第29話 真・お風呂の力

「昨夜の魔物の襲撃の折、貴女方教師は僕ら学生を守れなかった。だから仕方なく真の実力を隠していたこの僕が前に出て対処してあげたんですよ? そしてディアナ先生達を守ってあげたんだ。その僕にその態度はあんまりではないですかディアナ先生?」


 ペラペラと良く喋るよ、バリーの増長がとどまる事を知らない。

 ディアナとしてもバリーのイキりまくりの現状をどうにかしたいとは思っているらしいが本当に彼の方が強い事を理解してるらしく以前程強くは出れないみたいだ。


 ならばここは用務員おじさんの出番か?

 ぶっちゃけこのバリーをセーフティポイントに避難させるとか有り得ない、まず間違いなく迷惑を被る人間が多数出る事になる。


 そうなれば流石に魔法を使えるのを秘密にしたい用務員おじさんでも堪忍袋の緒がキレる事態になりかねない。


 ならばここでバリーの身に何が起こっているのか、謎バフの出所は何者なのかを全て確認するべきではないか。

 そう考え始める自分がいるな。


「ん? オイオイどうしたんだ下民よ。まさか恐ろしくて声も出せなくなったか?」

「……………」

「バリー! 力で人を黙らせるなど…」


「うるさいんだよ、僕はその下民に声をかけているんだ。少し静かにしろよ」

「……………ッ!」

 バリーのディアナを睨む目つきがヤバいな、向こうはこの場でおっぱじめる気満々って事か?


 こちらとしては場所は変えたい。だってさっきからバリーが他の学生や教師から注目を集めている、学生はバリーの実力を見て頼りにしているらしく好意的な感じ、一方で無能扱いされた教師陣は不服そうにしていた。


 どのみち人の目があり過ぎると用務員おじさんは魔法を使えない、だってオークレンでは貴族以外が魔法を使う事は犯罪になるから。本当に面倒くさい法律だ、誰得の法律なんだこれ。


 最早ディアナにも魔法が使える事実を話してから一度バリーには痛い目を見て貰おう。そしてディアナの協力と魔法でバリーの記憶とかを良い感じにして全てを丸くおさめるのだ。


 そんなことを考えていた時である。


「あっおじさ~~ん!」

「……え?」

 人をおじさんと呼ぶのは赤みがかった茶髪をツインテールにしてる美少女、デュミナである。


 風呂上がりの半袖と半ズボンを装備してホカホカしながらこのシリアスになりつつある現場に現れたぞこの子。

 そして満面の笑顔で言い放つ。


「お風呂、最高だったよ! もう髪もツヤツヤ肌もツルツルだよ~~」

「「「……………」」」

 なんつ~の~てんきな事…。そしてその後ろにはラビスとシフォンが似たような姿でホカホカしていた、その表情はとてもばつが悪そうだぞ。



 ◇◇◇◇◇◇



 その後なんやかんやあってベルフォード学園の面々の避難は無事に完了した。

 しかしバリーと一部の生徒と教師は避難をしなかった。拒否られたのである。


 バリーの言い分は長々としていたが要約すると、自分が下民だと散々馬鹿にした用務員おじさんが発見したセーフティポイントにお世話になるのはプライドが許さなかったらしい。


 そんな彼の呼びかけに応じたプライド高めな学生が彼の元に残った。

 おそらく魔物を撃退した場面を目撃して彼なら自分達を守ってくれるのではと考えたのかも知れない、そして学生だけを残す訳にもいかないともっともらしい理由を述べながら以前用務員おじさんに敵意をむき出しにしていたアホトーク教師陣がバリーと一緒に残った。


 こちらも本音はバリーと大差ない理由である、人の悪感情をオーラ的なヤツとして視認する魔法『敵意看破』で見ると真っ赤なオーラを纏っていたので間違いないね。


 ちなみに女生徒とディアナみたいな人数も少ない女性教師はみんなセーフティポイントへの避難をする事なった。

 流石にディアナ達女性教師陣は交代でバリー達、プライド高過ぎ組達の様子を見に行く的な事を話してはいたがお風呂と言う圧倒的な力の前にセーフティポイントへの避難を選んだのである。


 綺麗さっぱりしてるデュミナ達を見ては仕方ない事かも知れないな。ディアナとか髪の毛の手入れには気を使っていたとかテキストに出てたし。


 多分他の女性陣も似たようかもんだろう、何しろ貴族の子女やらであるからして。見た目も気にするのは仕方ないお年頃ってヤツだ。


 本音はバリーとの決着も早々につけたい、けどこの大人数をラビス達に任せてセーフティポイントへお送りする訳にもいかないので俺も一度セーフティポイントへと戻りディアナ達に施設の事とかの説明を……するリエールの暴走を止めるのが今の用務員おじさんの仕事だ。


 セーフティポイントに行く前のワープポータルの前にいてすら何やら話し合いを始めたディアナ達教師陣とさっさと入ってお風呂に行きたい女学生のにらむような視線に晒される用務員おじさん。


 そんなタイミングににワープポータルからひょっこり出て来たのはリエール。

「いつまでその小汚い姿で女性が突っ立ってるんですか? さっさとお風呂にはいって下さい!」


 いきなり着物メイドに小汚いと言われた女性陣は背中越しでも心にダメージを受けているのが見てとれた。それとリエールってセーフティポイントに来た人間に先ずはお風呂を強制してくるのは何故なんだろうか。


 ………来る人間来る人間みんな小汚いからかな。


 

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