脱!初恋宣言!〜幼馴染に振られたら、ギャルな彼女ができたんだが〜

@syuuji0802

第1話 初恋・惨敗





初恋とはどんなものだろうか。




 人によってその答えは異なるだろう。


 幼少期の甘酸っぱい思い出、ほろ苦い青春の残り香、あるいは気付かないまま終わった淡い気持ち。



 高峯聡人たかみねあきひとにとってそれは、人生を一変させるものだった。


 憧れであり、恋慕であり、人生の指針だった。


 生まれたからたった一度きり訪れるその出会いが、今の俺の全部を作ったんだ。




 そして今日、この瞬間。


 俺はついに、この想いをあいつへ打ち明ける決意をした。


宮内小百合みやうちさゆりさん! あなたのことが昔からずっと好きでした! 付き合ってください!」


 放課後の教室、斜陽に照らされた黄昏時。


 クラスメイトの誰もが下校した一室に、自分の声が木霊する。


 そして俺の間には、一人の女の子がいた。




宮内小百合みやうちさゆり




 小学校時代からずっと恋い焦がれている、初恋の女の子。


 一本芯が通ったようなその立ち姿は、端的に彼女の誠実な性格を表している。


 ふんわりと毛先が巻かれたボブカットの髪は艶やかで、均整のとれたスタイルは女性らしい。


 モデルのように小さな顔も、通った鼻筋や整った桜色の唇、パッチリとした大きなタレ目に至るまで、全てが可愛らしく。


 その真っ直ぐな心だけでなく、容姿に至るまで完璧だと、何度見ても思えた。


「……えっと。冗談とかじゃ、ないよね?」

「も、勿論本気だ! 小学校の頃から、小百合だけがずっと好きだった!」


 ヤバい、緊張しすぎで声が上擦ってる。


 握りしめた両手は半分感覚がないし、正直今にも膝から崩れ落ちそうだ。




 七年も育ててきた想いを打ち明けるのは、自分でも想定した以上の勇気が必要だった。


 気張れ聡人、ここで背を向けたら終わりだぞ!


「そっか……聡人くん、私のことが好きだったんだ」


 自分で自分を鼓舞している間に、言葉の意味を咀嚼したらしい小百合はそう呟いた。


 緊張が高まる。ドキドキと心臓がうるさいくらいに鼓動を早めた。




 一世一代の告白だ。文字通り全身全霊をかけてる。


 これでもし振られたら……いや考えるな! この日のために頑張ってきたじゃないか!


 それに、幼馴染としての関係はかなり良好だったんだ。可能性は割と高い……はず! そうだと思いたい!


「そっ、それで。出来れば、答えを聞かせてほしいかな……なんて」

「……うん、そうだね。聡人くんの本気、伝わってきたよ」


 小百合が、俺の目を正面から見てくる。


 それだけで心臓が胸をぶち破って出てきそうなほどだったが、ぐっと堪えて見つめ返す。


 ずっと憧れていた、強い心をそのまま表すように鮮明な眼差しで、小百合は口を開いて。


「でも、ごめんなさい。聡人くんとは、お付き合いできない」

「っ────。」

 



 その言葉を聞いた瞬間、世界が真っ白に染まった。




 いや、違う。ただ俺の思考が停まっただけだ。


 ガツンと頭を金槌で殴られたようなショックに、意識が飛びかける。


 それでも、ジワリ、ジワリと返された返事の内容が、蝕むように心を塗りつぶしていった。


「本当にごめんね。聡人くんのことは信頼してるし、いい人だと思う。だけど、恋人にはなれない」

「な……なんで?」


 変な脂汗が滲み出てくるなか、どうにか絞り出した答えはそれだった。


 あまりにも情けない一言だが、俺の憧れた彼女はそれさえもしっかりと対応してくれる。


「幼馴染としてしか見れない、っていうのかな。友達としてはこれ以上ないくらいの相手なんだけど、恋愛関係となると想像できない」

「────ッ」


 精神に致命的なダメージ。即死攻撃だった。




 真っ直ぐだからこそ、誠実だからこそ、それが本心からのものだと分かってしまう。


 すぐにそう考えられるくらいに、俺はずっと小百合のことだけを追いかけてきて。


 だが、どうやら今日の幸運の女神は俺に舌を突き出しているようだった。


「ちゃんと自分の気持ちを言ってくれた聡人くんを尊重して、これも話しておくね」

「は……?」

「実は、少し前からある先輩とお付き合いしてるの。それも、結構本気で」

「ぅえっ……?」


 もう、変な声しか出なかった。


 は? え? 小百合が付き合ってる? どっかの先輩と? 俺の知らない誰かと? 


 もはや、洗濯したての白いシャツのように意識が漂白されそうになっていると、小百合は頭を下げて。


「だから、これからも聡人くんとお付き合いすることはできません。本当に申し訳ないけど、これからも親友でいてくれると嬉しいな」


 その言葉を最後に、小百合は横を通り過ぎて教室を出ていった。


 俺にはそれを引き止める余裕すらなく、ただただその場に立ち尽くす。


 頭の中では、ぐるぐるとさっきまでの会話が無限ループされていて…………




「は、ははっ、ははははは………」




 高峯聡人、15歳。長年の初恋が潰えた瞬間だった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る