第11話:魔法陣と魔道具

神暦3103年王国暦255年1月21日9時:ジャクスティン視点


「よし、経絡に魔力と霊力を流し、教えた経穴に溜めることはできている。

 後は俺が絵にしたように経穴が魔力器官だと思い込め。

 その魔力器官に無尽蔵に魔力が蓄えられると思い込むのだ」


 この短期間にジェネシスは俺様の思想と理論を次々と理解してくれている。

 以前から頭がいいと思っていたが、この世界の常識とは全く違う、前世の常識や空想の産物を全て取り入れられるだけの柔軟性がある!


「はい、お爺様が身に付けられた知識と技は全て覚えさせていただきます」


 しかも素直で可愛いのだから、俺様の初孫はこの世界最強の美少年だ!

 こんな天上の宝玉のように貴重な美少年を性奴隷にしようとするメス豚は、想像を絶するような生き地獄に叩き落としてやらなければならない!


「ただ今のジェネシスの身体は魔力を固定できない。

 その理由もわからないから、身体強化もできなければ外部に魔力を放出する魔術も使えない状態だ」


 アルファは体内に魔力と霊力が満ち溢れ、無意識に身体強化ができる。

 ベータは魔力も霊力もなく、身体強化どころか魔術も使えない。

 オメガは魔力と霊力はあるのに、それを全く利用できない。


「お爺様の貴重な時間と知識と経験を授けて頂いているのに、何の成果も出せず、申し訳ありません」


 謝ってくれるが、ジェネシスが悪いわけではない。

 我々人間の定め、体質なのだから仕方がない。

 だがアルファとオメガは同じ両性具有なのだ、何か方法があるはずなのだ!


「謝る必要などない。

 ジェネシスは目を見張るくらいの成果を出している。

 アルファに逆らえない従属するだけのオメガなのに、自主的に考えられている。

 それだけでも、これまでのオメガの常識を覆す大発見だ」


 そうなのだ、アルファ騎士達が襲ってきた時も、ただ怯え竦んでいなかった。

 剣を抜きアルファ騎士と戦おうとしていた。

 強い者に従属して尻を差し出すだけのこれまでのオメガとは全く違っていた。


「はい、ありがとうございます」


 これからも王女からの攻撃は続くだろう。

 女王は厳しく躾けている心算だろうが、あれほど王家の血に拘っていたのだ。

 王女を殺して次の後継者を待つことはできないだろう。


「何時かはジェネシス自身の魔力や霊力で身体強化や魔術を使ってもらう。

 だがその何時かを待っていて拉致され殺されては何の意味もない。

 だから外国の魔術知識を使って自衛手段を持ってもらう」


 この国の人間は本能的に備わっている身体強化を誇りに思っている。

 その分、いけない事なのだが、外国人が使う魔術を蔑んでいる。

 だがその魔術が身体強化を超える破壊力と防御力を持っているのだ。


「はい、お爺様が利用できると言われる技や知識を蔑んだり嫌ったりしません。

 私達がベータやオメガに落ちた時の事を考えて、幼い頃から魔術の知識と技を教えてくださっていたのでしょう?」


 ジェネシスの言う通りだ。

 外国人にはアルファやベータといった変化や身分差はない。

 あるのは先天的に備わった魔力と霊力の保有量による能力差だけだ。


「そうだ、外国人は魔力や霊力の量で差別があった。

 圧倒的多数だった魔力や霊力の少ない者が、自分の能力を補う技術、魔法陣や魔道具を開発発展させたのだ。

 それを使えば、ジェネシスもアルファに対抗する事ができる」


 外国人もアルファ同様恐ろしく欲深い。

 俺様達を奴隷にしようと襲って来る連中が多い。

 時には外国が領地を奪おうと攻め込んで来る事まであった。


 その時には俺様が先頭に立って外国人を叩き殺してやった。

 だがその時に結構な被害を与えてくれたのが魔術だった。

 ろくに魔力や霊力の無い者まで魔道具や魔法陣でアルファ騎士を殺しやがった。


「はい、お爺様に創っていただいた魔法陣や魔道具は肌身離さず持っています」


 これまでは、自分で魔道具や魔法陣を作らなかった。

 成人式前の子供達に知識や技術は授けたが、作るか作らないかは本人任せだった。

 だが、前世の知識と記憶を思い出して、寝る間も惜しんで作ってしまった。


「俺様は王国から独立を宣言した。

 何人のアルファが傘下に入ってくれるかもわからない。

 この状態ではアルファの誇りだ、何だとは言っていられない。

 敵対するアルファに対抗するために、ベータ騎兵に魔法陣や魔道具を貸与する。

 その実験も兼ねているから、ジェネシスは積極的に使って消費しろ。

 消費する量や時間も知っておかなければ消耗戦もできない」


 今口にしているのはあくまでも建前だ。

 実際には手に入れた記憶や知識を使いたく仕方がないのだ。

 前世で空想するしかなかった魔術を思う存分使い倒したいのだ!


「分かりました、お貸しいただいた魔法陣と魔道具はできるだけ使います。

 ですが何の見返りもない消費だけの為に使うのは嫌です。

 せめて獣を、できれば魔獣を狩るのにつかわせてください」


 ジェネシスの言う通りだ。

 俺様の魔力を使った魔法陣や魔道具を無駄遣いするのは嫌だ。

 魔皮紙の原料となる魔獣を狩ってくれれば、新しい魔法陣や魔道具を造れる。


「そうだな、騎兵隊を連れて魔境に入るか?」


 魔法陣を造るには魔力と親和性のある魔皮紙と魔獣の血が必要になる。

 紙と墨代わりに使う魔獣が強ければ強いほど強力は魔法陣を描ける。

 ジェネシスに与えた魔法陣は木樹魔狼を原料にして造っている高級品だ。


「はい、できましたらベータに成られた叔父上や叔母上と一緒に行きたいです」


 確かに、血のつながらないベータ騎兵よりも、ベータ落ちした血の繋がっている子供達の方が信用できるかもしれない。

 それに子供達なら魔術に関する知識がある。


「分かった、今直ぐ今日からとはいかないが、明日から来たい者には参加させる。

 自作の魔法陣や魔道具があるのなら持ってこさせよう」


 子供達は魔法陣や魔道具を造っているのだろうか?

 俺様が与えた知識や技術を大切に思ってくれているのだろうか?


「叔父上や叔母上はこのような剣を造っておられるのでしょうか?」


 ジェネシスが俺様の与えた二振りの剣に触れて訊ねた。

 柄に大型の魔宝石を埋め込み、ミスリス製の刀身に呪文を刻み込んである。

 鍔は小型盾くらいあり、呪文が刻まれ小型魔宝石が埋め込んである。


「ベータの彼らにこれだけの材料は手に入らないだろう。

 普通に手に入る鋼鉄製の剣に呪文を刻み、下級魔獣の魔石が埋め込まれていれば、上出来だと思うぞ」


 本当にそう思う、そうであったらどれだけうれしいだろう。

 ベータ落ちしたとはいえ、俺様の子供として何不自由ない生活ができている。

 怠惰な生活を送っていて当然なのだ。


「はい、僕も手に入る材料で自作の魔法陣と魔道具を造ってみます」

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