第15話 過去見聞
「まさか運だけで助かるとは、下民とは本当に悪運が強い生き物だな…」
「…………」
どうやらディアナの言った言葉は欠片も彼の心には届いていないようだ、まあ言葉だけで人間を全うにするとか至難の業過ぎるので仕方ない。
現れたバリーとそのお供の二人は以前用務員おじさんを足蹴にした時と何ら変わらない下卑た笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「オイッ! バリー君が話し掛けているだろうが、ちゃんと返事も出来ないのか!?」
「貴族への不敬罪は即刻死刑だぞ、分かってるのかこの下民が!」
君らこそ分かってるの? ここ異次元にあるダンジョンなんだぜ?
貴族とか一般人とか、こんな状況で何か関係あるって思ってるの?
そもそも不敬罪で即刻死刑とか聞いたこともないよ。そんな法律どこの封建国家ならまかり通るんだって話だ。バカじゃないのかね。
現在用務員おじさんは魔法を連発して魔物を退治したりして絶賛テンションが爆上がり中なのだ、正直今の状態だとこの三人を魔法で黙らせても良いのではないかなとか考えてしまう。
ファンタジーな暴力で解決とかアレだけど、話が通じる相手じゃないのを既に十分に理解してるからな。もう色々面倒だし、我慢も限界だったし、ここダンジョンだしと様々な理由が頭の中に溢れてくる。
そして最終的な決断として、もう魔法でぶっ飛ばしてしまって後で記憶を良い感じに改竄とかすれば万事オッケーじゃね?
とかなりアウトな事を考えてしまう自分を発見。
いかん、いかんね今の用務員おじさんは。
流石にそんな真似をすればディアナ然りラビス達然り、せっかくベルフォード学園にも悪くない人々がいると思えたのに色々と台無しになってしまう予感がある。
特にディアナとかにかなり嫌われるかも知れない、飛行艇に乗る前の俺なら別にどうでも良かった筈なのに今はそれが少し嫌だと思ってしまうのは、多分彼女の人間性が真っ直ぐだと好感を持っているからだろうな。
彼女に否定されると言う事は、自分も目の前のバリーと同類になったのだと言われているように感じてしまう、それが嫌なのだろう。
それはやはり勘弁だな。
そこで用務員おじさんはほんの少しの抵抗として目の前の貴族学生様達に軽い会釈のみの対応をして無言でその場を後にする事にした。
これが精一杯の平民の抵抗である。
「………………」
「ん? オイオイ、無視をするのか下民風情が。ここにはディアナもいないんだ、お前を助けてくれる存在なんて誰もいないんだぞ? その事を理解してるのか?」
ディアナ先生な、おたくこそそれ生徒の態度じゃないだろう。本当にムカつくわこの子。
「全く、これだから下民と言う人種は嫌になる。貴様らは僕ら貴族と同じように二本足で立って同じ言葉を使うからいって、自分達が僕らと同じ人間だとでも思っているのか? 勘違いも甚だしい!」
いきなりスゴイ事を言い出してきたな。
社会的地位とかに差があるのはもちろん理解してるけど、ここまでの事を面と向かって口に出すとは、日本での前世のも含めて一人もいなかったぞ。
社会主義とか資本主義とかの末路にはこう言う人間がいるのか? まあ大して学がないのでよく分からんけど、この少年の考えがヤバイ事は用務員おじさんでも分かるね。
一言でいればイカレてる。
「あの飛行艇の船員達もそうだった、自分達の無能で飛行艇を墜落させておきながらダンジョンの魔物から守って欲しいだと? 本来僕ら生徒を大人として守り、その身を肉の盾にでもするのが道理の下民共が全く……」
今なんかとんでもない事を口にしたなコイツ。
仕方ないので無言対応は辞めて話をする事にした。
「すみません、飛行艇の船員の方達は生きているんですか?」
「あ? ようやく口を開いたかと思えば僕ら貴族であり生徒の事よりも船員の心配をするのか? 貴様ら下民はどこまで自己中心的なん─」
バカは無視して魔法を発動、『
本来ならこの世界だと、犯罪者が本当に有罪かを知る為とかに使われる魔法である。確認出来る過去は数日前までが限度だったりするし何日も前だと話した内容が全て確認するのが出来なくなったりと万能ではない、だが数時間前なら余裕で知りたい事は全て知れる筈だ。
「!」
そして『過去見聞』で確認した、どうやら飛行艇は不時着には成功したらしい。木々を薙ぎ払い所々出火しながらも船員は無事だったようだ。
生徒も教師達も大半が自力で脱出したので当時この場にいる殆どの学園の人間はいなかった。
しかしこのバリーはいた。何故なら彼はその手の脱出に使える魔法を一つも使えなかったからだ。お供達は教師に助けられたらしい、そう言やディアナがそんな話してたっけ?
特に飛行艇内で船員達にも横柄な態度を取っていたバリーは悪目立ちしていた。不時着して助けられる形になったバリーとベルフォード学園の人間に見捨てられた船員達の間には嫌な空気が満たされる。
その上飛行艇の近くには魔物まで現れた、当然船員達はバリーに助けを求めた。自分達は飛行艇を無事に不時着させた、だから今度は魔法で自分達を守って欲しいと。
しかしこのバリー、大した魔法なんて一つも使えなかった。偉そうな態度は見栄だけの代物で以前俺に言っていた『石化』の魔法すら口からでまかせだったようだ。
なんか少し可哀想になってきたな、安易に人の過去とか見るもんじゃなかったよ。
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