第62話 過去の話の続き

 リエールの頭の中に流した過去情報についてはかなり端的にまとめた。ゆっくり与える情報でもないしそんな余裕もなかった、何しろ腐ダマとの戦闘中だったし。


 今回は余裕があるのでもう少し詳しく情報をディアナに与える。


 俺に妹が生まれた、俺にとって前世も含めて初めて出来た兄妹だ。その存在は異世界でチートもなしで貴族にも転生出来ず、十四歳で冒険者になっても全く成り上がれず稼げず、異世界産の謎動物にボコボコにされて相当ヘコんでいた俺の心を存外救ってくれたのだ。


 妹の名前は何にしょうかとか考えながらその日は農業に精を出した、そして家に帰る。

 家で寝てる妹を探した、しかし妹は見当たらなかった。


「父ちゃん、あの子は何処なんだ?」

「………捨てたよ」

 俺は耳を疑った。

「…………は? 何を言って」


「もう冬前だぞ、こんな時期に生まれた子供が冬を越せる訳がない。風邪もひいていた。子供を二人も育てる余裕なんかあるか、ましてや女など貴族や成功した商人以外の家では使い道がな─」


「ふざけんなよてめぇっ!」


 俺は父ちゃんだったその男に殴りかかる、しかしボコボコにされて返り討ちにされた。母ちゃんだった女は黙ってその光景を見てるだけだった。


 その男は身体も大きく俺より力が強かった、その理由は簡単だ。

 俺や母ちゃんよりもずっと沢山メシを食べていたからな、母ちゃんその次に食べていた。一番食べさせてもらえなかった俺が、一番痩せていて力もなかった。だから勝てなかった。


 家を追い出された、身体中が痛いがそんな事を気にしてる余裕はない。

 妹を捨てたと言った。

 俺には捨てた場所に心当たりがあった。

 村外れのボロ小屋だ、この村では良くそこに子供や、赤ん坊が捨てられていた。


 何度もそんな子供や赤ん坊の姿を見ては……俺も何も見てないふりをした。

 そんな余裕は自分達にないからと、あの男と全く同じ言い訳をしていた、クソだ。


 ボロ小屋に行くと小屋の隣に妹は捨てられていた。俺は妹を広いボロ小屋の中に入る。


 異世界の貧乏な家にはエアコンもストーブもない。

 汚い床に薄い布を敷いてその上で俺は妹を汚れた布に包めて抱っこしていた。

 なんとか温めようとするくらいしか出来なかった。


 自分自身がかじかんでいた、妹の方が暖かいくらいだ。

 ……その暖かさが無くなっていってるのを理解した時には妹の人生は終わっていた。


 妹は、目も開く前に死んだ。

 真っ暗な中、呼吸も禄に出来ず、冷たい闇の中で死んだ。それが妹の人生の全てだった。


 俺は歯を食いしばって泣くのを我慢していた。

「…………ッ! ……………っ! ………ッッ!」

 涙が何度も妹の顔にかかる、止められる訳がない。


 父ちゃんだった男が来た。


「死んだか? だから言っただろう、ソイツは生まれた時から助からねぇって。生まれた時期も冬で悪かったしな、その上風邪をひいたんだ、仕方ねぇんだよ」


 俺はまたその男に殴りかかった、そしてボコボコにされた。

 男は俺をしこたま殴ると満足して出て行った。

 俺は妹の亡骸を抱っこしてボロ小屋を出た。


 冒険者ギルドに向かった。この村にも冒険者ギルドがある。冒険者の中には魔法を使える人間もいるはずだ、ここはファンタジーな世界だからな。


 冒険者ギルドには魔法を使える冒険者がいた。しかし誰も魔法を使って妹を助けてはくれなかった。

「何でだよ! 確かに金はないけど、金なら絶対に後で払うからこの子に…」


「……無理だよ、金の問題じゃねぇんだ」

「!?」


「この国じゃな、貴族様以外の人間は魔法を覚える事も魔法を使うことも許されねぇんだよ。だからその子を例え生き返させる事が出来る様な大魔法使いがいたとしても……どうにも出来ないんだよ」


 国の意味の分からない法律に、俺は心底怒りを覚えた。クソみたいな世界や国や親元に生まれるにも限度があるだろうが。ふざけんなよ!


 しかし、同時に理解した。

 そんなクソ共と自分は何も変わらない、抱っこした妹の亡骸を見て思う。

 俺も結局、この子の為に何かしたのか。


 何か少しでも意味のあることをしたのか。

 この村では不要な子供や赤ん坊を捨てるなんて当たり前だった、そう思い込もうとした。

 両親がクズだった知っていながらそれが普通だと、そう思い込もうとした。


 妹をそんな連中に任せて仕事に出た、少しでも自分で考える頭があれば……そんな選択をするはずがなかった。


 その時に理解したのだ、俺自身も変わらずクズだって事に。

 俺は膝から崩れ落ちた。


 …………その時だ。


 師匠に出会ったのは。


「ん? 死んだのかその赤ん坊、仕方ないな。こっちに来いオレなら助けられるかもしれん、見せてみろ」


「…………へ?」


「だからさ、生き返らせる事がオレなら出来るつってんだよ……多分だがな!」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る