あつまれ特シツの盛り!お見逸れしました兎丼組₍ ᐢ. ̫ .ᐢ ₎

椎鳴津雲

褐兎

第1話 コスプレマッサージ店・アニ手マール

 202X年。冬。それは、朝の10時の話である。

 蓋子ふたご玉川たまがわ(年齢55歳・会社員)は秋葉原にあるコスプレマッサージ店・アニ手マールで施術を受けていた。このお店は指名制だ。カウンターでキャストの写真を見せられるので、その中から好きな子を選ぶシステムである。


 蓋子玉川と言う男は自他共に認める面食いであったため、とくに猫のコスプレが好きな訳ではないが、猫のコスプレを担当している・糸波いとなみ夜乃よるのを指名していた。彼はベッドの上でうつ伏せになり、もみほぐされている。

 最初は「ふうーん、よろしく」と言うような冷めた態度を取っていた玉川だったが、夜乃のマッサージを受けていると……なんだか……とっても大人な気持ちになったきたと言う。まぁ、簡単に言ってしまえば、ムラムラしてきたのである。


「お客様~なかなかこってるニャンね~。もうカッチカチですニャン」


 ドキドキドキドキ。ドキドキドキドキドキドキドキドキ。

 彼のボルテージは限界だった。糸波の肘が、手の甲が、指先が背中に触れるたびに鼓動が早くなっていく。でもダメだ。ここは我慢。ここはマッサージ店。そう言う行為はご法度。もしルールを破れば、警察のお世話になる可能性だってある。


「どうしました? 体が赤いですよ。お・きゃ・く・さ・ま、ニャンッ」


 糸波が彼の耳元でささやいた。

 蓋子玉川。イッキマース!


「もう我慢できない。おいら決めた」


 彼は一世一代の交渉を試みる。


「糸波ちゃん。おいらとSEXしよう」


「!?」


 マッサージ中に出た彼のド直球な発言に夜乃は困惑する。


「こ、ここここここ困りますニャン。ここはマッサージ店でそのような行為をする場所ではないニャン。もしやったら店長にクビにされちゃうニャン!」


 丁重にお断りされた。

 それでも夜乃とのニャンニャンを諦めきれない玉川。

 こんな可愛い子、ここでやらなきゃ死んでも死にきれない。

 ネコ娘には興味はない。でも糸波夜乃の顔は超好み。

 彼の脳内はピンク色に染まっていた。


「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!! おいら、夜乃ちゃんとエッチしたい!! 大人の遊びがしたい!! だからおいらとエッチしてぇえ!!」


「そ、そう言う行為がしたいならソープに行ってくださいニャン!」


 喝ッ!

 それに対し、蓋子玉川は毅然きぜんたる態度で答えた。


「ソープはプロだ。おいらの股間の息子はプロ相手じゃたない。素人だからこそ得られる興奮もある。そう思わなんかね? おっさんとやるからこそ、得られる快感もあると思う。おいらは夜乃ちゃんの、おいらの体をこねくり回すテクに惚れた」


「テクって!? 私はただマッサージを……」


「そのマッサージがおいらを目覚めさせた。君にはヌルヌルの才能がある!」


 彼は立ち上がり、同時に彼の下半身の息子も立ち上がった。

 そのいきり立つ息子を目の当たりにした糸波夜乃は驚いた。

 それは平均男性の1.5倍ほどあった。

 夜乃はゴクリッと生唾を飲み、目をハートにする。


「――って、何考えてるにゃん、私。ダメダメ、ご法度ニャン」


 すぐにお店のルールを思い出し、彼の局部から目をそらす。

 ここはマッサージ店であり、本番行為は絶対禁止。


「目をそらしていいのかな? おいらは金持ちだぞ。優しくしてくれたら何でも買ってあげる。世界の全てをあげよう!」


「優しくしてニャン!」


 やはり世の中は金なのだ。


「むふぁぁあああああああああああ! ヤッタァーーー!」


 蓋子玉川は金の力で蓋子玉川はニャンニャンしていた。

 確かにここはアロマキャンドルた立ち込める個室のマッサージ店であり、ソレをやろうと思えばソレができる環境ではある。しかし、ここは正真正銘のマッサージ店であり、女性とムフフでニャンニャンすうるような裏メニューなどない。


「あぁ!……キモチィイイ! あっ、ロールスロイス!! ハァハァ! ニャンッ! ベンツニャンッ!! エルメスッ! あぁっ……アッ……あ……シャネル!……あ、あっ……キャビア!」


 糸波は未来の自分に夢を膨らませ、独特な喘ぎ声を発していた。

 ちなみにマッサージ店アニ手マールには五つの施術室せじゅつしつがあり、それら全てに監視カメラが設けられていた。もちろんこれは隠しカメラである。部屋に堂々とカメラがあったら、お客に『プライバシーの侵害だ!』と訴えられる可能背があるからだ。かと言って設置しなければ、違法行為が横行してしまう。


「……」


 監視カメラの映像は、ある人物のいる監視室へとリアルタイムで送られていた。

 ある人物の主な業務内容は、店員の監視・メンタルケア&お客の監視である。


 そして監視室にいる人物と言うのが――


「どうして野郎どもはすぐに発情しやがる?」


 源氏名:矢瑠奈やるなララバイ

 本名:秋元あきもとウサ子

 年齢は29歳。独身。趣味:裁縫。

 職業:アニ手マールの店長


「……」


 彼女はパイプ椅子に腰かけ、電子タバコ片手に呆れていた。

 スッーと煙を吸い……ッフーと勢いよく煙を吐き出す。

 今回のようなことは珍しいことではない。実際、先月も同じようなことがあった。

 ちなみに前回の犯人も糸波夜乃である。なので矢瑠奈ララバイは毎日の朝礼で『ここは健全なマッサージ店だ。そう言う行為を見つけ次第クビだからな』と口をすっぱくして言っている。まぁ、あくまでも言っているだけである。矢瑠奈ララバイは今のメンバーが好きなので、本気で誰かをクビにする気はさらさなないようだ。


「夜乃も夜乃だよな。くだらねー嘘に騙されやがって……。あのおっさんが金持ちの訳ねーだろ。そもそも相手が金持ちでも、簡単に体を売るな。こりゃ、説教だな」


 矢瑠奈は静かなる怒りを抑えつつ、仕方なく監視室を後にした。

 

 ×   ×   ×


 彼女は夜乃が担当する個室の前で立ち止まる。

 見間違いと言う可能性もあるので、確認のために耳を澄ませた。

 ドアに耳を当てて中の音に全集中。


「アァアアアアン海鮮ッ……キモチィイイ!金目鯛! アンアン!アァアアア!ウナ重!」


 間違いない。中から女性の喘ぎ声と男の「ここがええのんかー」と言う声が聞こえた。矢瑠奈は重苦しいため息をいた。面倒事は嫌いなのだが……。


「まったく……。金持ちと付き合わなくても、海鮮丼は食えるだろうが」


 呆れた表情でノックをする。

 

「……」


 だが、二人の耳には届かなかったようだ。

 甘ちゃんモードは終わり。少々手荒なフェーズに突入だ。

 彼女はおらつきながら、力強く個室のドアを叩き開けた。


「おんどりゃ!」


「「!?」」


 おちんちんらんど開園。

 部屋での光景は、監視カメラのモニターと同じであった。

 つまりセック、ス……いや、ニャンニャンである!


 矢瑠奈が「おい、夜乃!」と怒鳴ると、とろっとろにあへっていた糸波夜乃の顔がキリッとなる。事の重大さに気付いたのか、すぐに自分の体から男の剣を抜いた。


「て、てててて店長!! これはち、違いますニャン!? ニャンニャンがニャンニャンして気付いたらニャンニャンで、ニャンニャンしたちゃいましたニャン!」


「なにも違わない!! あと日本語喋れ。猫語じゃ何も伝わらない!」


「ごめんニャさいニャン」


「謝ったところで許さんがな。貴様はこの店のルールを破った! しかも今月二回目だぞ。あとでアタシのきっつーいお説教が待ってるから覚悟しな」


「……しょぼーん……」


 夜乃を睨みつけ、次に男にガンを飛ばした。


「そこの男も覚悟しろ。ここのルール分かってんだろ。警察確定な」


 全裸で落ち込む夜乃。

 店員の失態を注意する矢瑠奈。

 そして精戦を邪魔されブチギレる蓋子玉川。


「おいらのニャンニャンタイムを邪魔するなんて……店長だがチン長が知らねーが、絶対に許さな……な、な、ナイシトールZ……え……うそっ、かわいい?」


 蓋子玉川は顔を上げた。

 そして店長の姿を目の当たりにする。


「ババババババババニーガール!?」


「バとバを続けて言うな。ババァみたいで響きが嫌だ」


 彼女の頭には兎をモチーフにしたウサ耳型ヘアバンドが付けられており、首周りには白いフェイクファーショールがかけれていた。服は可愛い兎の尻尾が付いた肩出し褐色のレオタードで、そのスラッとした脚は網タイツに包み込まれていた。


「……美しい……」


 確かにここはアニマルコスプレマッサージ店なので、バニーの格好をした店員がいてもおかしくはない。しかし5名いる女性店員の中でネコ、クマ、ウシ、リュウ、ヒツジはいるのに定番のバニーはいないのだ。なぜ人気なバニーがいないのか?


 その答えは、店長がバニー担当だからである。


「おいら、夢でも見ているのか?」


 お客は、店長がバニー担当であることを知らない。

 なぜなら彼らにとって、女の子を指名するときにカウンターで見せられる写真がすべてなのだからだ。バニーがいないなら、いないものだと勝手に認識する。


「バニー……え、本当にバニーなのか?」


 ウサギのコスプレがいないと言う固定概念を植え付けられていたからこそ、バニーを見た瞬間の驚きは半端ではなかった。ドクンッドクンッ。しかも矢瑠奈の顔立ちや身長は、蓋子玉川のストライクゾーンど真ん中だ。全てにおいて好感度MAX。

 矢瑠奈ララバイこそ、蓋子玉川が求めていた大本命めちゃラブ1000%


「店長さん! おいらとエッチしてください!!! お願いします!」


彼の発言に夜乃は「私のときはため口だったのに店長には敬語!?」と驚いた。


果たして矢瑠奈の答えは――


「嫌だね」


 当然である。


「貴様はこの店をなんだと思っている。私の大好きなマッサージ店をこれ以上汚すなゴミムシが。テメェみてーな客がいるから、変な店だと誤解されんだよ」


「おいらのことをゴゴゴゴゴゴ、ゴミムシィイイイイと呼んだのか!?」


「店長! お客様に失礼ですニャン!蓋子玉川さんに謝ってニャン!」


「貴様は目を覚ませ。こんなゲス、お客でもなんでもないわ」


 店長の怒りが届いてないのか、夜乃は蓋子玉川に寄り添った。


「まったく……店長は酷い人ですねー。蓋子玉川さん、店長の言うことなんて気にしないでくださいね。アナタはゴミ虫なんかじゃありませんニャン。アナタはとってもお金持ちでテクニックもあるスゴく素敵な人です。だから私にエルメスの高級バッグを買う約束を忘れないでくださいねニャン。高級ホテルでデートの件と家を買ってくれる話も。あとあとシャネルに、指輪も買ってくれる……。……蓋子玉川さん?」


「ハァハァ、ゴミムシ、ハァハァ……最高だ。おいらのドタイプの女の子がおいらを罵倒してくれる……こんな感覚初めてだ……新たな扉が開きそう……。しかも相手がバニーガール……もしかしておいらは触れずにイッてしまったのか?……」


 ――ドクンッ。


「「!?」」


 その瞬間、彼の心音が周囲の人にも聞こえるほど大きく脈打った。

 異質な気配がした。蓋子玉川の雰囲気がガラリと変わったのだ。

 その両目が瞬く間に、赤一色にそまっていく。


「あれれ~蓋子玉川さん、寝不足ですか? 目が赤いですよニャン」


 夜乃は平常運転だが、矢瑠奈ララバイはその現象に動揺する。

 目の色が急変した理由を知っていたようで「クソ」と短く吐き捨てた。

 彼女は「夜乃!」と叫び、手短にこのあとの展開を伝えた。


「もうじきアニ手マールは闘技場と化す。だからお前はここから逃げろ!」


「ほよっ?」


 闘技場と言う言葉に首を傾げた。

 店長は何を言っているのだ? と言う顔だ。

 説明不足な彼女も悪いが、理解力のない夜乃も悪い。

 戦場になると言ったら、文字通り戦場になるのだ。

 だったら首なんか傾げてないでさっさと従えばよい。

 

「ほよじゃねーよ! さっと逃げろ!!」


 矢瑠奈は出入り口の方へと指をさした。

 はたして夜乃は指示通り逃げてくれるのだろうか?

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