第31話 英雄の夢(2)
「目障りな魔物め! 消えろ!」
バリーは攻撃魔法を使った、飛行艇が墜落した場所で初めて使った攻撃魔法。二度目ならもっと上手く扱える自信があった。
『氷像の槍』『風化の砂嵐』『貫通する風弾』名前しか知らなかった上級クラスの攻撃魔法を次々と発動出来た。
魔力の槍に貫かれた夜狩梟は氷像と化して砕け散った。砂嵐に飲まれた月光蛾は瞬く間に塵となる。土魔法で防御の為の壁を出した黒魔猫はその壁ごと風の弾丸に貫かれた。
ベルフォード学園の人間が苦戦した魔物を容易く凌駕し、粉砕していった。
『魔力剣』で応戦していたラビスも、雷魔法で魔物を蹴散らしていたディアナも魔物を殲滅するバリーの姿を見た。
他にも多くの学生や教師がバリーを見る。
(ここでこの僕が……英雄になるんだ!)
バリーは尽きることのない魔力を以て全ての魔物を殲滅した。
そして彼を取り巻く状況は一変する。
今まで彼を貴族としても、一人の魔法使いとしても下に見ていた連中が彼の元に集まってきたのだ。
口にされる数々の称賛がバリーのプライドを更に増長させた。
「安心していい、この僕が必ず皆をこのダンジョンから助け出してあげるよ!」
バリーの発言権は教師達を越えた、そして更なる魔物の襲撃を何度もバリーが撃退し、今はまだ懐疑的視線を向けてくるディアナや一部の教師や学生の達の信頼も得て、ゆくゆくはベルフォード学園に本物の英雄として帰還する……筈だった。
「また下民………貴様か?」
それはたまたま視界な入ってきた汚物が不愉快だったから声をかけただけだった。そもそも性格に難はあるが見目麗しいディアナといい歳をした、しかもたかが用務員が話をしているのも気に食わなかった。
「………バリーか」
「これはこれはディアナ先生、そんな下民と並んで歩いては貴族としての品格を疑われますよ?」
「言ったはずだ。その下民と言う言葉は使うなと」
「何故? そんな汚物を人として扱うディアナ先生を僕は理解出来ませんよ」
「貴族としての立場にある者がそんな傲慢になってどうする、私達は国と王、そして国で生きる民を守る存在なんだぞ」
「……………フン」
バリーはディアナと言う教師を女として見ていた、当然庇われている用務員おじさんなど存在するだけで許せなかった。
『火炎弾』の魔法をラベルに放つ、しかしディアナが『魔障壁』でラベルを守った。
ますます不愉快になるバリー。
「バリー、お前は教師に……」
バリーからすれば狙ったのはラベルである、しかし力を得たバリーは感情のままに話を始める。
「先の魔物の襲撃の折、貴女も見ましたよね? 僕の魔法が迫る魔物を次々と滅するのを、今まではこちらも無駄に目立つ事を避ける為に実力を隠して来ましたがそれも─」
あの声の言葉を全面的に信用するバリーには、自分こそがこの集団の中心にいるべきであり、それに相応しい理由をあげていたつもりだった。
「──そしてディアナ先生、貴女の実力では僕には遠く及ばない事も理解してるはずだ。この場で自分の正しさを通すだけの実力がないのなら、その場で黙ってくれませんか?」
「バリー、貴様!」
「昨夜の魔物の襲撃の折、貴女方教師は僕ら学生を守れなかった。だから仕方なく真の実力を隠していたこの僕が前に出て対処してあげたんですよ? そしてディアナ先生達を守ってあげたんだ。その僕にその態度はあんまりではないですかディアナ先生?」
しかし自らの力を誇示すればするほどにディアナのバリーへの態度は固くなっていく。
バリーは苛立ち始めた、その矛先はラベルへと向かう。
「ん? オイオイどうしたんだ下民よ。まさか恐ろしくて声も出せなくなったか?」
「……………」
「バリー! 力で人を黙らせるなど…」
貴族は力を以て下の人間を従わせるものだ、バリーはそんな風に教育された人間である。そして力があれば、同じ貴族でも従わせる事が正しいのだ。
何故ならあの声がそうだと肯定してくれたのだから……。
「うるさいんだよ、僕はその下民に声をかけているんだ。少し静かにしろよ」
「……………ッ!」
バリーはこの場でラベルを始末し、ディアナに力の差を教えれば全てが上手く行くと思っていた。
しかし話は予想外の方向へと向かう。
「あっおじさ~~ん!」
なんだアイツは、とバリーは面食らった。
半袖と半ズボンを着ていてホカホカしていた。確かデュミナと言う学園の生徒だ、外国からの留学生だったが魔法の実力もそれなりに高いと聞いた憶えがある。
しかし何故にそんな女子生徒がこの状況で出て来るんだと、バリーは軽く混乱した。
「お風呂、最高だったよ! もう髪もツヤツヤ肌もツルツルだよ~~」
「「「……………」」」
その一言であった。お風呂で身体を綺麗に出来ると言うそれだけの言葉で半数以上の生徒(女子生徒は全て)と数名の教師(こちらも女教師は全員)が、本来ならバリーを英雄として称え、学園で彼のダンジョンでの偉業を他の生徒や教師に話す役割の者共が離れていったのだ。
挙げ句にダンジョンでの時間が経過すればするほどに学生は少しずつその安全な場所へと流れて行っているのだ。バリーが目の前で魔物を容易く葬る勇姿を見てもなお……止まらなかった。
「くそっくそくそくそ! あの用務員が余計な事をした、あのお風呂女が余計な話をした、許せない。僕が英雄となる事を邪魔する連中なんて……!」
そんなバリーの耳にあの声が届く。
『そうだね、なら先ずは……もっと強くならなくちゃね?』
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