第2話 魔物の掃除
転移して向かったのはベルフォード学園の敷地内にある三つの森の一つ『フォルン森林』だ。
本来は魔物なんていない美しい自然の森である、日夜俺と同じような用務員が枯れ葉などを掃除したり森の通路で邪魔にある枝を切ったりして管理しているからな。
当たり前だがベルフォード学園はとても広い敷地を持つ、働く用務員も清掃員役のヤツだけでも何百人といるのだ。
しかし今はこの森に用務員はいない、俺の空間魔法でこの森全域に『認識不可空間』の魔法を発動したからだ。
この魔法は術者以外には認識出来ない空間を発生させて余計な人間がその空間内に侵入する事を防ぐ事が出来る。
要は人避けの魔法だ、そこまで大した魔法じゃない。
俺以外はまず魔法なんて使えない普通の用務員なのだから通用する魔法だな、実力のある魔法使いなら見破られる可能性はある。
だからその前にさっさと倒してしまおう。
そして森を進む人が通れるように整備された森なので移動するのは楽な方である。
既に魔法で敵さんの居場所は把握済みだ、俺はそこに向かって一直線に進んだ。
「………そこに隠れてるな?」
俺は足下の小石を拾い森の茂みに投げつける。
するとその茂みから大きな何かが飛び出して来た。
地面に着地して、奇声を上げながらこちらを見据える魔物。
見た目は黒い犬に近い、しかし体長が軽く人間の大人の倍はあり、赤い目には俺を殺そうという殺意しかない。
完全に魔法で生み出された魔物だな、本当にこの学園の人間って生み出すだけ生み出しといて後は放置ってどうなの? と思わなくもない。
まあ貴族様は基本的に責任とかは全て他人になすりつけて平然としてる人種ばかりだ、多分、小さいうちに捨てればそのうちのたれ死ぬとでも考えたんだろうな。
貴族、碌でもねぇ~~。
「お前もこの学園の被害者なんだよな…」
魔物が俺に向かって走り出してきた、多少は距離があるとはいえかなり速い、直ぐに距離はなくなるだろう。
魔物が跳躍した、俺は魔物の攻撃を躱す。
幸い魔法とか変な特殊能力を持った個体ではないらしい。
以前戦ったヤツには首が六つもあるヘビみたいなヤツでそれぞれの頭から炎とか氷とか雷を放ってくるというふざけたチートモンスターだったんだよ。
あれは本当に死ぬかと思った。図体もマジで十メートルくらいあるんじゃね?ってデカブツだったから倒すのに苦労した。
それに比べれば少しデカイだけの犬なんて目じゃないんだよ。数度攻撃を躱して動きに慣れてきたので次の一手だ。
俺は『空間拡張』の魔法を発動した。
この魔法は俺の魔法の範囲内の空間を広げる事が出来る魔法だ、これで俺と魔物の距離を数メートルから数十メートルに広げる。
しかし魔物はいきなり距離が空いても問答無用で走ってくる、俺は更に空間を拡張してお互いの距離を広げた。
そんな事を数分程続けると流石の魔物も疲れたのか動きを止めた。
当たり前だが魔物も生物だ、ずっと全力疾走とか無理無理、数百メートルでも全力疾走すればバテる、こんな風に少し魔法で弱らせるのが安全に倒す鉄則だ。
「……決めるか」
俺は疲れた魔物に『拘束』の魔法を発動して動きを止める。まるで金縛りにあったように動かなくなった。
よしっこれで……。
あっ魔力を感じたぞ。
魔物が開いた口を俺に向けた、すると炎の塊を口から放ってきた。
魔法で作られた生物ってホントにこう言う所が嫌なんだよ、余計な能力を無駄に付与して訳の分からん生物を産み出しやがってさ。
「………まあ防ぐけどね」
『魔障壁』を発動、魔法のバリアが炎を防ぎ散らした。幾らオッサンの魔法でもそんな攻撃じゃ破られないよ?
そろそろ本当に決めるよ……ごめんな。
「俺の魔法じゃさ。お前を助ける事は出来ないんだ……」
俺は『風塵の刃』と言う不可視のカマイタチを放つ魔法を発動した。
魔物の首をチョンパしてお掃除完了である。
俺は無事に魔物を倒した、仕事なのでしてるが本当に気分が悪い仕事である。
この魔法のお陰で俺は魔物と戦えるようになったのだ。だったらまた冒険者にでも戻れば貴族になんて足蹴にされないって?。
実はこのベルフォード学園があるオークレン王国は貴族以外は魔法を使う事も覚える事も禁止されているのだ、理由?そんなのバカらしくて知りたくもないのである。
だから用務員のおじさんは隠れてコソコソと魔物の掃除をしてるのだ、お陰で近頃は用務員の仕事をサボッてんじゃね? ってふざけた噂まで広がる始末だ。
本当にムカつくわ~~。
しかしそれでもこれまで用務員おじさんを続けてきた理由。
そこは色々あるのだ、このベルフォード学園は世界に名だたる名門学園。用務員にすら専用の宿舎があり食事や浴場がタダなのだ。お陰で先々の事を考えての貯金が貯めやすいのだ。
トイレも水洗式のちゃんとしたもので異世界転生して田舎のポットン便所に軽く絶望していた身としてはここは貴族さえ居なければ天国のような職場なのである。
本当に貴族さえ居なければな~。
まあそう言う面倒くさい連中の傍で働くストレス込みでの待遇の良さなのだから仕方ない。
「さてさて、内心の愚痴はこれくらいにしてこの魔物の死骸を掃除しないとな……」
物言わぬ骸、この学園にいるどこぞのタコ野郎が身勝手に生み出し放置した命だ。
俺にはこんな事をしでかした犯人を糾弾する事も何も出来ない、貴族でも何でもないからだ。
まさに産廃キャラみたいなもんだ、泣けてくる。
「ホント、師匠はどうしてこんなクソみたいな所に俺を……?」
師匠はいつだって大胆不敵に笑っていた。
やることなすこと全部はた迷惑でめちゃくちゃで、しかし外道やらクズには容赦のない善人であった。
本当にさ、あの恩人の母校じゃなけりゃとっくに見捨てて遠くに旅立ってるね。
魔法で魔物の死骸を異空間に転移させながら俺は次の清掃場所ってどこだっけとか考えていた。
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