第22話:嫌味

神暦3103年王国暦255年5月25日22時:ジャクスティン視点


 新郎新婦席に座って、全貴族からの挨拶を受けていたジェネシスと王女がようやく自由になり、俺様の席に近づいてきた。

 王女の表情には明らかな怒りが浮かんでいる。


「恐れながら公王陛下にお聞きしたい事があります。

 私の夫が公王陛下の子供を生みたいと言うのはどういう意味なのでしょうか?!

 王家に意趣遺恨があるのなら最初から結婚を受けなければいいでしょう!」


 王女は俺様が言わせたと思っているのか?

 結婚式の場で女王と王女に恥をかかせるために俺様がやらせたと思っているのか?

 

「それは違うぞミア。

 先ほどの言葉は僕の御爺様への恩返しの誓いだ。

 お爺様の御力で魔力を手に入れる事ができた。

 オメガ落ちして、全貴族の前で婚約者から性奴隷にすると言われた僕をだ。

 王家と公王家の絆のために結婚はするが、そんな婚約者を愛する事はできない。

 神様に嘘偽りの誓いをする訳にはいかないから、正直に言っただけだ」


 そう言ってくれる孫を可愛いと思わない訳ではないが、それ以上に大問題だ。

 俺様を近親相姦の糞野郎認定させてしまう大失言だ。

 新郎新婦の挨拶が終わったら、ジェネシス弁明させる心算だったから丁度いい。


「はっきり言っておくが、俺様はアルファだからと言って近親相姦をする気はない。

 ジェネシスを護ったのは大切な孫だからだ。

 魔力が使えるように鍛錬したのは、オメガ落ちする者が可哀想だからだ。

 アルファと同じ両性具有なのに、性奴隷扱いされるオメガが不敏だからだ。

 以前からオメガを救う方法がないか色々試していたのだ。

 現にこうしてジェネシスは魔力を身に纏う事ができている」


「それは神に対する冒とくだ!

 アルファとオメガ、そしてベータは神様が創られた役割分担だ。

 それを人間ごときが変えようとするなど不遜すぎる!」


「王女、お前もアルファに生まれたのなら、神など頼むな!

 神など利用するだけの存在だと思え。

 自分を鍛えて神を超えるくらい覚悟がなければ女王の後は継げないぞ」


「な、何という不遜な言葉を吐くのだ」


「黙れミア!

 偉大なるお爺様に逆らうなど、夫であろうと妻であろうと許さん!

 これ以上僕のお爺様に逆らったらこの場でブチ殺すぞ!」


 頭が痛い、痛すぎて破裂しそうだ。

 ジェネシスが今言った言葉はどう好意的にとっても俺様に依存している。

 こんな風にしたくて大切に育てた訳じゃない。


「ふん、やれるものならやってもらおうじゃないか。

 どれほど鍛錬しようとオメガごときがアルファに勝てるはずがない。

 アルファが素晴らしくて、オメガが劣っている事をこの場で証明してやる」


 ジェネシスが口にした事は不本意極まりないが、この場でジェネシスと王女が戦う事は願ってもない。


「ほう、そこまで言うのなら正式な決闘を認めてやろう。

 誇り高きアルファの決闘だぞ?

 相手がオメガのジェネシスだから、誓約を破っていいとは言わせないぞ?!」


 外国人のように魔術を使ってだが、ジェネシスが王女を叩きのめせれば、アルファのオメガ感を一変させられる。


「馬鹿にしないでいただこう、おじいさま!

 俺はアルファだ、例え相手がオメガであろうと決闘の誓約は守る」


 糞王女、お爺様の言葉に侮蔑を込めやがったな!

 だったらわずかな憐憫の情も掛けることなく大恥をかかせてやる。

 アルファ貴族社会での二度と顔を上げられないくらいの大恥をかかせてやる!


「俺様が認める決闘は、あらゆる手段を認めた実戦形式の決闘だ。

 ぬるい貴族や士族がやる、魔法や魔道具を認めない、お遊びの決闘じゃない。

 何時外国と戦いになってもいいようにした死を恐れぬ決闘だぞ?!」


「望むところだ!

 死ぬのが怖かったらこの城で一年間も住む約束などしない。

 謀殺される覚悟でやってきたのだ。

 今更魔法や魔道具を恐れたりしない」


 俺様の名誉と埃を踏みにじる言葉を重ねるか!


「良い覚悟だ、だったら決闘の誓約内容を決めようか」


「俺はアルファの伝統を求める。

 結婚の誓約を無効にして、ジェネシスが性奴隷に成る事を求める」


「では僕も同じ条件を要求します。

 ミアを僕の性奴隷とする事を求めます」

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