#029 クランっぽくなった

 ミドリたちは魔の森に来ている。すでにゴブリンが徘徊しているエリアは過ぎ、オークが徘徊するエリアを探索中だ。マリーの装備は皮の軽鎧とブーツ、そして頭から足首まで隠れる深紅のローブを着ている。さすがに探索中に日傘はさせない。全員が左腕に丸盾を装備し慎重に探索を進めていると、上空を飛んでるラプタからの念話。


 『1000メートル先にウルフの群れぽ。数は8匹』


 同時に視界の隅にピコーンと丸い地図画面が表示される。画面の中心がミドリで遠くに八つの赤い点がピコピコ動いている。同じ画面がマリーとコレットの視界にも表示される。

 

 『すごく便利ね』

 『ラプタ。凄いよー』

 『スキルレベルが上がって使えるようになった地図ぽ』


 固有スキル:知恵 Lv2(人語理解・地図)


 『群れのウルフは面倒ね。風下を通って迂回しましょう』


 暫く歩くと再度ラプタからの念話。


 『700メートル先にオークぽ。単独行動ぽ』

 『いいわね、狩りましょう。今夜はごちそうよ。コレット盾をもらえるかしら』


 コレットが【時空庫】から地面に鉄の大盾を出す。重すぎてコレットには持てない大盾をマリーは両手でヒョイと持ち上げ前方に構える。ミドリがパチンコを取り出し紐を引く。コレットが矢がセットされてるクロスボウを取り出し安全装置を解除する。


 3人は出来るだけ音をたてないようにゆっくりとオークに接近する。前衛はマリー、中衛がミドリ、後衛がコレット。遠くにオークらしきものが見え始める。


 ゴブリンと迫力がまるで違う身長が2mはあるオークに、ミドリとコレットはゴクリと唾を飲み込む。オークは獲物を探しながら徘徊しているようだ。 


 『オークを目視で確認。気づかれてないわね。コレットいけるかしら?』

 『やってみる』


 コレットはクロスボウを構え、じっくりと狙う。


 『えいっ』


 発射された矢がオークの左肩に命中した。


 「ブモーーーーー」


 オークは悲鳴を上げて先頭のマリーを睨みつけると元は冒険者のものらしき鉄の剣を握りしめマリーに向けて駆けだした。まるで闘牛が赤い布に突撃するみたいだ。オークが8メートルの距離に接近すると、ミドリがパチンコの玉を発射する。この距離ならまず外さない、オークの額に命中した。

 

 「ガッ」


 オークの額がパックリ割れるもマリーに駆け寄るスピードは落ちない。そしてマリーに向かって剣を振り下ろす。


 ガキン!


 大きな鈍い音がした。大盾でオークの一撃を受け止めたマリーは一歩も後退しない。


 ガキン!ガキン!


 オークはニ激三激と剣を振り下ろすがマリーは一歩も後退しない。


 『ミドリ。オークは抑えるから槍で攻撃よ。槍に強化をかけるわ』


 マリーがブツブツと呪文をとなえ、【付与魔法】でミドリの槍に強化を施す。ミドリは槍を構えオークの右足を突く。ズブリと槍の先がオークの皮を貫通して肉に到達した。槍への強化がなかったら皮で止まっていただろう。


 「ぶぎぃいぃぃ」


 傷口から大量の血を吹き出し、オークは右ひざをついた。


 『えいっ』


 そこに次の矢を装填し狙いを定めていたコレットが至近距離でクロスボウを発射。


 矢は左目に命中、眼球を貫通して脳に到達した。オークはビクンと痙攣し動かなくなり、ミドリが槍を胸に突き刺し死亡を確認。上空を旋回していたラプタがミドリの頭にとまる。


 『練習通りぽ』

 「そうね。みんな上手く動けたわね」

 「緊張したぁー」

 「みんな怪我はない?マリー、本当に大丈夫?」

 「もう少し重いと思ったけど意外と軽かったわ。オークの武器が剣だったからかしら?メイスとか持ってたら分からないわね」


 ハーフとはいえバンパイアの能力は凄かった。伊達に露天商をしながら各地を渡り歩いてきたわけじゃなく、ミドリとは潜った修羅場が違うのだ。さすがマリーさん、略してさすマリだ。


 場所を水辺に移してミドリはオークの血抜きの準備をする。血が抜けると皮や睾丸など高く売れる部位を切り取りコレットに渡す。コレットは嫌そうな顔で受け取り【時空庫】に放り込む。オークの討伐部位は豚のような鼻、最後に肉を切り分ける。今晩はトンカツと豚汁にしよう。解体の間、ラプタとマリーは周囲を警戒している。


 「ラプタがいると探索の効率が跳ね上がるわね」

 『この先にマナポーションの素材の自生地があるぽ』

 「今日は貴重な素材を集めるわよー」

 『主、ココミッツの新しい自生地も見つけたぽ』


 その日はオークを狩りつつ植物を採取して回った、とてもクランっぽくなってきた。



◆◆◆



 村長の執務室。


 マリーはミドリの家に住むことを村長に伝え、薬は村長にまとめて卸すことになった。先日の襲撃犯みたいな連中への対策だ。村長としても高品質な薬はいくらあっても足りないのでありがたい。ここは魔の森と敵国に接する村なのだ。

 

 紅茶を飲みながら世間話をしていると。


 「最近人が急速に増え、人口は600人を超えた。1年で1.5倍だ」

 「順調ですね、おめでとうございます」

 「ありがとう。ただ村が大きくなると悪いことを考える輩も増えてくる。ミドリも気をつけろよ」


 村長がフラグっぽいものを建てたが気にしないことにした。


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