新約KingWorld ―デスゲームと化したMMO世界で『最高のギルド』を作る―
コトワリ
第一章 始まり、出逢う二人
第一話 道化師の呼び声
「ようこそォ、ワタクシのセカイへ!」
甲高い声、しかしその声は俺の心に吸い込まれるかのように響く。
この声の持ち主はかなりのカリスマ性を持っているのだろう。
だからこそ、その人物に利用されているようで心底反吐が出る。
世界初のVRMMORPG「King World Online」にログインして最初に出現する場所である、《始まりの街 アッカム》。
KWOリリース初日である今日、数多くのプレイヤーがこの街に集まっていた。
これから始まる壮大な冒険を想像しながらフィールドが解放されるのを待っていたその時、そいつは現れた。
中央の広場上空に、一人の巨大な道化師が浮かび上がる。
そして発した第一声が先ほどのものである。
「さて、状況を簡単に説明しようかァ? キミたちはこのゲームに閉じ込められたんだ! ログアウトは不可能だよォ。試してみなァ、いくら探してもログアウトボタンは存在しないから」
俄然とする周囲のプレイヤー。
慌てる他プレイヤーに釣られて俺もウィンドウを開きログアウトボタンを探すものの、目の前の道化師の言うように存在しない。
その事実に気づいたプレイヤーたちは沸き上がり、道化師に向けて罵倒を投げつけている。
「いやァ、愉快愉快ィ! おっと、説明はしっかりしなきゃねェ。このセカイは所詮ゲーム、でもキミたちはもうそんなこと言えないんだァ! ハッキリ言うなら、ゲーム内でデスすると現実でも死ぬ、ってこと。あァ、大変! 脱出する方法は一つ、ゲームをクリアすることだよォ!」
道化師の言葉に対するプレイヤーたちの反応は様々であった。
怒りをあらわにし、道化師に拳を叩きこもうとするプレイヤー。
何が何だかわからず、その場に立ち尽くすプレイヤー。
現実での死に恐怖し、うずくまるプレイヤー。
そんな反応を見ているのか、それとも見えないのか。
道化師は愉快そうに笑う。
「――人間は誰しも、『信念』を持っている。このセカイではそれが力になるんだ。信念を貫く人間は美しく、信念が折れる様もまた美しい。強い信念は周囲の人々を自然と惹きつけ、従える。……さァ! キミたちはワタクシに、どんな信念を見せてくれますかねェ!?」
両手を大きく広げてそう叫ぶ様子はまさに、狂人。
話し疲れたのか道化師は「頑張ってねェ!」という言葉を残して消えてしまう。
道化師の消えた広場は一瞬の沈黙の後、すぐにプレイヤーたちの怒りで埋め尽くされた。
「見てろよピエロ野郎。必ず、俺を敵に回したことを後悔させてやる」
俺は始まりの街を出て、広大なフィールドへと足を踏み出した。
◆
二体を囮に、もう一体が背後から攻撃。
それに加えて毒矢持ちが薄暗い森に潜んでいる。
「レッサーゴブリンのくせにやるじゃねえか。だが――っ!」
振り返り、目の前に迫ったナイフを剣で弾く。
体勢が崩れたそいつにトドメを刺そうとするが、その隙に囮となっていた二体が攻撃を仕掛けてくる。
手の届くところに簡単に掴めるレッサーゴブリン、俺狙いの二体。
「ひひっ、いいこと考えた」
俺は即座にレッサーゴブリンを掴むと、盾として利用する。
二体はその行動に驚いたようだったが、今更止まれず、仲間にトドメを刺す形となった。
そして動揺しているところを剣で一気にぶった切る。
「まだいる、そうだよな? 《エネミーサーチ》」
俺は敵モンスターの位置を位置を探るスキルを使用する。
範囲こそ狭いものの、入手も簡単でかなりの優良スキルである。
スキルの結果は俺から左後ろの茂み。
「そこか」
強くにらんでやると、潜んでいたレッサーハンターゴブリンは慌てて俺に向けて矢を放つ。
しかし恐怖の中で放った攻撃が当たるはずもなく、そのまま俺に切り刻まれた。
「King World Online」のサービス開始から一週間。
俺はソロとしてこのゲームをプレイしていた。
パーティーを組まない理由は二つ。
一つは敵との戦いが命懸けのこの世界で、他プレイヤーは信頼できないこと。
そしてもう一つは、俺が《ユニークスキル》を持っているということだ。
これは何かの報酬などではなく、本当に突然取得する。それ故に不平等だと他プレイヤーの怒りを買う。
だから俺はその存在を隠し、こうして一人で戦っているのである。
その一方で、ゲーム自体は全くと言っていいほど進行していなかった。
KWOの世界には、中心にラスボスのいる暗黒大陸、その東西南北に一つずつ大陸が存在し、プレイヤーは暗黒大陸を除いた四つの大陸に出現する。
大陸には複数のフィールドが存在し、フィールドのどこかにいるボスを討伐することで次のフィールドが解放される。
そして次はそのフィールドのボスを討伐……と繰り返していくことで、大陸の封印を解き、暗黒大陸に向かうことができるようになるのだ。
だというのに、俺の出現した西大陸では最初のフィールドボスですら攻略できていないのであった。
「おっ、今のでレベル上がった。これでやっとLv10か」
一週間戦い続けて10かよと運営に文句を言いたくなるが、仕方がない。
レベルアップにより上昇したステータスの確認を済ませた後、入手したスキルポイントの使い道を考える。
スキルはレベルアップや敵撃破により入手できるSPを使用することで取得できる。
レベルアップでは一気に、敵撃破はほんの少しだけだが溜めれば意外と使える。
しばらく悩んでいたが、木々の隙間から見える空が暗くなりかけているのを感じ、街に帰ることにした。
「……しっかり、こんなことする運営の目的は何なんだ?」
沈みかけた夕陽を見上げながら、始まりの街へと歩く中。
――ッ、なんだ?
突如として、常時発動型スキルの《センストリガー》が警報を鳴らした。
周囲に意識を向けると、近くの森から唸り声が聞こえることに気づいた。
「あっちか。《エネミーセンサー》」
スキルの結果が表示される。
敵の位置は森の浅いところ。
何かを追いかけるような動きをしていることから、プレイヤーを襲っているのだと予想できる。
ここで助けて恩を売っておくのも悪くない、そう打算的な思考をし、反応のあった場所へと向かう。
始まりの街を出てすぐの草原フィールド、その一部には鬱蒼とした森がある。
森へ入った俺が見たのは、逃げるプレイヤーとそれを追うモンスター。
――“雷声”ザ・ユルルングル・キング Lv27
離れているというのに甲高い唸り声が耳を裂く。
恐らく竜だが、それよりも蛇のようで、生臭さが辺りを覆っている。
そして、モンスター上部に表示されるタグには規格外のレベルが記されていた。
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