第424話・大湯処のマスコット
そのテイヒゥルもシエルの傍で座ってシエルを監視中。
「テイヒゥル~」
シエルがテイヒゥルに泣きつくけど、テイヒゥルは尻尾を揺らしながらじっとシエルを見てるだけ。だって主人はぼくだもん。ぼくの命令がある限り、ぼくに危険が迫らない限り他の人間が何言っても聞かない。それが護衛猫ってヤツだから。
「みんなの為にもさっさと大湯処を完成させてください。でないと猫の湯には戻れません」
「うあああああ~……」
涙も拭かずに唸りながらペンを動かすシエル。これだけ追い詰められて泣き言を言いながらでもアイディアが枯渇しないし仕事は進めるのはシエルのいい所ではある。追い詰めれば追い詰めるだけアイディアを絞り出してくれるって言う特性も知っているんで、ガンガン追い詰めるべし。
「水場は?」
「子供が川で遊ぶ、それをもうちょっと大きく遊べる感じで。ここも監視者が必要だけど」
「ウサの湯みたいなヤツは?」
「それを悩んでる」
カリカリシエル。
「ウサの湯はウサギって言うコンセプトがあったからそれに沿ったけど、大湯処はな……。鳥とかどうだろ」
「フォーゲルに許可取らなきゃでしょ。ウサギの町はなかったし猫の湯はフェーレースが許可してくれたけど」
「許可取れない?」
カリカリカリカリ。
「必要って言うなら取るけど、どんなイメージ?」
「クレーがよくエキャルと一緒に出歩いてるから、伝令鳥がイメージ」
「伝令鳥はフォーゲルの独占だからマスコットとかには向いてない」
「あ~……じゃあ緋色と……宣伝鳥の桃色はやめた方がいっかあ」
「だね」
「じゃあ黄色は? 愛玩鳥で黄色って珍しくないし」
「どんな風に使う?」
「マナー違反や危険行為をさりげなく止められるマスコット」
「大きさは?」
「忠告は小さいのでもいいけど、力尽くで止めるのは人間並みの大きさがいるなあ」
ウサの湯在住の人間大のマナー違反者連れ去りのウサぐるみ、ああいうのをイメージしてるんだろう。
「だけどあんまりデカい鳥が湯処飛んでると」
「だよなあ。目立ちすぎてもあれだし。何かいいのないかな」
ペンを動かしながら考えるシエル。
「飛ぶからまずいのかな」
シエルが小さく呟いた。
「飛ばなきゃいいのかな」
う~んとカリカリしながら言葉を続ける。
「そうだ、
パッとシエルが目を見開いた。
「あれなら」
「あれ、大きすぎない?」
走鳥はやはりフォーゲルで育成販売されている乗用の鳥だ。羽根はあっても空は飛べない。ただ、人間二・三人と荷を乗せて、頑健な脚で人の五倍の速さで最低半日は休みなく地面を走ることが出来る。
ぼくも見たことがあるけど……。
あれ、正直、デカい。慣れてない子供なら泣き出す程度にはデカい。顔もちょっと
そう言えば。
「フォーゲル、最近走鳥が売れないって言ってたな」
アッキピテル町長から聞いた悩みを思い出す。
「何で? 生き物のデザインとしては完璧よあの鳥」
カリカリしながら聞き返してくるシエルにぼくは説明する。
走鳥は乗用としては優秀。頑丈だし速いし持久力もあって辛抱強い。
ただ、やはりフォーゲルで乗用というと空飛ぶ鳥を望む人がかなり多い。走鳥は優秀なんだけど、地面が荒れると途端に速度が落ちるし乗ってる人間は揺れるしで。
空を飛べばそんなの関係ない、というわけで、フォーゲルでは飛ぶ鳥が売れ、走鳥は低調だと。
アッキピテル町長としては走鳥も優秀なのでお勧めしたいのだが丁重に断られるパターンが多くて、何か手を打たなければと言っていた。
走鳥は確かにたくましくコストパフォーマンスが良くて便利。グランディールが空を飛んでいなければ、ぼくも町用に彼らを何羽か買っていただろう。
「そっかあ」
んー、とペンを動かしながら考えていたが、ふとぼくの顔を見た。
「走鳥のデザインいただけるかアッキピテル町長に聞けね?」
「走鳥の? 大湯処のイメージキャラにすんの?」
「子供向けにもうちょっと小さくて大人しいのにするけど。ダメ?」
「どんなの」
「こんな感じ、ど?」
白黒で書かれたのは、ふわふわで目がきゅるんとした可愛らしい鳥だった。
確かに足の頑丈さとかは元の走鳥のイメージ残してるけど。
「うわ、かわいい」
そしてエキャルがいなくてよかった。他の鳥にこんな感想を持ったなんて知られたら髪の毛まとめて引っこ抜かれるところだった。
「このイメージキャラなら湯処うろついてても子供泣かないだろ」
「むしろ人気キャラになりそうな」
走鳥がこんな感じでいたら、金持ちの町民とかが手に入れそうな気が。
ぼくもシエルの使っていない紙とペンを借りて、アッキピテル町長あてに手紙を書く。
走鳥をイメージしたこんなキャラクターを大湯処のメインマスコットとして使いたいが問題はないかと。署名して印を押すと、バサバサと外から羽音が聞こえる。
「エキャル、フォーゲルまで往復頼める?」
エキャルは胸を反らす。
首の封筒に手紙とデザイン画を入れて、エキャルの背中を叩くと、エキャルはちょっと強めにぼくの髪を引っ張って、デザイン室から飛んで行った。
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