オーバーバレット
あさひ
第1話 オーバーバレットドライブ
弾丸一つは何もかもを奪うとされる
狂気と暴力の象徴だが
この物語は世界を変えるほどの弾丸を持つ
優しきスナイパーの物語である。
灰色の空と銀色の大地
地面に積もるのは雪ではなく銀の粉
銀粉と呼ばれる破片は歩くものを苦痛に染めた。
灰色の空からはちょくちょく太陽が覗く時があるが
気まぐれすぎて誰も気にしない。
光より空腹に気が行くのが普通の社会
クランというシステムが国家の代わりであり
希望の象徴だ。
今から物語の主軸になるクランも
希望の象徴であり、要と呼ばれるシステムを持つ
唯一の
もちろんクランにはオーナーが存在していて
その人が
「どうした?」
無骨な声が響き渡り子供たちがたじろぐ
渋い声が連続して諭すのかと思いきや
慌てだす。
「そういうつもりではなくてだなっ!」
あたふたしすぎて叫んでしまうのが
さらに子供たちを涙を引き出した。
「どうしたの?」
子供たちが一瞬に固まった後に
理解し始めて笑顔を咲かせていく。
【バレッティアっ!】
「すまないな…… クラン長さんや」
申し訳なそうに謝る男性に
追い打ちをかけていく子供たちの言葉が刺さった。
「おじさんなんか声が怖いんだもん!」
「そうだ! 僕なんて今日も夜トイレ大丈夫かな?」
「いや眠ることも難しいかと……」
「本当のことを言ったらかわいそうだよ」
非難轟々ではないが
それより痛い言葉の弾丸が貫いていく
子供の発言は何よりも鋭く
否定できないほどまっすぐなためにすごく痛い。
「ダメだよ? おじさんはみんなのお風呂を直しに来たのに……」
ほらと指さした方向にボイラー室があった
野ざらしなのは爆発の危険があるためシェルターに
熱関連は置いてある。
「えっ? すごいですね!」
「ほんとだ! なんかピカピカしてる!」
「ごめんなさい……」
「本当は信じてましたよ?」
それぞれの性格が垣間見える返答に
クスっと男性も笑った。
「ありがとな? クラン長も説明があって助かったよ」
「お姉ちゃんはすごいもん!」
一人の少女が自慢げに胸に拳を当てながら
ふふんと嬉しそうに語る。
「クラン長さんは本当に愛されているな」
「当たり前ですよ……」
キリっと眼鏡を上に戻しながら少年が
少し小バカにしていた。
「ダメでしょ? ありがとうってほらっ!」
不本意ながらも少年少女が
感謝をがむしゃらに言っていく。
【ありがとう! 怖いおじさん!】
「おうっ! また来るぞ!」
またひぅっとたじろぐが
おじさんの笑みが笑顔を引き出した。
「また怖かったけど笑顔がくまさんみたい」
「そう? じゃあかわいいね」
「お姉ちゃん! 手をつないで……」
「じゃあみんなで繋ぎましょっか!」
わーいと微笑ましく中央部に帰っていくのを
作業の資材をを取りにゲートに向かう。
「ん? 報酬袋の中に手紙?」
質素な紙に連なる文字には
感謝の意とこれからの依頼について書いていた。
「これからもよろしくね…… 当たり前ですよ? クラン長さん」
ニコッと笑うと連盟所属の修理技師は
颯爽と車に乗り込み連盟局へと戻っていった。
時間は数時間ほど遡る
荒れ地に暴れている謎の闘牛と何かの昆虫
手こずっているのか連盟の戦闘を担う
師団すら逃げるのがやっとらしい。
「くそっ! 装甲が熱すぎる本当に自然物か?」
どうやら捕食の場面にクランの資材補給車が
巻き込まれたという状況だ。
「あの昆虫が諦めれば温厚なあれは諦めるのに……」
打つ手も切り口も存在しない
絶望的なフィールドに弾丸の音が一閃に響き渡る
昆虫の方に向かっていった一閃はでかい足を怯ませる。
【ギャあぁァぁァぁっ!】
相当なダメージなのか
断末魔を昆虫が叫び始めた。
しかし叫びなど聞こえていないのか
二発から三発と的確に狙われて打たれている。
「なんだ練習の無駄打ちか?」
「ばかっ! よく見ろ!」
関節を狙って打っているためか
みるみる弱点である核が見えてきた。
「よしっ!」
バンっとより響いた弾丸の音は
核のど真ん中を撃ち抜く。
チリのように煌めく銀の粉は
砂に混じりながら地面の一部と化した。
この世界で人間以外が生命を終えた時にのみ
発生する謎の現象で
生物素材などは銀粉から
生成するのが主な
「まさか灰被りの
先ほど話していた二人の兵に指示を出していた女性は
沈黙から一言を発する。
「グレイ……?」
「ウィッチ?」
キョトンとした表情で指揮官を困らせた兵に
優しく異名の意味を解いた。
「連盟が依頼を出したのでしょうけど
巨大な生物系統や危ない仕事を姿を見せずに完遂する
魔法のように対象を灰のように隠すことからです」
「まさか?」
「ありえませんよ?」
兵の想像が簡易的にわかったのか否定した指揮官は
説明を続ける。
「人は急所を外して無効化し昆虫の後に残る牛も
今はもう動いていないでしょう?」
通常であれば牛も生命を追えると
銀粉になるはずだがなっていない。
「彼女は無駄に殺傷をしませんし
何より打ち方が優しいのです」
「優しい? 銀粉になったのに?」
「気が付かなかったのですか?
あの昆虫は滅多に多生物を捕食しない草食類ですよ」
「まさか寄生生物ですか!」
「ご明察ですね」
寄生生物は終わらなければ無限の苦痛に支配される
それ以上に気性が荒くなるのもそれが原因だ。
「優しい理由は彼女の依頼の受け方です」
「受け方ですか?」
「はい…… 金額が高いというのに
少額であるクランの防衛を重視したり
金額が高すぎて誰も完遂できない危険生物の討伐を受けたりと
金銭目当てが普通の世界でそれをしない絶対に依頼したい対象なのですよ」
「ほんとに……?」
「事実です」
兵は口が塞がらなかった
この世界は金銭で命の防衛を行うような制度
【パワージャスティス】というシステムがある
それを無視するような姿勢を可能とするのは至難の業どころか奇跡である。
「連盟じゃありえませんね」
「腐った上官しかいないからな」
「ん?」
「指揮官様はお優しいではないっすか! 俺たちを拾ってくれたくせに!」
「そうですよ? 無能拾いで
「よかった」
ふふっとほくそ笑む指揮官に釣られて笑っていた兵の二人は
完遂がグレイウィッチによるものだと報告を出した。
時間は戻ってクラン
「お姉ちゃん! 今日のご飯は?」
「んぅ? お姉ちゃんと待ってようね
あと確認するね」
デバイスのようなものを
パーカーのポケットから取り出し確認の連絡を入れる。
「ごめんね? この子たちがおなか空きすぎちゃったみたいで……」
《いつものことでしょ? ほんとに優しいねぇ》
《一応だけどあんたの活躍で送られてきた報酬の中に生鮮肉があったみたいでね》
《カレーだよ》
「ほんと? やった! おばさんのカレー大好き!」
子供たちも横目で見ながら喜びまわっている
隣の少女はその子供の様な笑顔を眺めていた。
《わかるよ…… この娘の笑顔には魔法があるからね》
「だよね? お姉ちゃんの笑顔ってずっと見ていたくなるもん」
「そうなんだ? じゃあ今日も笑っちゃうよ? ニコニコってね」
はははっ何それと子供たちにも笑顔が伝番する
これも魔法なのだろうか幸せは呼び込まれるらしい。
数十分後には
おばさんと呼ばれたアリッサが
カレーの鍋におたまの入った銀筒を持ってくる。
「みんなお皿持ってきな!」
元気な号令で子供たちやクランの所属者に声を掛けていった。
「うぃー」
「へいよっ!」
「はーいっ!」
「ん?」
大きなテーブルに
中小のクランのロゴを張った料理の入った皿が並ぶ
全員揃ってからいただきますで食べ始める。
最後に盛られたクラン長の皿は一番でかいどころか
サイズ感がおかしい。
「今日も稼ぎ頭の大食いが始まるぞ……」
息を飲むのかと思ったが
全員が微笑ましいものを見る顔で頬張る姿を眺めていた。
「どうひたの? おいひいよ?」
「そうだな…… みんなかわいい姿は後で見よう」
「カメラをいちいち用意すんなよ」
「そうですよ? ずるいです」
クラン長の頬張る姿は可憐を通り越して癒しだと
初めて来た当初の次から隠しカメラを用意している。
ちなみに配給で入る創作物より人気なのは
クラン所属者なら常識だ。
時期に食べ終わりクランの皆が
就寝寮に戻っていく。
「今日もいろいろあったね」
「そうだね……」
うつらうつらとする子供たちを愛おしげに
見つめながら星空に夢を馳せた子供の頃には
自分にも姉がいた。
≪お姉ちゃんはなんでスナイパーになったの?≫
≪簡単な仕事だからだな≫
≪それだけ?≫
≪あとは誰も傷つかない最高の防衛ができるからよ≫
≪すごい! 優しい仕事なんだね≫
「優しいのはどっちになんだろ? たまに辛いんだよね」
その時にギュッと眠っている少女が手を握る。
「ふふっ…… どんな夢を見てるのかな?」
時期に眠りについたクラン長は
昔の夢を叶えているがと
考えていたものがどこにいるかもわかっていながら
仕事で誘い出したいという願望があった。
弟の行方不明と姉の失踪が
過去に存在したのが発端で連盟に
協力し始めた初心者の頃が懐かしい。
星空に流星が垂らされる
願いを叶えようかと心配そう
しかし無邪気な寝顔はそれを気持ちだけもらうだろう
いつまでも煌めく弾丸には誰かに強請る弱さはない
掴み取ることを望むからだ。
そこが好きだから大好きだから
君には笑ってほしいな
辿りつくからね
きれいな弾丸を放つ魔女様
おわり
オーバーバレット あさひ @osakabehime
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