第49話・ベッド完成(一つだけ)

 それから月日が過ぎ、ようやっとベッドの一つが完成した。


 と言っても、ベッド製作時間はほぼ一瞬。町民がベッドが出来るように念じ、細かいデザインやなんかをシエルが思い浮かべるだけ。それだけで超巨大ベッドが出来上がる。


 もっとも今回はちょっと例外だったけど。


 いつもなら家具工場の中に出来るようにと念じるけど、今回は町の門……入り口に出来るようにと念じたのだ。


 だって、デカいんだもん。ベッド。


 一旦町を下ろし、ファーレに特製の牛車を作ってもらい、乗せる手間を省くため、幌を被せず、四頭立て牛車の上に作り上がるようにと念じてもらった。


 完成したベッドはそりゃあすんばらしい出来だったけど、門から出るギリギリ。ていうか馬車が悠々通れる門を通るのに苦労するってどうよ。


 もちろんアナイナとヴァリエは家から出さないでいる。フレディと子供たちが見張っている。フレディの迫力もあるけれど、子供たちが「そんなこと言ったらダメなんだよ!」「お母さんも怒ってるでしょ!」と追い打ちをかけてくれるおかげで、随分と悪口雑言が減ったみたい。


 だからヴァリエは町が一旦降りたことも、みんなで家具を作ったところも見ていない、はず。


 アパル、サージュ、アレ、ぼくの四人で行く。


「俺様もついてったほうがよくね?」


 ソルダートに心配そうに聞かれたけど、盗賊が出たとしたらむしろ町に入れたいのであんまりバリバリに警戒した状態を作らないほうがいい。


「ソルダートは門の守りを頼む。ぼくが出た後町が浮かぶようにしておくけど、内側からと外側からと、出入りを警戒してくれ」


「……分かった。気ぃつけてくれよな」


「うん。こっちはよろしく。ヒロント長老に後のことは任せてあるから」


 そして、ぼくたちは三度みたびスピティに向けて出発した。



     ◇     ◇     ◇



 アレの「移動」で、前回と同じ場所まで行き、そこから牛車。盗賊に絡まれることもなく(馬鹿でかい四頭立て牛車、しかも乗っけてんの冗談みたいなベッド一つ、こんなの、誰が襲いたいか)、スピティに無事辿り着いた。


「おや、ようこそ!」


 スピティに初めて来た時にトラトーレ商会とデレカート商会に繋いでくれた門番のポルティアが笑顔で出迎えてくれた。


「スピティでちょっとした騒動ですよ」


「何がです?」


 アパルが笑顔で聞くのに、ポルティアも笑顔で返す。


「新人潰しのピーラーが直接見に来てるって」


「依頼主直々に?」


「ええ。ピーラーがグランディールに巨大なベッドなんて言う注文をしたってのが広がって、グランディールが二つもデザイン出したって流れて、一つが近々到着するって噂になって、そしてピーラーご本人登場。ちょっとした、どころじゃないですね。結構な騒動ですよ」


「やれやれ」


 ぼくは帽子をグイっと深くかぶって黙る。こういう時に自分が口出しする必要はない。アパルとサージュに任せるべし。それが町長としての判断だ。


「トラトーレに行ってからデレカートですね」


「はい。繋ぎをお願いできますか?」


 ポルティアは引き受けた、と町の方に走っていく。


 待機場所を三・四台分のスペースを取って止まっている四頭立て牛車の幌にグリフォン。……そりゃあ無茶な注文を聞いたグランディールと分かるだろう。


 周りに停まっている馬車がじっとこっち見てるのがわかる。


「町長」


「大丈夫だ」


 注目を浴びているぼくを心配したんだろう、御者台からアレが声をかけてくれる。ぼくは町長の仮面を装着済みのイメージ。ゆっくりと頷いて応える。


「お待たせしました! トラトーレ商会に向かってください!」


「ありがとうございます」


 アレは牛車を移動させた。



 そして二度目のトラトーレ商会。


「おお。おお。おお!」


 入口に無理やり止めた牛車に反応して飛び出してきた人影。


 灰茶の髪を撫でつけた、笑顔の似合う色男が出てきた。


「俺のベッドが! 出来たんだな! 一つ目が!」


 一つだけの依頼だったはずなのに、増やしたんですよね、あなたが。


 そう、こんなことを言うのは、依頼主のピーラーさん以外いませんよね。


「少々お待ちを! ピーラー氏!」


 トラトーレが慌てて駆けつけてくる。


「私が確認してからで……!」


「いいじゃないか! 依頼したのは俺! 受け取るのも俺!」


 ピーラーが大げさに手を広げる。


「俺が確認すれば良いじゃないか、そうだろう?」


「ピーラー氏は家具の鑑定には向いておられないでしょう!」


 トラトーレが叫ぶ。


「鑑定は私の仕事、安全を確認してから引き渡します!」


「そんな大げさな……」


 ぼくはゆっくりと口を開いた。


「例えば、寝具を乗せて、横になった時。底が抜けたら、どうします?」


 ん? とピーラーがこっちを向く。


「こちらも最善を尽くしましたが、何かのミスがないとも限りません。本職の方に確認をしていただいてからの方が、こちらとしても安心できます」


 ピーラーは不満そうな顔をしたが、追いついたトラトーレが何度も頷くので、仕方なく数歩下がる。


「では、拝見させていただいてよろしいか」


「幌は」


 見るのに邪魔か、とサージュが聞くのに、いえいえ大丈夫、とトラトーレは幌の中に入ってくる。


「日に当てると変色の可能性もありますからな」


 うん、やっぱり家具の本職。


「では、失礼して……」

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