第81話 褒めて伸ばす

「もう、ラベルさんは本当に……」

「すみませねシフォンさん」

 ダンジョンコアへと続く通路を進みながらGの曲線美を持つ脅威の学生シフォンに平謝りする用務員おじさんである。


 まあ考えなしだったのは事実なので素直に謝るのだ。本当にごめんねGクラスのシフォンさん。

「何故か少し小馬鹿にされてる気がします」

「そんな事はありませんよ」


 近頃パワフルな感じが垣間見えつつあるシフォンさんである、いずれはディアナやラビスみたいな武闘派にならないかと心配をしている。


 この子には持ち前の包容力とか清楚な女性らしさのパラメーターを伸ばしていって欲しい用務員おじさんである。


 そんな事を考えていると通路の終わりが見えてきた、しかし当然ながら無防備に近づくなんて真似はしない。

 『天眼』の魔法を発動してこの先にいるであろうダンジョンコアの守護者の姿を確認するのだ。


 ………やっぱりアイツか。

 そこにいたのは筋骨隆々な赤い身体を持つ巨大なミノタウロスだった。

 バトルフィールドとなる場所がかなり広い筈なのにこのミノタウロスが大きいから少し狭く感じるくらいデカイ。


 ダンジョンコアは部屋の奥、壁に埋め込まれる様にしてあった。その前に仁王立ちしたミノタウロスがいる。

 傍らにはバトルアックスが地面に刺さっている、既に臨戦態勢だなアレ。


 無論ダンジョンコアを護る中ボスだ、ただのミノタウロスでは決してない。

 腰と足元は金属製の防具を装備しているが上半身は防具なし、そしてその角は金色に光っている。


 確かゲームの設定ではミノタウロスの最上位種とかって話だったな。雑魚モブとかを呼んだりはしないが個体の戦力がとても高い筈だ。


 それではあまり役に立たないステータスを見てみよう。


 【名前:ボルゴール】

 【種族:超筋肉猛牛人スーパーマッスルタウロス

 【HP:690000/690000】

 【ATK:24000】

 【DEF:20000】

 【世界のイタズラによって生まれた謎の特異個体ミノタウロス。その筋肉は殆どの物理攻撃を無効化する赤き鎧、その戦闘能力は凄まじくバトルアックスの一撃はあらゆる敵を粉砕する! なお、寒さには弱く大抵の魔法にも弱い】


 ミノタウロスの最上位種ってゲーム知識はどうやらガセだったみたいだ、ネタ種族だった。

 しかしその戦闘能力とHPは阿呆みたいに高い、恐らくエコーよりも強いのは元から同じ中ボスと言ってもこっちのが格が……。


 いや、余計な思考はいらないな。

 なんかエコーがマジでキレてる幻影が見えた気がしたので考えを変える。


 恐らくあのミノタウロスはダンジョンコアから力を貰っている、だからあんなに強いのだ。

 さてっ遂に狙い目なボスを見つけたぞ。


「わっ我が師よ、少し良いですか?」

「何ですかアルティエさん」

「あのミノタウロス、普通じゃないですよ? 今からアレと戦うと言うんですか?」


「ええっまあそうですけど…」

「我が師ならともかく我々にアレはとても手に負えません、残念ながら力になれないと思われます……」


 コイツ、ビビりやがった……。

 日頃から我が師とか言って一番弟子ですみたいな顔してるくせになんつ~ていたらくだよ。

 そもそも用務員おじさんはともかくってなんだよ、俺だってあんなアックスでズバッとやられたら即死するに決まってんだろう。


 ゲームでもヤツに攻撃をさせるとパーティーメンバーにとんでもない被害が出てしまうタイプのボスキャラだった。


 攻略法は一つ、やられる前にやるしかない。

 その方法も既にイケると確信している用務員おじさんだ、問題ない。


「大丈夫ですよアルティエさん」

「流石は我が師! あの怪物も貴方が…」

「いえっあのミノタウロスを倒すのはこの場のベルフォード学園の皆さんですよ?」


 そこは勘違いされては困る、その為にここまで案内してきたんだからさ。


「……………え?」

「大丈夫大丈夫、さっそれではボス部屋に入りましょうか」

「ちょっちょちょちょ! お待ち下さい我が師よーー!」


 アルティエの背後に回り押せ押せする、アルティエはめっちゃ慌てふためいている。泣きながら鼻水垂らしてる姿が妙に似合うのは何故だろうか。


「ほっ本当に無理です! 無理ですから、絶対に無理ですからーーー!」

「まあまあ、大丈夫ですからね……」


 しかしアルティエ、以前より強くなって筋力も上がったのか予想外に抵抗が激しいな。

 大丈夫だつってんのにこのポンコツ女教師はよ。


「あんなのに勝てる訳がありません!」

「私が手を貸します。負ける訳がありませんよ」

「……本当……ですか?」

「はい、何よりアルティエさんは以前よりずっと強くなっているですから」


「……強く?」

「ええっとても成長しています、誇らしいくらいですよ」


 実際このポンコツ女教師、普通に強くなってるのだ。今なら樹海の魔物相手でも勝てるんじゃないかと思える程に。


「私が……師の……誇りですか?」

「ええっまあ」

 なんかちょっと違うけど、取り敢えず肯定しておくか。


 ポンコツでも弟子は弟子、基本は褒めて伸ばしてなんぼである。


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