第56話 GOLD

「ラベルーーッ!?」

「ラベルさんっ!」

 ディアナとラビスがラベルが立っていた場所に走る、しかし残っているのはラベルだった灰だけだ。


「そっそんな…」

「嘘……でしょう?」

 シフォンとデュミナは呆然と立ち尽くしていた。


「エコー様、あの男は…」

 ボロボロのラナミスの言葉に同じくボロボロのエコーが答える。

「ええっ本来の彼の実力は私と同程度だったはず、それがあの化け物をもはるかに上回る力を振るうなんて……余程の代償があって然るべきだったのよ」


 腕を組むエコー、自身の腕を握る手が腕の鎧を歪めていた。


 ラベルの魔法『炎心神威』は瀕死の時にのみ使える魔法、発動すれば相手からの一切のダメージを受けない。何故なら近づく相手は全て灰となってしまうからだ。

 圧倒的な熱量と強化された身体はどんな攻撃にあってもダメージを受けず、倒れる事はない。何故ならダメージは魔法が消えた後に全てラベルにくるからである。


 それは即ち魔法が消えた時にラベルが必ず死ぬと言う事だ。


「ラベル殿……お前さんは俺以上の漢だ」

 ドニードと共に船員達も目に涙を浮かべた。

「全てをかけて、あの怪物を……なんて人なの?」

 アルティエは腰が抜けて地面に座り込みながらラベルの戦った後の場所を見回していた。


 大地が穿たれ、樹海の木々は焼き払われている。

 ダンジョンの魔物すら逃げ出したのか生命の気配すらない、そこは戦場跡地と言うよりも爆心地だ。


 そもそもラベルの師匠はラベルに『炎心神威』などと言う魔法を教えるつもりはなかった。

 しかしラベルは炎の魔法を扱う事において天才すら足下にも及ばないモノを持っていたのだ。


 教えた魔法をホイホイ覚えるラベルに気を良くした師匠が初歩の炎の魔法を教えた、それから僅か十日後には『炎心神威』と言う炎の魔法の深奥への扉すら自力で開いてしまった。


 その炎がラベルの中にある瞋恚の炎だと師匠が気付いた時には手遅れだった。思わずラベルをボコボコにしてしまった師匠の怒りは、恐らく自分へのものだったのかも知れない。

 ラベルの心に新たなトラウマが生まれた日である。


 この世界の歴史において並ぶ者無しと呼ばれた希代の大魔法使いの全霊の封印をもってどうにか抑える事が出来た。

 そして二度とその魔法を使うことを禁じたのだ。


「ラベルさん、私達…何も出来なかった…」

「ラベル、本当にお前は…ずっと皆を助ける為に…あのメイドの言うとおりだったんだな……」


「ラベルさん、本当に格好良すぎませんか?」

「おじさん。最初は凄い魔法使いなのに姑息だとか思っていてごめんなさい!」


 ラベルの死を受け止めきれない面々、それを尻目に一人の着物メイドがラベルだった灰が広がる場所へと歩く。


「…………」

 その懐から取り出したるは小瓶に入った金色のポーションである。


「「?」」

「「………………………ッ!?」」

 前者二名と後者二名の反応の違いは、それを使うところを一度見てるかいないかの差である。


 リエールが金色のポーションを灰に垂らす、ラベルが師匠から聞いた正式な名前は大冠霊薬グランドエリクサーと呼ばれる単なるポーションとは別次元のアイテムである。


 『身体が消し飛んでもいなければ大抵助かる』とラベルの師匠が太鼓判を押すアイテムだ。


 パアアアアーーーーー

 灰が光った。

「はいっ復活大成功ですね」

 ラベルが復活した。


「「「「「「!?!?!???!!!??!?」」」」」」


 身体が灰でもいけるらしい。

「流石ですラベル様!」

 リエールだけはとても良い笑顔であった、ほかの面々はそれぞれが自分が思いつく中で一番の変顔をしているようにラベルには見えていた。


 ちょっと吹き出してしまう用務員おじさんだ。



 

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