第6話・望んでいたぼくらの小さな町

 正直、ショボい光景を覚悟して目を開けた。


 所詮はレベル1Maxのスキルだ、ボロ家の一軒でも立っていれば大ラッキーという気分で。


 ゆっくり開いた視線の先、眼の前にあるのは、門だった。


 衛兵がいてもおかしくないような、立派な門。


 左右を見れば、城壁と言ってもいい立派な塀。


 エアヴァクセンよりも立派な入り口だった。


「これ……は……?」


「おいおい、レベル1のもんじゃないぜこれは」


 盗賊団の皆さんも呆然と入口を見上げている。


 アナイナだけが、自分がやったわけでもないのに得意気に胸を張っていた。


「ほーら、やっぱり、お兄ちゃんじゃない」


 何だその威張り方は。


「い、いや、塀だけが立派だっていう可能性もある。中に入ってみないことにゃ」


 ヒロント団長の言葉に、アナイナを除いた全員が頷き、恐る恐る門をくぐる。


 恐らく身分などを改められる小部屋を抜けて、入った塀の中。


 中を見て、これまたアナイナを除いた全員が絶句した。


 門から奥に一直線に伸びる大通り。


 向かい合って並んで建つ、小さいけど立派な六軒の家。


 奥の方に食肉解体所。


 泉のあった場所には、屋根の付いた水汲み場がある。


 そして水汲み場の更に向こうに、倉庫や畑。少なくともここにいる全員が暮らしていけるだけの設備が整っていた。


「す……げえ……」


 ヴァダーさんの口は開いたまま。


「スキル学におけるレベル上限1の噂話を、昔、聞いたことがある」


 アパルさんが、呟いた。


「レベル上限が1なのは、それ以上上げる必要がないからの1なのだと……しかし、まさか、「まちづくり」とはいえ、ここまでの町ができるとは」


「でも小さいな」


 シエルさんの呟きに、フォローを入れてくれたのはヒロント団長だった。


「それは多分、今ここにいる全員が生きていけるだけの町、と思って作ったからだろう、そうだろう、クレーくん?」


「あ、はい」


 人の住めない町が出来上がることも覚悟していたので、とりあえずここにいる七人が生きていける町、と望んだ。


「じゃあちょっと待て、エアヴァクセンのような千人規模の町を造ろうと思えば造れる、そういうことなのか?」


「いや、それは分かんない」


 やってみようと思ったこともないし。ていうかそもそも町が造れるとも思ってなかったし。


「これだけでも十分だろ」


 ヴァダーさんが町を見回して言った。


「人口七人の町でも、これだけで充分エアヴァクセンを超えている。家具や家財道具がなくても……」


 そして、一番手近の家のドアを開けた。


 その瞬間、空いたドアの向こうから光が放たれた。


「うお?」


 なんだなんだと一同が家の中に入る。


「これ……これは」


 ヴァダーさんの言葉が喉で詰まってる。大丈夫? 何か口の中にいれていてつっかえでもしたのか?


「これは……!」


 ヴァダーさん泣いてる? 何かあった?


 ぼくも家の中を覗いてみる。


 そこには、素朴だけどしっかりした造りの机や椅子、ベッド、タンスなどが揃っていた。と言うか、生活必需品と思われるものは全部揃っていた。


「俺の……俺の望んでいた家だ……」


 ぐすっと鼻をすすってそれを薄汚れた服の袖で拭うヴァダーさん。


「俺が、いつかこんな家に暮らしたいと思っていた……家具も、何もかも、そのままだ……!」


「ぇえ?」


 四人が外に向かって駆け出し、思い思いの家のドアを開ける。


 歓声とも悲鳴とも取れる声が辺りに響き渡った。


「オレの……オレの家……!」


「そうじゃ、こんな家に住みたかった……!」


「ああ、全面の本棚まで……!」


「ボクがエアヴァクセンで作ろうと思っていた家、そのもの……!」


「お兄ちゃん、わたしたちも入ってみようよ、ね?」


 自然に残った六軒目の家に入る……と同時に、部屋の中が発光。


 そして、目の前には、今朝ぼくが失ったぼくの家がそのまま蘇っていた。


「ほら、あの町長の言うことなんてアテにならないのよ。お兄ちゃん、エアヴァクセンの家の通り……ううん、それ以上に素敵なお家を建ててくれたじゃない!」


「ちょっと、ちょっと待って」


 興奮するアナイナを抑えて、眉間にしわ寄せて考える。


 えーとだ。


 スキル学には詳しくないんでよくわからないけど、ぼくのスキル「まちづくり」は、ぼくが考えただけでなく、その「まち」に住む人の希望とかなんとかも反映できるってこと?


 いや、アパルさんがスキル学のこと言ってたから聞いてみよう。


「お兄ちゃん? 何かあるのかもだけど、今は後からにした方がいいよ?」


 相変わらず分かりにくい言葉回しでアナイナがぼくを止めた。


「なんだよ」


「みんな、理想のお家で幸せいっぱい。多分誰もお話してる余裕はないんじゃないかな」


 そう言えば。


 ヒロント団長は家の入口に座り込んだままオイオイと泣いているし、アパルさんはそれまで生活の拠点だった洞窟と家を行き来し始めた。多分、これまで持っていた本を家に移動させてるんだろう。ヴァダーさんは家から出てこないし。マンジェさんも洞窟の外に干していた干し肉なんかを必死で移動させてる。シエルさんは上手く動かないと言っていた右手を突き上げて雄叫びあげてるし。


「……とりあえず、みんなが落ち着くまで待とう」


「うん、それがいいと思う」

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