下着を求めて

第33話 ヴィアスの魔法と加護

ユリティアが眠ってから3日目が経とうとしていた。

アルクがこの世界にきて10日目。


太陽が差し込む庭で、1体と1人が向き合っていた。

1人の容姿は、身長は185cmくらいで健康的な小麦色の肌をしている、細身だが適度な筋肉がついており逞しい印象のある齢30程の男性だ。

赤みがかった黒色の整えていない長髪、髪と同じ色の顎髭、黒い瞳、そして何より男前な整った顔が男らしさをかもしだしている。

半袖の白のポロシャツ、スラックス、茶色の革のサンダルというシンプルな服装でさえ男らしく着こなしていた。



一方の1体は、身長150cmくらいの細身で、左手に黄金の金属バット、半袖の白の紐シャツ・茶色の半ズボンと革靴を身につけている。

一見子供に見えるが、緑の肌、尖った耳、黄色の瞳をした鋭い眼光で凶悪な顔をしているそれは、様々なロールプレイングゲームで弱いと定評のあるモンスター、ゴブリンだ。



(ヴィアス、何着ても男前だね)



アルクがまじまじとヴィアスを見つめる、現実世界の自分が着ても、ああはならないなと思っていると。



「旦那、付き合ってくれてあんがとよ!」



「うん、こっちも受けてみたかったら、気にせず来てね」



何故アルクとヴィアスが向き合ってるかというと、昼食を食べていた時にヴィアスが「旦那、おれぁの攻撃を受けてくんね?」の言葉から始まった。

自分も、早く近接戦闘になれないといけないと考え、受けることにした。

もちろん、お留守番はチャチャさんにお願いしている。



「じゃぁヴィアス最初は軽くでお願い」



「おう!旦那いくぜ?」



「うん、いつでもいいよ」



アルクの言葉を聞いたヴィアスはポキポキ手を鳴らすのをやめ、獣のように前かがみになり息を吸って吐くと同時にアルクに飛びかかってきた。



(うわ!)



急にヴィアスが殴り込んで来てアルクはビックリするが、その拳にンジャババを当て防ぐ、その後もヴィアスの拳は止まず早く研ぎ澄まされていく。



ガン ガンガンガンガンガンガガガガガガガガガガガガガガガ



アルクが全ての拳を避けたりンジャババで防いだりしている音が庭に響き渡る。

しばらく続けていると、突然ヴィアスが後ろに飛び一息つく。



「へへ、やっぱ旦那にはこれじゃ通じねえか」



「い、いや、結構ギリギリだけど・・・」



数分は撃ち込んでいたのに、お互いに疲労は見えないが、ヴィアスは手をプラプラと振り痛みを逃がしているみたいだった。



「それにしてもよ?その棒かてえな、人の武器だろ?それ」



「うん、自分もンジャババは何の金属かは分からないんだよね、前の世界の物だから」



「そんな傷もつかねえ武器みたことねえよ」



「まぁね、改めて見ても本当に謎だよね」



本当にンジャババは謎だ、先ほどの攻撃を受けても傷すら入っていない。

100レベダンジョンの低確率ドロップ武器は耐久値が存在しなかったからなのかな?

アルクがそんなことを考えていると。



「じゃあ旦那、次加護の力使っていいか?」



「ん?魔法を使うの?」



「まあ身体強化だけだな、旦那いいか?」



「一回見せてもらってもいい?」



「おう」



アルクはこちらの世界のバフ系でもなんでも魔法に興味があった、まだ見たことのない魔法を目にできると、ワクワクした眼でヴィアスを見つめる。

それを聞いたヴィアスも、返事をすると体に何かを纏っている半透明の何かが見えてきた。



「それはなに?」



「これか?これは魔力を体に纏ってんだ」



「能力は?」



「ん~?魔法とか殴られたり斬られたりしても痛くねえな、あと力が増すくらいか?」



「すごいね!この世界にはそんな魔法があるんだ!名前は何かあるの?」



「身体強化だ」



「そ、そっか、なんかカッコイイ名前でもあるのかと思ったよ」



アルクはそれを聞き、カッコイイ名前があるのかと思っていたので少し残念がる。

残念がるアルクを見たヴィアスが声を掛けてくる。



「旦那はたぶん勘違いをしてると思うぜ?」



「ん?何が?」



「今おれぁが全身に纏ってる身体強化をこうやって右手だけに纏わせても同じ身体強化だぜ?」



ヴィアスはそう言い全身に纏っていた半透明のモノが右手だけに見える。



「そして、これを最大限に上げても身体強化だぜ?」



またヴィアスは言うと、右の拳に纏っている半透明のモノが先ほどの3倍は膨れ上がっている。



「なるほど、この世界の呪文はイメージしやすくするモノなんだね」



「そういうこった、人は言語や見て聞いて頭でイメージして魔力を流すからいろんな名前の呪文があるが、俺ら魔獣は本能でイメージして魔力をどう扱えば発動するか解っからできんだ」



魔法をゲームの世界でしか知らないアルクは、この世界の魔獣スゲーとしかでてこなかった。



「え?じゃぁ加護は?どうやって授かるものなの?」



アルクは疑問だったことを聞いてみる。



「そりゃそいつの本質だな、加護は愛し愛される事が必要だ。

おれぁは無と火と闇を愛し愛された、そしたら自身の中になにか芽吹いたような気になるそれが加護っていわれてんな」



「へぇーじゃぁ全部の属性の加護を持ったら強いね!」



「まあな、でも加護を過信しすぎてもよくねえな、加護はただその能力を上げてくれる補助だ。

土台の体とか精神が脆いと加護の力に潰させちまうし、1つの加護を極限まで高めた力の奴に中途半端な力の奴は大体勝てねえよ」



「やっぱりそんなもんなんだね」



まぁそうだよね。



「あとよ旦那、そんなヤツがいればそいつは何処か壊れているはずだぜ?」



「え?どうして?」



「闇と光を同時に愛してしまうと心が壊れちまうんだ。

闇は生物なら必ず来る死と言う名の安らぎ・・・を受け入れねえといけねえ、それは光のねえ世界だ、どんなにあがいても光の安らぎ・・・がこねえ。

旦那、ユリティアに名づけた時にユリティアが死んだのをおれぁ見た、一度おれぁは死んだんだろ?」



「うん・・・あれは一時的だけど死だったよ」



アルクは気まずそうに答える。

それを聞いたヴィアスはどこか納得した顔をしていた。



「やっぱりな、一度死んだおかげでよく分かったぜ、闇と光は両方は愛せねえってよ、そしてより闇を愛した理解したおかげでおれぁ闇が濃くなった。

だからよ、旦那、今見せた身体強化だと面白くねえからおれぁの全力の一撃をよ、受けてくんねえか?そしてイメージしやすいよう名を付けてくんねえか?」



ヴィアスの眼は本気だ、アルクは軽い運動気分だった。

狼の件で忙しくユリティアに聞けなかった事をヴィアス先生が教えてくれた。

そしてヴィアス先生の加護の授業を受けてすごく満足し、ヴィアス、教え方うまいから先生向いてるよと心で思いながら聞いていたのに、まさかこんな流れになるとは思ってもみなかった。



(さすがにここまで教えてもらったからなぁ、一度は誰かの本気の攻撃を防具なしで受けてどうなるのかも知りたいんだよね、よし!)



アルクは覚悟を決めた。



「受けるよ!」



「へへ、嬉しいねえ、じゃあ旦那ちょっと待ってくれ」



ヴィアスがそう言うと、少し離れると止まり構えをとる。

アルクは何が始まるのかドキドキしながら眺めていると、ヴィアスの右の拳から黒い炎が燃え上がる。



「ヴィ、ヴィアスそれは?熱くないの?」



アルクは身体強化をもっと上げて殴ってくるシンプルな物だと思っていたが全然違う攻撃みたいで、かなりビビりながらも聞く。



「ヘヘ、旦那熱くねえよ、この体になってできるようになったんだが、魔力を溜めるのに時間がかかんのが欠点だな。

うし!行くぜ旦那!」



準備ができたのだろう、ヴィアスが叫ぶが、アルクは目の前の状況を見て心中は不安でいっぱいだった。

それもそのはず、目の前には先ほどのヴィアスの身体強化の時に見せた拳が更に膨れ上がり、倍近くの黒い塊が右拳に着いていた。



アルクは覚悟を決め軽く息を吸い、吐いた。



「来い!」



ヴィアスは声を聴いた瞬間先ほどとは比にならない速度でこちらに向かって叫びなら殴り込んできた。



〖食らいやがれ旦那ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ〗



アルクは冷静にヴィアスの拳を捉え、両手でンジャババをバントのように持ち、正面から受け止めるため全身に力を入れた。



ヴィアスの右拳についた黒い塊がンジャババに当たった瞬間。


弾け爆発した。


熱を感じ、そして自分の体がふわっと浮いた感覚を感じた瞬間、後ろに飛ぶ。



ドゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!



音を置き去りにして、アルクは後ろに見える樹林まで一直線に飛んでいく。



(イタタタタタタタタタタタ肩が外れそう!ヤバイヤバイヤバイヤバイこのままだと木々に当たってドリアードさん達との関係がまた遠のいてしまう!)



アルクはダメージを受け顔を歪めながら、ドリアードさんとの関係を心配していた。

アルクが池の上を通過しようとしているところで水面からドバーーーーーーン!と音が鳴り水飛沫があがり、黒い青色をした髭が4本出てきてアルクの衝撃を逃がすため、器用に一度上にワンバンさせ落ちてくるアルクを4本の髭が優しく受け止めてくれた。

アルクは衝撃に備え目を瞑り諦めていたが、思っていた物と違う感覚が来たので目を開けて確認する。



「あぁ、ズンナマさんが受け止めてくれたのか・・・よかったぁ、ありがとう・・・」



そうアルクがお礼を言うと、ズンナマさんが優しく地面に降ろしてくれた。

まだ痛みがある自分の両手を確認すると、手の先から肩まで真っ黒くなっていた。



(あれを直接体で受けていたらどうなっていたのか・・・。

これがこの体での痛み感覚か、現実世界の人の身なら死んでいたかな。

それにしてもこの体は便利だ、あんな攻撃を食らったのに指も腕も動かせるし問題はなさそう)



そんなことを思いながら服やンジャババを確認していく。服が上下もう着れないくらいボロボロだ、ンジャババは無事と。



(ハァ・・・結構気に入ってた服だったから着替えとけばよかった)



アルクが落ち込んでいると、いつの間に来ていたのか、お留守番をしていたチャチャが肩に飛び乗り顔を舐め回してきた。



「ちょ、ちょっとチャチャ、くすぐったいよ舐めすぎ舐めすぎ落ち着いて大丈夫だから」



アルクはそう言い手でチャチャを掴もうとするが、今の手だとチャチャが汚れてしまうから無理だなと諦め、されるがままになっていた。

チャチャさん首や耳をなめるのはやめて弱いんだ、そんな羞恥に耐えながら。


さすがにこれからは無理はしないでおこう、そう心に誓いながらヴィアスが居たところまで戻っていくが、先ほどヴィアスの一撃を受けた場所は結構な範囲の芝生が灰になって黒くなっていた。



「あ・・・これはヴィアスにあの攻撃をやめてもらわないといけないな、それにしてもヴィアスは何処へ行ったんだろう?チャチャ知らない?」



アルクはチャチャに聞いてみるが、無反応で顔だけをそちらに向けていた。

アルクもチャチャが顔を向けてるほうを見ると、木の枝に引っかかってる裸のヴィアスが居た。



「あれまぁ、攻撃の爆風で自分も飛んだのかな?」



そう呟きヴィアスの引っかかってる木の下までいくと、お腹の辺りが真っ赤になって気を失っているヴィアスと息子さん?のドラゴンさんが顔を覗かせていたので、アルクは一度ソレに手を合わせて合掌すると、ヴィアスを降ろすことにした。



「ヴィアス起きないね、あー手がチクチクする、自然回復だとどれくらいで回復するのかも実験してみよ」



そう思い裸のヴィアスを担いでソファーで寝かせ布を被せアルクもイスに座り一息ついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る