いきなり大ピンチ?

「……………………え」



 形は、狼に似ていた。

 でも、毛は金色で、ツノが生えていて、私の身長より大きくて、爛々らんらんと輝く瞳で、私を見下ろしている。


 ど、どうしよう。


 早く、早く逃げないと。それとも叫ぶ?でも、何か言わなきゃ。何かしなきゃ。

 そう思うのに、私の口から漏れるのは変な呼吸音だけ。スカートの中の足も、震えて全く動かない。

 ゴールデンレトリバーにもビビる私は、る気満々のバカでかい怪物を前にしたら、固まることしかできなかった。



「グルルルルル………」



 ぼたぼた、とソレの口からよだれが落ちる。

 私の頭をかすめたそれは、ビチャリと嫌な音を立てて地面に落ちた。



「ガァッ!!」



 ひときわ大きく鳴いて、私に飛びかかってくる。



 ――――あ、これ死んだ。



 迫る怪物が、やけにゆっくり見えた。



 ――――でも……



「いやっ……!」



 ぎゅっと目を瞑り、顔を背ける。

 当然、そんなことで怪物が止まる訳がない。


衝撃と痛みを覚悟して――――――――――――――




『【消滅】内容を確認。発動を許可しますー』




―――――――いても、何も起こらなかった。



「え……?」



 恐る恐る、目を開ける。

 そこには、ただの静かな森があった。




 あれだけ恐ろしかった怪物は、跡形もなく消えていた。




「………は?え?どういう、こと………?」


 怪物自体が私の気のせい、なんてことはない。

 絶対、あれは『本物』だった。つらぬかれるような視線、落ちてくるよだれ、飛びかかってきた時の風。


 いきなりどこかに消えた?テレポート?え、もしかして私が移動した?


 混乱は止まらない。 でも、ただ一つ言えることは………



「えーっと…………私……助かった、の?」


 なんでかは全く分からないが、今、生きているということだった。

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