第23話:決闘

神暦3103年王国暦255年5月25日23時:ジャクスティン視点


 前代未聞、アルファ王女とオメガによる決闘が行われる。

 俺様以外の貴族や士族が治める領地だったら絶体に認められない、身分差を無視しただけでなく、これまでの常識を無視した決闘だ。


「これよりウェルズリー王国ウェリントン王家ミア王女殿下と、サザーランド大公国エジャートン家のジェネシスによる決闘を始める」


 アルファのミアには王女殿下と敬称をつけて、ジェネシスは呼び捨てだ。

 エジャートン家の一員と認められただけまだマシなどとは絶対に思わん!

 この決闘でアルファ共の認識を根底から覆してやる!


「ジェネシス、俺の性奴隷に成れ!」


 ミアがアルファらしく身体能力を前面に出して襲いかかってくる。

 爪に魔力を流して鋼鉄の刃よりも固く鋭くしている。

 ジェネシスの手足を切り落として飼う心算か!?


「甘いぞ!」


 ジェネシスにはミアよりも五十年長い経験値がある。

 亜空間の中という限られた経験だが、アルファ化して半年にも満たないミア比べれば、圧倒的な差になる。


「ギャッ!」


 ミアの奴、アルファにしては甘過ぎる。

 手足を切り落としてでもオメガを屈服させるのがアルファなのだ。

 実際にやるかどうかは別にして、それかくらいの覚悟が必要なのだ。


「ギャアアアアア」


 本当ならアルファに逆らえないはずのジェネシスだが、今は躊躇なく攻撃できる。

 女であろうと結婚相手であろうと一切の容赦がない。

 魔剣から魔術を発動させてミアの全身に大火傷を負わしている。


「これくらい!」


 経験値は圧倒的に不足しているが、ミアの先天的な魔力はとても多い。

 その魔力を使ってアルファらしい回復力を発揮している。

 全身の大火傷を一瞬で治すなど、将来が期待できる才能はあるのだが……


「火炎魔術で斃せないのなら、氷漬けにしてやる!」


 などとジェネシスは口にしない。

 こちらから使う魔術を敵に教えるほど愚かではない。

 その程度の事は俺様が成人式前に叩き込んでいる。


「ぐっ、ギャ!」


 ミアの気性の荒さ、負けん気の強さ自体は嫌いではないのだ。

 氷漬けされて動かなくなった左脚を自分の爪で切り落とし、アルファ独特の回復力で再生させて戦い続ける根性は褒めてやりたくなる。


「この程度の事で俺に勝てると思うな!」


 だが、アルファの中でも最上位に近い回復力を持っていても、何度も手足を切ってしまったら魔力切れを起こしてしまう。

 戦い方が雑過ぎで実戦では生き残れない。


「あの戦い方は外国人の様だ」

「ふん、恥知らずなオメガらしい戦い方だな」


「ガキが、外国人の戦法であろうとオメガであろうと勝つ奴が正義だ」

「そうだな、死んだ奴は負け犬だ、生き残った奴が正しいのだ!」


 外国との激しい戦争を知らない若い連中は、表面だけのプライドに拘っている。

 だが外国との戦争を経験して生き残った連中は、どのような手段を使ってでも生き残る事が大切だと知っている。


「口で何を言おうとオメガに負けたら全てを失うのだ。

 そこ覚悟を持ってオメガと戦う覚悟があるのか?」


 歴戦の上級貴族アルファにそう言われると、若く実戦経験のない下級貴族アルファは何も言い返せなくなる。


 上級貴族アルファもオメガを認めたわけではない。

 連中が決闘を見つめる眼には侮蔑しか浮かんでいない。

 愚かな条件を飲んで決闘を受けたミアと、魔道具を使うジェネシスへの侮蔑だ。


「どれほど魔術を使えようと当たらなければ意味がない!」


 魔力の残りが少ないのだろう。

 ミアが強靭なアルファの身体すら限界を超える速さで動く。

 単に動くだけでなく、極端に負荷のかかるフェイントまで入れて来る。


「さようなら、ミア」


 ジェネシスにはミアに対する情があったのだな。

 婚約者だったミアを殺すには少なくない決断が必要だったのだ。

 だから心臓麻痺を起こすほど神経を損傷させる雷魔術を使わなかったのだ。


 火炎魔術は表面から身体を焼くし、氷結魔術は神経を破壊しない。

 アルファの超人的な回復力を考えれば、負けても死なない可能性が高い。

 だが強烈な雷魔術をまともに受けたら……

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