”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
6-5 たまには迷惑かけてもいいんだからねっ
6-5 たまには迷惑かけてもいいんだからねっ
「バグよバグ! 運営―――! 詫び石よこせ―――っ!」
深瀬さんがクレームを言いつつ魔法ウィンドウを開き、ファイアボールを選択。
真正面に連打するが、グリフォンは空中に飛び上がりすべて回避。
「また避けたんだけど!? ていうか垂直跳びなんて行動もなかったわよね!?」
「ですね。新規行動パターン、って感じでもないし……」
一般的なゲームでは(当然の話だが)、敵モンスターの行動はルーチン化されている。
その攻撃ルーチンを理解したり、攻撃に入るための予備動作をきっちり見極めれば、大抵の攻撃は避けて攻撃出来るのだけど……
「深瀬さん、もう少し様子を見ましょう。敵のパターンが変わったか、或いは――」
注意喚起した直後、上空に舞い上がったグリフォンが再び急降下体勢に入った。
【スカイダイブ】か。
或いは、フェイントからの跳びかかりか。
(まずい、不利な二択だ)
敵の行動が何であろうと、深瀬さんはドッペルゲンガーを発動せざるを得ない。
【スカイダイブ】が直撃すると、僕らは確定で全滅するからだ。
なら、僕が取るべき行動は――
分身を発生させる深瀬さん本人の背後へ、駆け寄った。
グリフォンは案の定、着地直前で【スカイダイブ】をキャンセル。
旋回体勢へと移行し、深瀬さんへと飛びかかる――敵としては安定行動だ。
けど、二度目を許すほど甘くはない。
僕は深瀬さんを背中から抱きかかえ、グリフォンの飛びかかりを横に飛んで回避。
「ひゃっ!?」
と可愛い悲鳴を聞きながら、去り際にきっちり【爆炎弾】を放り投げつつ、敵への追加ダメージを狙うが――
グリフォンは飛びかかりを更にキャンセルし、翼をはためかせ、なんとバックステップをした。
【爆炎弾】をきちんと回避し、着地する。
――違和感。
こちらの行動に対応するのが早すぎる。
まるで直接僕らを見て、操作してるような――
(……待てよ? 見てる?)
以前”四人迷宮”で戦った時も、変だなぁとは思ったのだ。
敵の行動が嫌らしすぎる、というか……AIにしては的確すぎる、というか。
(けど、もしかしてこれ……中の人が操作してない?)
仮説だけど、これだけ的確な動きが出来るのは……
相手がモンスターの皮を被った、プレイヤーだからでは?
即ちモンスター退治ではなく、間接的なPvPだ。
となると――
「ねえ深瀬さん。ひとつ、試してみたいことが出来たんだけど……」
「運営にクレーム入れる以外で?」
「はい。僕も、やられてばかりなのは癪なので。一発、驚かしてやりたいなと」
僕が笑うと、深瀬さんがくすっと笑った。
やっぱり彼女の前だと、僕はちょっとだけ素直になれる。
作戦を耳打ちして、僕らは二手に別れる。
敵が、再び空高く舞い上がった。
どうやら【スカイダイブ】キャンセルからの派生攻撃がお気に召したようだ。
次は飛びかかりか、体当たりか、或いは僕らの知らない追加攻撃か。
まあ敵側の行動としては無難だけど――僕らだって、ただやられる訳にはいかない。
深瀬さんがドッペルゲンガーを展開。
グリフォンはやはり分身を無視し、【スカイダイブ】を直前でキャンセルし、深瀬さん目掛けて低空飛行のまま突進。
で、その動きを見切っていた僕は――
走りながら、素早くゲームの”設定”画面を開いた。
VR感度や画面の明るさ調整パネルが並ぶなか、マイクのボリュームを最大にスライドしつつ、敵の側面に飛びかかり、
「わああああああ――――――っ!」
グリフォンの耳元で、思いっきり叫んだ。
スキルでも何でもない、ただの大声。
当然ゲーム的な意味はなく、グリフォンを怯ませる効果もない。
ただし、相手がリアルのプレイヤーなら――耳元で馬鹿でかい声を出されたら、普通びびる。
道路を歩いてたら車にクラクションを鳴らされ、びくっ! としない人間がいないように。
果たして――
グリフォンは「グエッ!?」と全身を震わせ急ブレーキをかけた。かかった!
そこに僕らが【爆炎弾】を投擲、硬直したグリフォンに炎をばらまいていく。
にひっ、と深瀬さんがえぐい笑みを浮かべ、続けざまにファイアボールを連打。
グリフォンの巨体が炎に包まれる。
「いい感じね! 蒼井君そのまま大声続けて!」
「いや待って、さすがに相手も音量絞るだろうし、あとこれ続けたらリアルで近所迷惑だから!」
「リアルとゲームどっちが大事なのよ!」
「リアルに決まってるでしょ深瀬さん何言ってんの!?」
試した僕が言うのもなんだけど、ご近所迷惑で警察呼ばれたら、僕のリアルが終わるからね!?
「深瀬さん、熱中するのはいいけど現実の自分も大事にしてね……! ゲームで人生棒に振ったら勿体ないよ!?」
「わ、分かってるけどつい熱くなっちゃうのよ!」
叫びながら炎を連打する深瀬さん。
何はともあれ、敵ボスに中の人がいることが判明した。
そして人間相手なら、今みたいな番外戦術が使えなくもない――けど、
(困ったな。それを差し引いても、敵のHPが削りきれない……!)
もともと僕らの戦術は、毒&魔法攻撃でちまちま削る長期戦を想定したもの。
それが実行可能な理由は、相手の行動ルーチンが決まっていて、僕らが確実に攻撃を回避できるからだ。
けど相手が人間となれば、僕らの手品も必ず学習されてしまう。
その圧倒的なHPを削る前に、こっちが持たない。
グリフォンが再び舞い上がり、雷と炎の雨を降らせ始めた。
防御するまでもない攻撃だが、その合間に突進や飛びかかり攻撃をされないよう警戒し続けるのは難しい。こちらは五時間の長期戦なのに対し、相手はただ一発二発僕らに攻撃を当てればいい――
「まいったな。脅かす方法はあるけど、火力が足りない……たぶんHPを削りきる前に、僕らがやられる」
これは、厳しいか。
もちろん限界まで足掻くけど、スペック差が高すぎる――
と、僕がうっすら唇を嚙んだ時。
「待って蒼井君。火力があれば勝てそう、ってこと?」
「……ええ。といっても、物凄い火力が必要だけど」
AI相手ならハメ技が効くけど、人間なら必ず対策を講じてくる。
それをかいくぐりつつ、敵の対策が不十分な間に膨大なHPを削りきるには、強力な火力が必要に――
「ぅ……その。もし、ある、って言ったら。どうする?」
「へ?」
「いやその、ない訳じゃない、っていうか。あたし、実は最強の切り札があって……それを使ったら、もしかしたら勝てるかも、っていう感じの。ただ、使うにはちょっとリスクがあるような無いような……」
深瀬さんが言いよどむ。
躊躇ってるようにも見えるけど、彼女は嘘をつくタイプの子ではない。
……切り札。
心辺りはないけど、彼女がそう言うのなら。
僕の返事はもちろん――
「手段があるなら、勝ちたい、とは思う」
「……そう?」
「まあ僕も一応男だし、それ以上にゲーム好きだからさ。負けるより、勝つ方が楽しいよね?」
「……まあ、ね」
「けど、もしその手段に何かリスクがあるなら、無理はしたくないかなぁ」
僕の個人的願望を押しつけるのは良くないと思うし、それで他人に迷惑をかけてしまうのも嫌だ。
なので彼女が乗り気でないなら、使うべきではないような。
が、深瀬さんは逆に、はぁ、と溜息をついて。
「蒼井君。たまには迷惑かけてもいいのよ?」
「え」
「……友達じゃない、けど。あたしも、いつもお世話になってるんだし。たまには、あたしに返させて、っていうか」
僕がつい振り向くと、深瀬さんはわざと目を逸らすように明後日の方向を向いていた。
その頬はリンゴみたいに赤く染まっていて、明らかに照れ隠しで。
僕がつい笑みを零してしまうと、彼女も気付いたらしく「ああもうっ」と声を荒げて――
「と、とにかく友達じゃないから、絶対あたしとあなたは友達じゃないから! けど、その……ち、ちょっとはあたしに任せなさい!」
そう叫んだ直後、僕に不思議なダイレクトメッセージが送信された。
【蒼井空さんのフレンド依頼を深瀬ひなたさんが承認しました 友達になりました】
「……へ?」
唐突なフレンド登録。
その直後、深瀬さんがアイテム一覧から取り出したのは――
夜空のような闇色に染まった、一振りの”剣”だった。
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