第52話 炎心神威
後半戦突入である。
こっちは用務員おじさんと着物メイドの二人掛かりで腐ダマを迎え撃つ。
『斬魔剣・光翼』は両手に二本、背中に四本、合計六本の光の剣を出現させて操る事が出来る魔法だ。
リエールの回復魔法のお陰で少しだけ魔力も回復したので使えた、サンキューだリエール。ついでに痛覚を魔法で麻痺出来たのも彼女の回復魔法のお陰である。
『無駄だよ、お前ら二人掛かりでもこのボクには勝てないからね!』
腐ダマに背中の四本の光の剣を放つ、光の剣は独りでに振りかぶり斬り掛かったり回転したり突きを放ったりと縦横無尽に腐ダマを攻める。
俺は両手の光翼を振るう、合計六本の刃だ。これだけの手数で責め立てているのに腐ダマはかすり傷一つ負うことなく対応してきた。
戦闘を続けながら用務員おじさんはリエールに確認する。
「リエールでも今のヤツには勝てないのか?」
「はい……今のヤツでも私より強いです」
マジか。結構魔法使わせて魔力とか削ったつもりだったのに…。
どこまでもふざけたバグキャラだな、腐ダマめ。
光の剣を両手で振り回して腐ダマと応戦する、リエールもどこからともなく刀身が水色の刀を取り出して接近戦を開始した。
やはりこのメイド服の着物成分は伊達ではなかったと言う事か。
そして普通に死にかけの用務員おじさんよりもリエールの方が強い、腐ダマも攻めあぐねている。
しかしあと一歩及ばない。
「………」
仕方ない、最後の切り札を出すか。
俺は心の中で師匠に詫びる。何故ならこの魔法は師匠に絶対に使うなよって念押しされた魔法だからだ。
………だったら教えるなよって話である。
その魔法は炎の魔法だ、だから用務員おじさんはこれまで一度も炎の魔法使っていないのである。
とある日の師匠との会話を思い出した。
─あ~成る程なぁ…ラベルお前は炎の魔法の才能が一番あるんだな。才能のある魔法はな、魔力の消費がめちゃくちゃ抑えられる上に強力な魔法を使えるから便利だぞ─
「おお~器用貧乏なだけの俺にも遂に才能が目覚めたのか! ムッフ~~ン!」
鼻の穴をデカくするボーイな俺に師匠は言った。
─いやっお前は炎の魔法以外の魔法も大抵……いや、まあいいか。んで自然の炎じゃないから空気のない所でもその炎は消えないんだ─
「なにそれこわっ空気のない所って宇宙空間とか成層圏の話? そんなの太陽じゃん、そういやこの世界って何で普通に太陽あんの?」
─オレも知らん事を聞いてくるな!─
怒られた。シュン。
─けどな、その炎の魔法はもう使うな─
「なっ何故に!?」
─その炎は
「……………」
─お前、死ぬまで許さず怒り続けると決めたヤツらがいるな。それは多分、お前自身だろう─
─お前は優しすぎるから、他人ならきっと許せるんだろう。けど優しすぎるからこそ妹も守れなかった無力な自分だけは許せない……違うか?─
─その炎はオレが封じる。もしまた解き放てばその炎はお前の身の内を焼き尽くすまで消える事はないだろう、だから使うなよ─
ごめんな、師匠。
「光翼、昇華……
ズンッと言う重い震動が一瞬だけ地面を揺らした。俺の身体に赤いラインが幾つもはしる、そこから燃えるような紅い燐光が発した。
身体を蝕んでいた呪いが燃やされていく。
腐ダマがこっちを見て驚愕した。
『バカな……『炎獄の呪法』を、炎の呪いを燃やしただと!?』
「こっから先はチキンレースだ。ビビった方が死ぬからな」
左手に持つ剣と右の関節から生やした剣がその刃を片刃の沿った刀身へと形を変える。背中の光翼は左右の光刀に吸収された。
鮮やかに紅く燃える
それを纏う俺の刀は
『炎心神威』はいわゆる発動条件付きの魔法だ。魔力はゼロでも発動出来る。珍しい魔法である。
本当に魔法なのかすら不明だ。
その条件はゲーム的に説明するなら『瀕死の状態』ってヤツだ。HP、MP共に残り一桁パーセントの状態でようやく発動出来ると言うリスキー過ぎる魔法である。
しかしその効果はえげつない。
この魔法は一度発動すれば魔法を解除するか俺が気絶するまで絶対に死なない、ダメージも受けないと言う無敵モードになれる。
説明は難しいな、つまり─
『無駄な足掻きだ、死ねよ!』
「ッ! ラベル様!」
リエールの攻撃を捌きながらこちらに攻撃魔法を放ってくる腐ダマ、やはり強い。
放たれた魔法はさっきの『炎獄の呪法』とやらの対象を敵一体に絞ったバージョンだと見た。
攻撃する敵が俺一人なので発動までのタイムラグが殆どない。
放たれる黒い閃光。
俺はそれを右手の光焔刀で一太刀のもとに斬り捨てた。
『………………は?』
まあ、これが無敵モードって事だな。
さっき言ったチキンレースってのはハッキリ言って大ウソである。
さっさとビビって逃げないと、お前絶対に死ぬよ。と馬鹿正直に教えてやる必要はないだろう?
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