第51話 その手の中で…
俺はまだ十代中頃の子供だった。
異世界に転生した、家は貧しかったが農家をしていた。
冒険者になったが貧乏なので武器も防具も買えなかった、魔物どころかお陰で村の外の動物にコテンパンにやられた、大人しく農家の手伝いを始めた。
機械のない農業って本当に大変だなとか思いながら子供の頃の俺は過ごしていた。
ある日、俺に妹が生まれた。
とても可愛らしい、前世では兄妹なんていなかった俺には妹は宝物のようだった。
けど、両親にとっては違った。
寒い季節だった、妹は俺に抱っこされていた、死にかけていた。
この世界はファンタジーなのは金持ちの世界だけだ。
金のある所には血反吐を吐いた人間でも一瞬で治せる毒消しポーションだとか四肢が欠損しても新しいのを生やしてくれる回復魔法があるのに、貧乏な田舎には病院もない、それどころか薬の一つも用意してくれる店もない。
異世界の貧乏な家にはエアコンもストーブもない、村外れのボロ小屋だった、汚い床に薄い布を敷いてその上で俺は妹を汚れた布に包めて抱っこしていた。
なんとか温めようとするくらいしか出来なかった。
自分自身がかじかんでいた、妹の方が暖かいくらいだ。
……その暖かさが無くなっていってるのを理解した時には妹の人生は終わっていた。
妹は、目も開く前に死んだ。
真っ暗な中、呼吸も禄に出来ず、冷たい闇の中で死んだ。それが妹の人生の全てだった。
俺は歯を食いしばって泣くのを我慢していた。
「…………ッ! ……………っ! ………ッッ!」
父ちゃんが来た。
「死んだか? だから言っただろう、ソイツは生まれた時から助からねぇって。生まれた時期も冬で悪かったしな、その上風邪をひいたんだ、仕方ねぇんだよ」
何度も言う、ウチは農家で、この世界では普通の家庭だ。この国ではこんな感じが常識なんだ。
貧しさはここまで人から思いやる気持ちを奪うのだ、俺は絶句した。
「……………」
うるさい、黙れ、喋るな!
このクズ親が、俺は両親に初めて殺意を持った。
俺の両親は妹が生まれて直ぐに捨てた、女で働き手としても使えない、そもそも二人目を育てる余裕もないと抜かしていた。
二人目が生まれたのも生まれた時期もお前ら後先考えないでサカッた結果だろうがこのクズが!
しかしそんな事はどうでも良かった、俺にコイツらを非難する事なんて出来ない。
日本に住んでた頃、テレビやネットで子供や赤ん坊が命を落とすってニュースが流れても嫌な気持ちにこそなっても、それを本気でなんとかしようなんて動いた事なんてなかった。
世界中には恵まれない子供が沢山いて、食料不足や適切な治療が受けられずに生まれて間もない命が失われています。そんなニュースも散々耳にしてテレビのCMでも散々見てきても、何かしようとした記憶はない。
この世界に生まれて、他人の家の、こんな風になってる赤ん坊や子供を見ておきながらずっと……ずっと見ないふりをしてきたのは俺もなんだ。
そして、助からないのが目に見えていながらこんな事しか出来なかった俺に……誰を責める資格があるって言うんだ。
親がクズなら
「………ラベル……様」
「俺はクズのままでいるのが嫌だった、だから田舎でたまたま出会った師匠に土下座して弟子にしてもらったんだよ」
リエールが俺の頭を抱きしめた、まだまだお子様体系のリエールじゃな。けど良い香りがする、やはりそう言うもんらしい。
「………俺は、人に目の前で死なれたら。妹の事を思い出してめっちゃ落ち込むタイプの人間なんだよ、だから助けるんだ……出来るだけな」
「理解しました、リエールはラベル様の望みを叶えます」
妹には名前すら無かった、俺の手の中でどんどん冷たくなっていった。人の死を見るとあの地獄の時間を思い出す、だから、死を見たくないから俺はバリーみたいなヤツでも助けるんだよ。
ただの我が侭さ。
多分、俺がずっとベルフォード学園って言う閉ざされた世界で用務員おじさんをしてたのは。
異世界でも俺は引きニートしてただけなのかも知れないな。ダサすぎて笑えないよ……。
ただまあ。
「リエール、俺はやっぱり大抵の碌でなしにも死んで悲しむ人間がいると思うんだ。だからあんな思いは出来るだけ他の人には…して欲しくないんだ」
「はい」
「もちろん、元から守りたい人間もわりといるよ。あそこで変な取っ組み合いをしてる五人とかね」
「……はい」
俺はディアナ達を見た、リエールが少し思うところでもあるのか返事が遅れる。
そしてシフォンがこっちを見て目を見開いていた。どうかしたのか?
少し気になったが現状は気にしてる場合じゃない。エコーとラナミスがぶっ飛ばされた。
腐れダンジョンマスターが来る。
『誰かと思えば、ボクに負けてダンジョンマスターの座を追われた負け犬ちゃんじゃないか~~。ボクに服従して許しをこえば肉奴隷にしてやるって逃がしてやったら、まさかまだ噛み付いてくるなんてね……』
「生憎ですが私が
ん? 今普通にメイドって言ってたよな。
それなのに、なんか変な感じがした。一体なんなんだろうこの感覚は…?
まあいいか。気を取り直して俺は腐れダンジョンマスターと対峙する。
「……おいっ腐れダンジョンマスター」
『アッ!?』
あっついテンションに任せて心の中での悪口を言ってしまった………別にいいか、相手は腐れダンジョンマスターだし。
「お前はここでぶっ殺す、理由は分かるか?」
『知るかよ、薄汚い中年人間が!』
中年人間ってどんな暴言だよ。
ひとっ飛びで数十メートル以上ある距離を一瞬で跳躍してきた腐れダンジョンマスター。
ウザいから……略す、略して
右手を動かしたら腕の関節から先が崩れてしまった、とっくに魔法で痛覚は麻痺させてるとはいえ気持ち悪い。
「……『斬魔剣・光翼』」
その関節から先に光の刃を生やす、腐ダマの攻撃を光の刃で受け止めた。
「俺はな……誰かの未来とか命とかを踏み躙るヤツはもう許さないって決めてるからだよ」
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