第34話:迎撃
神暦3103年王国暦255年7月15日15時:ジャクスティン視点
ミアの決意は誇り高く尊いものだった。
俺様に鍛錬をつけてもらっている弟子として戻ると言い切った。
その後で、必要であれは王女として最前線に立つ覚悟も示した。
「ミアの今後の行動に関してはエマ女王に任せる。
残念な事だが、エマ女王の支配力が落ちてしまっている。
ミアがいる事で王国軍の統率がとれるようなら、その方が民のためになる。
弟子として心身を鍛えるのは何時でもできるが、民を護るのは今だ」
「はい、公王陛下の教えを護って女王陛下の指示に従います」
そう言ってエマは出て行った。
まだろくに修行していないエマでは、軍馬を使った方が早く王城に戻れる。
戦闘力を失ってもいいなら駆け戻った方が早いが、それでは全く意味がない。
「お爺様、僕もお爺様のお役に立ちたいです。
お爺様の御指導のお陰で信じられないほどの戦闘力がつきました。
その力を使えば、一国の軍隊くらいなら防ぐことができます。
どうか僕に恩返しの機会を与えてください」
目をキラキラさせながらジェネシスが言いだした。
今にも俺様の靴にキスしそうな勢いだ。
孫にこんな態度をさせたいなんて、小指の先ほども思っていない。
「そうか、ジェネシスの気持ちはとてもうれしい。
その気持ちに免じて騎兵隊の臨時指揮官に任命する。
親衛騎兵隊は預けられないが、近衛騎兵隊から百騎を預ける。
連中と一緒に、ここから一番近い外国と接する砦に迎え」
「本当に一番近い砦で良いのでしょうか?
一番近い砦はお爺様が行かれた方が良いのではありませんか?」
「俺様の心配をする前に自分の心配をしろ。
俺様はほんの少し本気を出すだけで、どの砦にも即座に行ける。
ジェネシスには公国を護る最も近い砦を預けるのだ。
余計な事を考えずに砦を死守しろ!」
「公国にとって最も大切な砦を預けて頂いて感謝の言葉もありません。
御爺様が安心して遠征できるように、砦と公国は死守してみせます」
目をキラキラさせてジェネシスが決意の言葉を口にする。
俺様に対する想いが溢れ出している。
アルファとオメガであろうと孫を抱く気など毛頭ない!
セイント、オリビア、エマ、ジェネシスを公城から追い出した俺様は、城に詰めている騎兵隊に次々と命令を下した。
普段の訓練通り、公都、公城、各地の街や村を守る体制を整えさせた。
その上で逆撃をかける時に使う騎兵隊と歩兵隊に準備を命じた。
逆撃にはまだ早いが、各国境に援軍を向かわせなければいけない。
同時に全ての貴族に外国侵攻を知らせる使者を送った。
特に国境線を任されている貴族には急使を派遣した。
外国軍の不意討ちを受ければ多大な損害を受けてしまう。
多大な損害の中には、失われたら二度取り返す事のできない命や誇りがある。
金銀財宝や家屋敷は、奪われても破壊されても取り戻すことができる。
どれほどの労力を使う事になっても、命と誇りは護らなければいけない!
全ての準備を半日ですますことができた。
普段の訓練がなければ十数日かかった事だろう。
特に逆撃用の兵糧や遠征備品を整えるのが大変だっただろう。
準備は済ませたが、実際に救援軍を派遣したわけではない。
どこにどれほどの外国軍が侵攻してくるのか分からなければ援軍も送れない。
だから何があっても大丈夫なように準備した。
魔境の奥深くに入って濃密な魔素と土と草木を亜空間に取り込んで時間を流した。
亜空間の中に森林と草原ができているのを確かめてから、家畜を五十頭入れた。
その上で、この世界で一時間の間に亜空間の時間を十年進めた。
そんな亜空間を百も創ったら、一亜空間辺り1億頭の家畜が確保できる。
最初からそれを前提に亜空間を創り出すか、途中で間引く必要がある。
だがこれができるから兵站、特に兵糧の心配をしなくてすむ。
「領民を軍役で動員して兵糧を作ってもらう」
生きたままの家畜を兵糧に加工するには時間がかかる。
家畜をこの世界に取り出して加工すると時間がかかり過ぎてしまう。
亜空間の流れを調節するのは難しいが、亜空間でやらせた方が効率的だ。
「羊毛を紡いで衣服を作ってもらう。
皮を加工して鎧も作ってもらう。
鍛冶屋には武器やプレートアーマーも作ってもらう」
公国内の体制を亜空間ありきに変更した。
もっと時間をかけて変えるつもりだったが、外国が侵攻してくる現実にあわせた。
たった二日の間に公国の体制は一変した。
「公王陛下、他の軍需物資は陛下のお陰を持ちまして溢れるほど蓄えられました。
しかしながら、ある意味一番大切な塩が確保できておりません。
いかがすればよろしいでしょうか?」
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