょう」

まるでツアーコンダクターの様に手慣れた様子でプランを立てていく玉城。

「では、いつ出発にいたしますか? それから予約の手配をいたします」

依頼主─ベルトリクスにおうかがいをたてると、

「今すぐ…ではダメですか?」

 なんとも気が早い人のようだ。

「…分かりました。では切符を手配いたします。

私の事は『玉城』とお呼びください」

そう言いながら握手しようと手を伸ばすが、育ちが違うため意味が通じてない様だ。

 「よろしく…お願いいたします」

ペコリとベルトリクスがお辞儀をすると、玉城に羽根と頭の輪っかがぶつかった。

 一抹の不安もあるが、玉城とベルトリクスの旅路がここから始まるのだった。


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