【カドカワBOOKSファンタジー長編コンテスト中間突破】Lv1・Maxからのまちづくり
新矢識仁
第1話・町からの追放、追放先はなし
この世界に暮らす人間には、例外なく「スキル」がある。
十五歳で目覚めるその能力は、目覚めてみるまでどんな能力か分からない。それが役に立つかどうかさえ分からない。
だけど、たった一つ分かっていることがある。
良いスキルと高いスキルレベルを持っていれば、いい街に住める。
役に立つスキルともっと高いスキルレベルなら、もっといい街に住める。
住む町にスキルで貢献することで、町をもっとよい町にする。だから町もいいスキルの持ち主を集め、住むのに便利な町を作る。レベルの高い町にはレベルの高いスキルの持ち主が集まり、更に住みよい町にする。つまり、住む町が住人のステータス、住人が町のステータスと言うわけ。
じゃあ、外れを引いた場合は?
◇ ◇ ◇
「はあ」
ぼくは溜息をつきながら歩いていた。
生まれ育ったエアヴァクセンに背を向けて、ただひたすらに歩きながら。
「……はあ」
もう一度溜息をついた。
ぼく……クレーは十五になったばかり。
ついでに、町を追い出されたばかりでもある。
「……はあ~」
もう、溜息しか出ない。
十五になった途端、移転先の紹介もなく町を追い出されるなんて、なあ。
予想もしてなかったって言うか……。
作られてから長いエアヴァクセンでも、初めての結果だっていうか……。
とりあえず今の悩みは、今晩何処で寝ようかな、という感じ。
ぼくの生まれたエアヴァクセンは、世界でも片手の指の数しかないSSランクの街。つまり、かなり良くて強いスキルを持っている人間でないと暮らせない街である。
例外が、住人の子供。
スキルに目覚め成人する十五になるまでは、仮住人として住むことが許される。
そして、毎月一日、十五になる子供が集められ、成人式が行われ、そこでスキルの鑑定が行われる。
スキル名と初期(つまり現在の)レベル、レベル上限が調べられ、それによってこの街に住み続けられるか、下のランクの町に紹介されて移転するかどうかが決まる。
特に重要なのが、スキル名ではなく、レベル上限。
レベルが上がれば上がるほど、スキルは強く、そして応用が利くようになっていく。
例えばスキル名「杖明かり」で、レベル1で杖の先に小さな明かりが灯せる程度のスキルでも、レベル上限が99999だったりすると、Maxまであげれば、夜の街を昼のように照らせたり、通信に使えたり、賊などへの目くらましなど、色々使い道が出てくる。
だから、レベル上限が高ければ高いほど、町に残留できる可能性が出てくる。
成人式に出たぼくの心臓のバクバクは止まらない。ミアスト町長の演説もほとんど耳に入っていなかった。この街には優秀な人間以外必要ではないとか何とか……。
演説が終わって、いよいよ鑑定式。
順番に新成人が呼ばれ、鑑定士の前に出る。
今回の新成人は、ぼくを入れて八人。
「クレー・マークン」
一番手だよ!
「はい」
自分でもぎこちなく立ち上がる。
頭の中は真っ白で、足がかくかくと動いて前に出て行く。
スキルはしょぼくていい、レベル上限が高ければ、可能性は出てくる……!
これまで見てきた、この街の新成人のレベル上限平均は2000。町に残留できるのは4000以上ってとこ。
ぼくの父親は「火種作り」でレベル上限6000、母親は「水滴を集めて水にする」レベル上限6500なので、スキル的にはしょぼいけどレベル上限のおかげでSSランクの町に住めた。
両親がレベル上限が高いから、ぼくもそこそこレベル上限が高いだろう。SSランクのこの街に住み続けるのは難しいだろうけど、せめてAランクの町を紹介してもらえるくらいであれば……と希望を託して、鑑定士の前に出た。
スキル「鑑定」を持つ鑑定士が、杖でこんこん、とぼくの肩を叩き、そして後ろのスクリーンを叩く。
「氏名:クレー・マークン」
スクリーンに文字が浮かぶ。
「スキル名:まちづくり」
何これ? まちづくり? 一体何に使うスキルなの?
いやいい、問題はここから……!
「初期レベル:1」
初期レベルは高くても低くてもあんまり関係ない。レベルは上げられるから。
頼むから上限高く……!
目を閉じてぼくは祈る。
会場がどよめいた。
もしかして、上限レベルがめっちゃ高い、とか?
どよどよと町民の騒ぎが聞こえる。
覚悟と期待を決めて、恐る恐る目を開けてみる。
きっとそこにはすごい数字が出ている、筈……!
「レベル上限」
さあ、来い、来い!
「1・Max」
……はい?
ぼくの目は多分点になっていただろう。
どよめきの意味も分かった。
初期レベルが1。
レベル上限が1。そして上限に達しているという意味のMax。
つまり、ぼくのスキルはこれ以上伸びないということ。
……多分、エアヴァクセン始まって以来の出来事なのだと思う。
「なんてことだ」
声が聞こえて、ぼくは顔をあげた。
「ここまで無能な人間を十五年も養っていただなんて」
ミアスト町長が真っ赤な顔をしている。
「え……えーと……」
ぼくは恐る恐る声を出した。
「どっか……紹介してくれる町は……」
「ある訳がないだろう!」
町長の一喝。
「今すぐ出て行け! 貴様はエアヴァクセンに相応しい人間ではない!」
……そして、成人式が終わるどころかその場で会場を追い出されて、最低限の荷物を持たされて町を蹴り出されて今に至る、と。
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