第2話、良くある話だ

現代日本にダンジョンが出来た。


良くある話だ。


違う?


そうだった・・・それはラノベが好きな人の常識だった。



そんな訳で、現実にダンジョンが出来た時に社会は大いに荒れた。


お堅い人ほどこの手の免疫が無いからね。


特に慌てたのは日本政府。


何せ、日本に だけ ダンジョンが出来たからだ。


大事な点だから二度言おう。日本だけ、なのだ。


当初、世界各国は冷ややかな対応だった。


「もしも魔物がダンジョンから出てきたら核攻撃も辞さない」と

国連で公言する北の盗人大国など過激な態度の国さえ有るほどだ。


しかし、そんな日本に対する逆風も今は無い。


ミスリルなどの独自な資源が発見されたからだ。


テンプレとも言える資源だが出た方が良いに決まっている。


これによりダンジョンはレアメタルを産出する貴重な鉱山に様変わりする。


資源貧乏な国、日本としては夢のような出来事である。


当初 傍観していたアメリカは資源が出たとたん気持ち悪いくらい協力的になって笑えた。


ここぞとばかりに日本に対して誹謗中傷の論陣を組んでボロクソに言っていた(ユスリ、タカリが得意な)アジアの国々も今は 恥知らずにも少なくない探索者を送り込んで来た。


余談ではあるが、ラノベに有るように この事で全地球の地下資源が消えたなら日本は世界から物理的に攻撃されていたかもしれない。くわばら くわばら


様々な議論の末、幸いにもダンジョンは【新しい秘境】と言うあつかいに収まった。


この物語はそんな秘境、ダンジョンが発見されてから20年ほど時間が経過した日本に生きる少年のお話。




ガラでもない人命救助をしたことで日曜日の稼ぎ時なのに300円しか手に入らなかった日の翌日。


つまり憂鬱な月曜日。登校というルーティンワークの始まりだ。


実力勝負な探索者を目指しているのに何故 高校に通うのか?


やはり中学を卒業した年齢では死亡率が高いからだ。


勿論、勉強にウンザリして一刻も早く働きたい人は高校など目もくれず プロの探索者としてデビューしている。


企業の部品としてトコロテンのように押し出され、卒業として片づけられた少し前の時代、生徒は犯罪者に成らないように仕事を押し付けておかなくてはならない厄介者だった。


それから比較すれば 生徒が人として職業を選べる選択肢が増えた事は大きな意味がある。


幸い義務教育の学校も含め多数の学校で大きな変化があった。


体育の授業に実践的な格闘技を選択科目に選べるようになったのは素晴らしい英断だと思う。


高校からは座学の選択科目にもサバイバル講座が追加される。

要するにダンジョンで生き残る情報と技術を教えてくれるようになった。


探索者志望の生徒の多くがそれらの授業を受けたいが為に進学した。


他にも同年代でパーティを組みたいという思惑も当然ある。


ガチな進学校は別として それ以外の高校は それらのカリキュラムで生徒を集めなくては生き残れないとさえ言われている。


時代が変わったのだ。



ガシィィ☆


「くっ・・」


ピュッ、ガスッ、


そんな訳で今日の体育は探索者志望の生徒が剣術。

それ以外の生徒は防具を付けた剣道だ。


名目上は剣術となっているが実質は竹刀を持った格闘術に近い。


殴る蹴るは当たり前。急所攻撃すら認められている。


魔物相手のダンジョンで反則もクソも無いからだ。


竹刀も普通より重たい物を使う。


当然、打たれればメチャクチャ痛い。


でもダンジョンで死ぬよりはるかにマシ。


すでに体育という温い時間ではなく、生徒も真剣そのもの。


痛いしキツイのだが探索者のプロを目指す生徒は誰もが納得している。


昔の学校でこんな授業をしたらバカなモンスターペアレンツ達が喜び勇んで怒鳴り込んで来ただろう。


もう一度言おう、時代が変わったのだ。




「よし、時間だ。5分休んで相手を交代しろ」


真剣に授業を受ける生徒を見て(仕事に遣り甲斐を感じる)教師も熱くなる。

まるでスポーツ名門校の部活のコーチのように恐ろしい。


だがスポーツのコーチと違う所も当然ある。


「うはー・・キツイわー」


などと言ってその場で座り込んで休んでも、寝転んで息を整えても怒らないし注意などしない。


少しでも休める時に出来る限り回復するのもサバイバル技術の内だからだ。

勿論ダンジョンで寝転んで休むバカはいない。


その場を臨機応変に判断し、自己責任で生き残るのが探索者。


命がけ、ゆえに自主自立の精神無くして探索者は務まらない・・らしい。


スポーツなら「規律がどうたら・・」「たるんでいる」などと怒鳴られるだろう。



「おい・・はひー、藤原ぁ。はひー、魔法特性なのに・・強すぎぃ」


息も絶え絶えに話しかけて来る未熟者は深瀬 たもつ

友達以上で親友未満的な奴だ。


「はー、はー・・っ。いや・・必死にも・・成るだろ。剣士のケホッ、お前と違って・・スキル無ぇし。生で・・はひー・・鍛えなくちゃ・・マジ死ぬ」


などと、死にそうな姿で答える もっと未熟者なオレ 藤原 まことです。


これがダンジョンの中での打ち合いなら勝負にすらならないけど、外ならまあまあ対戦できる。



「ほりほりー。二人とも そんな弱っちぃとモンスターのご飯だよー」


などと平然と明るく話しかけて来る猛者は 数少ない女子の茉莉野 毬奈まりの まりな。同級生の女子からはマリマリと愛称で呼ばれる人気者だ。


これがマジで強い。

小さな時から剣道に励み、さらに剣豪なる特性まで発現したため手が付けられない。

ダンジョンの外では特性もスキルも使えない。

なのに男どもをパカパカ薙ぎ倒す。

見た目は可愛い普通の女子なのにね。


「特性もスキルも関係なくスタミナ付けないと死んじゃうよー。

ほれっ立て。ハリーハリー」


ゲシゲシと竹刀で小突いてくる。


余裕のある奴はこれだから・・。



「心配してくれるのかー。じゃあ、危なくなったらママが助けてよ。うひひ」


「うわぁぁ、ママとか言うな、気持ち悪いよ」


復活した深瀬が反撃して毬奈まりなをおちょくる。あーぁ・・バカめ


「よーし、休憩終わり。打ち合い始めーーっ」


「はい、たもっチ。相手は君だ」


「えーー、断る」


「ほらほらー。他の皆はもう相手が決まってるよ。

甘えたいみたいだしー、うひひ。私が優しくじっくりとお尻ペンペンしてあげる」


パーン、ガシィッ☆ パーン、ガシィッ☆


ぎゃーーー


ひと際大きな音が連打される。なむなむ。


キジも鳴かずば撃たれまいに・・・


とても平和な?授業風景でした。


そして放課後。




「よう、兄さん優秀だねぇ。こんな所まで一人で探索かいな?」


昨日の損失を補うため短時間でお金に成る階層に降りてきた。

これから探索というタイミングで突然 おっさん達のパーティに話しかけられた。


普通は ダンジョンの中では知り合いでも無ければ話しかけるなんてしない。


臨時で勧誘するとしても入り口付近の広場で行うのが暗黙のマナーと言える。



「良かったらワシらパーティに入らないか?。腕の良い潜りは大歓迎だ」


怪しい、とてつもなく危ないとカンが教えている。


見た目はとても人の良さそうな普通のおっさんなのだが目が腐っている。


隠しきれない狂気がにじみ出ている。


まるで 半グレに殴られて怪我をする前の歌舞伎役者の息子のようだ。



「あのー・・俺の特性は魔法使いですけど。ほらっ」


試しに腕にある魔法使いの紋章を見せてみた。


「ああっ‼。魔法だ?、カスやんけ。使い物にならんわ、ボケ」


見事に態度が激変した。


他人にそこまで言われる筋合いは無いわ、ボケ‼・・と心の中で絶叫した。


ケッと唾を吐いておっさん共は立ち去っていく。



何だよ、あれは。


せっかくの探索が不愉快になってしまった。


冷静さを欠くのは危険なんだぞ。責任取れやゴラッ、と心の中で怒鳴る。


えっ?、ダンジョンは響くから静かにしているのだよ。モンスも集まるし。



この階層の名物はリトルオーク。

小型のオークね。メチャ八つ当たりしました。


5匹ほど倒してやっと怒りが収まってきた。

すでに2500円の石を手に入れた。レアは無し。

やはりゴブリンより効率がいい。



「何やワレッ、もう一遍言うてみや」


突然の大声がダンジョン内で響き渡る。


この声は、あのおっさんパーティだ。



曲がり角からコッソリ覗き見ると一人の少年探索者が取り囲まれている。


「剣士一人でワシらに勝てるぅ気か?。死にとー無かったら黙って付いて来いや」


これはアレか・・ニュースで見たやつだ。


金になる狩場を縄張りにしているヤッちゃんの集団だ。

安全地帯に探索者を拉致して麻薬付けにして依存させ

「ヤクが欲しけりゃ稼げや」と狩りをさせてしのぎを得るらしい。


昔は労働者を監禁して働かせるタコ部屋というのが有ったそうな。

さしずめ今はタコダンジョン?。


「普通の人と見分けが付かないヤクザの方が恐ろしい」という話は本当なんだな。

怖そうな姿で一般人にソレと教えてくれるヤクザの人は紳士的な人が多いらしい。


危ない危ない、見下される魔法使いで助かったよ。


では・・


「見つからなければ どうと言う事は無い」作戦しますか。




フォンン


「何やと!、これは 転移・・か」


脅迫されていた少年は突然消え去った。

転移の魔道具を使った時の音とエフェクトを残して。


まぁ、やったのはオレの魔法だけどね。


探索を不愉快にしてくれた仕返しだね。魔法使いナメるな、と心の中で叫ぶ。


ここだけの話、おっさん達を殺すのは簡単なんだ。ここはダンジョンだし。


しかし、あの手の人達とは関わりたくない。外では強いからね。


だから気付かれないように邪魔をしたのだ。



「あんなガキが高価な魔道具持ってるだと?」


「ヤバイ、あのガキが垂れ込んだらサツが押し寄せてくる。

急いでシマ変えるで」


良かった 良かった。彼らは出ていくらしい。


これで職場が平和になるよ。



今日の教訓


ダンジョンでは「人間のトラップ」にも注意しないとダメ、絶対。


マルッ






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