❅3.色のない日常

また今日が来てしまった。

毎日思う。今日も今日が来てしまったと。

毎日毎日何も変わらない。

例え僕が変わっても変わらなくても。



僕は言いようがないけどなんだか人と違うことを感じているらしい。

それは、容赦なく僕を傷つけるもの。

逃げても逃げても追いかけてきて追いつめられる。

まるで鋭利な刃物みたい。

その名称は…僕にはわからない。

どんな優しい言葉をもらってもどんな柔らかな顔を向けられてもその裏を僕は知ってる。

裏には醜い感情が隠れてる。

でも、それが本音。

人はみんな本音と建て前を使い分けて生活をうまく過ごしてる。

偽りで仲良しごっこしてる。

僕もいっそ見ないふりして何もなかったように生きられたらいいのに。

出来ない僕は不器用、社会不適合。

この世界はすごく生きずらい。

それでも僕はこうして今日も生きている。

この世界から逃げることも出来ずに。

死ぬ勇気もないまま死にたがり願望ばかりがつのる。




空は雲一つない快晴。

窓から入る風に教科書がページを進める。

隣から規則的に聞こえる呼吸音。

きっとまた居眠りでもしているんだろう。

まあ、僕が言えたことでもないけど。

こうして教室の端の一番後ろから外を眺めてるし。

ふと、教室へと意識を向けてみる。

黒板に並ぶ文字。

意味をなさない単語たちが散らばる。

またひとつ…またひとつ。

まかれた餌をつつく鳥のように箱の中でまかれた単語を取りこぼさないよう必死にかき集める僕ら。


教師が僕の隣に視線を送る。

先生気持ちにじみ出てるって。

絶対次当たるだろうな。

『いず君寝ているならこの問題解けるわね?やって』

ほら、あてられてるし…。

立ちあがった隣の奴。

歩き出したと同時にチャイムが授業の終わりを告げる。



窓から入り込んだ風にノートがはためく。。

授業が終わり束の間の休憩。

僕の苦手な時間が始まる。

僕はこの空間から自由になりたいと思いながらもこの自由に好きなことをしてもいい時間の自由に戸惑う。

僕は何をしたらいいんだろう。

見渡す教室。

みんなそれぞれ好きなことをしてる。

友達と話したり係りの仕事をしたり。

そうどことなく眺めていたら鋭い視線を感じた。

なんだ?思考を巡らせて…手元を見て気付く。

そうだった。

今、本を開いてない。

本を読んでいる格好をして観ていないと。

みんなから嫌われるんだった。

みんなは僕の目が気に入らないらしい。

そそくさと本を出して気晴らしに窓から外を眺める。

聴こえるヒソヒソと。

陰口にうんざりしながら知らない気にしないふりをして。


突然教師が僕の名を呼んだ。

「朔耶、ちょっと来なさい」

教室が騒然とする。

教師は何を怒っているんだろう。

「はい。」

僕は何か悪いことをしてしまったかな。

そう考えながら教師のもとに行くとその場でこう僕に叱った。

「予定黒板書く日だろ?読書ばっかりしてないで手伝ったらどうなんだ。

なあ?」

教師が同じ当番の子に同意を求める。

僕に向ける教師の目が冷たくて痛い、クラスメイトの静まり返った空気が視線が容赦なく僕を刺していたい痛い。

「はい、全然手伝ってくれなくて」となにに対してなのか泣き出してしまった。

「お前は協力的でない。だから、はぶられるんだ。お前が悪い、だからいじめられるんだ」

教師は僕にそう告げる。

教師はなにもわかっていない。

僕は同じ当番の子に…要約すると“お前が先に全部やるから仕事がないうざい邪魔どっかいけよ”と言われたからこうしているだけなのに。

何故?。

だったら僕はどうしたらいい。

教えてほしい。

教師を見ても、クラスメイトを見ても誰も教えてはくれない。

苦しい。なんで…。

教師も、クラスメイトも全てが僕を切りつける黒い影のようだ。

泣き続ける声がこだまする。





そのあと、どうやって話が進んで終わったのか僕には分からなかった。

気付いたらまた空気に逆戻りしていた。

教室の片隅、僕は空を見上げて考える。

ここは、まるでおっきな水槽みたいだ。溺れて。

閉じ込められた僕はこの濁った水から出られない…。

息が苦しい。もがいてもがいて届かなくて、生きるのが苦しい。

ここは、僕を追い詰める黒い影が沢山あってその黒い影から隠れるのにすごく疲れるんだ。

“気にしすぎ”なんてあるわけない。

だって、僕は気を使って行動していないと影が瞬く間に僕を切り裂くんだから。

影を気にしていつだって気を張り巡らせた僕は生きるのが、存在するのが怖い。

僕は囚われたまま。それでも、生きなきゃならない。


明日はもっとうまくやるから。




今日も、窓際の片隅で空を見上げて。

それから、決心して一歩踏み出して水槽の影に…いや、クラスメイトと関わってみる。


ねぇ、先生。聞いてよ。ほんとはね、僕は本なんて読んでないよ。

声を掛けようと見るとにらまれて悪口を目の前で言われるんだ。

これも僕が悪いのかな。

ねぇ、みんな。教えてよ。

どうしたらいいかな。

僕がもっとうまくやれてたら。

僕はなにを変えたらいいかな。

そうだ、人気な子の振る舞いにしてみようかな。

もっと明るく。ほら、僕だって出来るよ。

クラスの愛されキャラと言われている子のようにふるまってみる。


けれど、現実は甘くない。

僕の希望をボロボロにするくらいには。


「なにやってんだふざけてないでやれ」

そっかそうだよね。

やっぱ教師は何も見えていない。



“今更、戻ることももう一度頑張り続けることも僕には重すぎる。”





「なぁ、帰り付き合えよ」

今日はなにされるのかな。

「うん」

放課後帰り道。

集団でいじめられた。

概要は言いたくない。

でも、僕は何もいわないよ。

耐えれば酷くはならない。

ねえ、そうでしょ。

僕はもう分かってるんだ。

希望を持たなきゃ絶望することもないんだよ。

地面と触れた頬と指の直線上にこっちを眺める男が見えた。





「ただいま」

「おかえり」

「お前ちょっと来い」

「何度言ったら出来るんだ」

今日も同じセリフで暴力を受ける。

何度やっても出来ない僕。

僕自身、なんで僕は出来ないんだと思う。やりきれない。

僕には弟が居る。

弟は家族に愛されていて。弟は同じことをしても許される。

一緒にやったことは兄だからと僕が叱られる。

自分のせいだってわかってる、だけど。

弟が憎い、羨ましい、嫉妬…僕はこんな黒いどろどろいらないのに。

こんなの嫌だ。なのにどうして。

こんなだから…。

僕が出来損ないだから家族は悲しんでいる。

僕は家族のストレスを受け止めることしかできない。

きっと僕が居なければ親はこんな風に暴力的にならずに済んだ。

きっと親だって温かい家庭を望んでいたはずだ。

それを僕が壊した。

僕は何なんだろう。





そんな日々を送っている。

僕は朔耶=さくや=。 7歳。

小学校という施設型の集団教育機関に通っている。

僕は心を持って生まれてしまった欠陥人間。

今の社会はこころをもって生まれることは障害なんだって親が言ってた。

そのせいか、僕には居場所がない。

なんでか、痛くて苦しくて辛くて溺れる。

そして、この通り歪んだ。

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