第31話:脅迫

神暦3103年王国暦255年7月1日9時:ジャクスティン視点


 面倒事は大嫌いなので、一番労力の少ない方法を取る事にした。

 シェフィールド子爵は自分の領地にいると言うので、そこまで乗り込む事にしたのだが、馬で三日もかかる場所にあった。


 俺様独りなら、戦闘力を残した状態でも三時間で辿り着ける。

 だが今回は能力の低いアルファ騎士も同行する、

 彼らが常に戦える状態で移動するとなると、三日も余分に使う事になる。


 だから俺様は子爵の領都で合流する事にした。

 新参家臣のアルファ騎士達が旅をしている間に、実験と鍛錬を繰り返す。

 もっと現実を思知らせなければいけないミアは、俺様が抱えて運べばいい。


 アルファ子爵が治める領地には、だいたい二万人の領民がいる。

 全員が領都に固まって住んでいる訳ではなく、多くの街や村に分散している。

 何かの産業が発展していて、領都に二千人が固まって住んでいれば良い方だ。


 十一人のアルファ騎士が領都に着き、使い魔に状況を見張らせていた俺様が合流した時、多数のベータ騎兵と百人ほどのアルファ騎士やアルファ准男爵がいた。

 領城を護る為に子爵が集めていたようだが、問答無用で叩きのめした。


 領城に乗り込んだ時に、子爵が若手の有望株だと噂されていると初めて聞いたが、本当に若かった。


 自分より弱いアルファを集める習性は若さゆえの本能なのだ。

 ある程度経験を積むと、群を率いる面倒と責任に嫌気がさすモノだ。


「何者だ、ここがシェフィールド子爵閣下の領城と知っての無礼か?!」


 公王に戴冠した俺様に対して無礼を働く若くて横暴なアルファ騎士達。

 笑って許してやるほど温厚な俺様ではない。

 アルファの治癒力でも数カ月寝込むくらいの大ケガをさせてやった。


 手足の手首、肘、肩、足首、膝、股間の全関節を粉砕骨折させる。

 手足の指を引きちぎって戦いたくても踏ん張れないようにしておく。

 最後に動揺胸郭で窒息死しないギリギリの数だけ肋骨をへし折る。


「少しでも動けば息ができなくなって死ぬことになる。

 俺様に逆らったらどうなるか骨身に染みたか?」


 せっかく俺様が声をかけてやっているのに、返事をしようともしない。

 大小便をちびってガタガタ震えるだけで、降伏の言葉も口にしない。


 眼だけで哀願しても降伏の誓いにはならないのだぞ。

 若くて弱くて経験不足だと分かっている。

 だからこそ頭だけでなく身体にアルファの礼儀作法を叩き込む。


「舌を引き抜いていないし歯も砕いていないから、話せるはずだぞ?

 攻撃を止めて欲しければ正式に降伏の言葉を口にしろ!

 もしかして、この程度の攻撃で根性が挫けたのか?

 嘆かわしい、外国人に捕まって拷問されたらこの程度ではすまないぞ?

 内戦を始めたら外国人が攻め込んで来るのだぞ。

 程度の事も予測できないのか?!」


「あう、あう、あう、あう」


 あまりの痛みと恐怖に大小便を垂れ流してやがる!

 アルファだろう!

 どれほど痛くても怖くても大小便タレに落ちぶれるな!


 嘆かわしい事だ、アルファともあろう者が、最下級の騎士とはいえ、この程度の覚悟と戦闘力しか持っていないとは!


 などと思っていたら、俺様の臣従した騎士まで小便をちびってやがる!

 前回逃げ出した時も大小便を漏らしていたのは知っていたが、今度は俺様の配下になって勝ち組にいるのだろうが!


「情けない、それでもアルファか?!

 そんなみっともない姿をした者を家臣として連れて行くわけにはいかない。

 かと言って、子爵を脅かして不戦を誓わせるのに、肝心のお前達を置いていくわけにはいかない。

 さっさと井戸で身体を清めて着替えて来い!

 着替えがなければ裸に鎧を着ろ!」


 あまりにも情けなくて涙が流れそうにある。

 二十年も戦争がないと、若手はこんなにも軟弱になってしまうのか?

 何か抜本的な解決策を考えなければいけない!


 占領地を統治するのは面倒だが、定期的に外国と戦争するか?

 それともアルファを全員臣従させて定期的に魔境に放り込むか?

 大魔境の奥に行かせたら外国と戦争させる以上に良い経験になる。


「おい、こら、別にお前が何をしようが知った事じゃないが、宣戦布告なしの虐殺はアルファの名誉にかかわるから、仕方なく言っておいてやる。

 この十一人は俺様に臣従して公王家の騎士となった。

 当人はもちろんだが、オメガの家族であろうと領民であろうと、髪の毛一筋でも傷つけたらお前を頭からバリバリと喰ってやる!」


 俺様は今回の元凶となった子爵に怒りの矛先を向けた。

 こいつさえいなければ、若手アルファ騎士の情けない姿を見なくてすんだ。

 この後でやらなければいけなくなった面倒事も抱えこまずにすんだ。


 そう思っていたからだろう。

 普段は完全に抑え込んでいる殺気をほんの少しだけ漏らしてしまった。

 馬鹿を抑えるために意識的に漏らす事はこれまでもあったが、無意識は久々だ。


 だがこれが大失敗だった!

 子爵だけでなく護衛についていたアルファの騎士や准男爵、同盟者の男爵までが恐怖のあまり大小便を垂れ流して卒倒してしまった。

 

 それどころか、身体を清めたばかりの十一人までが垂れ流しやがった。

 あれだけ垂れ流してまだ残っていいたのか?!

 こんな短時間に二度も大小便を垂れ流すか?

 今回は最初から最後まで糞尿に祟られた!

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