アイデアの箱

柳葉まひろ

価値

 ある日

 私を可愛がってくれた大叔父が死んだ

 頭が真っ白になって 実感が湧かなくて

 だんだんと押し寄せる後悔と悲しみに泣いた

 

 ある日

 どこかを走る高速道路で多重事故があって 3人死んだ

 あんなに悲惨な事故だったのに3人だけで済んだんだ

 心のどこかでそんな事を考えた


 ある日

 どこかのビルで立てこもり事件があって 50人が死んだ

 犯人への極刑を望む声は高まり 家族までもが民衆の裁きにかけられた

 何気ない日常の儚さを感じて胸が苦しくなった

 

 ある日

 どこかの国で戦争がおきて 10万人が死んだ

 各国で非難の声明が出されてそこに様々な人が意見を述べた

 でも 私の他人事だと考える気持ちは消えなかった

 


30代の無職の男性が 20代の女子大生が 80代の認知症の男性が 

40代の専業主婦が 50代の教師が


 いろいろな人が

 いろいろな場所で

 いろいろな都合で 死んだ 



 今

 私は暴走したトロッコが走る線路の横に立っている

 このままでは5人の作業員が死ぬそうだ しかし

 目の前のレバーを切り換えれば1人の作業員だけが死ぬそうだ

 

 私は5人が次々と死んでいく様を震える足で眺めていた



 

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