第27話 昼食と狼達

あれからしばらくして、アルクはベラとエリクとご飯を食べていた。



「あむあむあむ、どう?ベラ、エリクおいしい?」



「「あぶぅーーーー」」



毎回やっている食べるコミュニケーションだ。

アルクがお手本のように最初の1口を食べて、スプーンを変えてベラとエリクの口元に少量のリンゴを潰した食事を運び食べさせて、一緒に噛む振りをしてあげると。

ベラとエリクもマネして答えてくれるが、口から食べ物が飛び出して来る。



それが食事の毎回の流れだが気にしない、だって二人共可愛いから!



食事を済ませると、ヴィアスが起き上がり体を馴染ませたいと言ってきたので。

用意して置いた、ゲーム内で入手したオシャレ衣装の黒い紐シャツと茶色の短パンに着替えさせ、サンダルを履かせた。

外の物を壊さないことを約束するとヴィアスは外に出て行った。



アルクは見送った後は、台所の踏み台に立つと遅くなった自分達の昼食を作ろうとしていた。



「ヴィアスに渡したオシャレ衣装の伸縮機能は問題なく発動してたけど、破かないか心配だ・・・自動修復機能なんてないからなぁ・・・。

まぁそれは置いといて、昼食はなんにしようかな、ヴィアスは肉が食いてえって言ってたから・・・焼き肉でよくない?」



アルクは不安がるがその時はその時と切り替えた。

昼食の食材をマジックバッグからドラゴンのブロック肉を取り出し、まな板に置くと、包丁で少し薄く一口サイズに切り分けていく、そして全部に塩コショウをまぶす、そしてフライパンに牛脂を入れ温めスライスしたニンニクを入れフライパンを満面なく使う。



「でかい鉄板がほしいね。フライパンはさすがに小さすぎて、これ何回焼かないといけないんだろう」



肉がいい焼き加減になったところで、アルクはチャチャにヴィアスを呼んできてとお願いする。



「チャチャごめんヴィアスを呼んできて、ここから大声だすとベラとエリクが起きちゃうからお願い」



「クック」



チャチャは渋るように鳴くと、焼きあがった1枚のドラゴン肉をつまみ食いして窓から飛び出していった。



「はぁ、行儀が悪い子に。

・・・ベラとエリクもああならないように気を付けないと」



そんなことをつぶやきながら何枚も焼いて行ってると。

玄関がノックされると同時に窓からチャチャが入ってきてアルクの肩に飛び乗ってきた。



「ありがとチャチャ」



「旦那、もどったぜえー」



アルクがチャチャに感謝を述べると、ヴィアスが玄関のドアを開け入ってきた。

教えたとおりにドアを開けて入ってきてくれたのを見てホッと胸を撫でおろす、もし窓から入ってきたらどうしたものかと思っていたからだ。



「昼食ができたよ、食べよう焼肉だよ焼肉」



「?焼肉ってなんだ?このいい匂いがすんもんか?」



ヴィアスは部屋に充満している匂いをを嗅いでいる。

それを見てアルクは苦笑しながらロングテーブルにある、台所に近い1脚のイスを引いてヴィアスを呼んだ。



「ここに座って」



「へへ、すまねえ、旦那」



そうヴィアスが言い座ると。

アルクはすぐに台所へ行き、先程より少なくなっている焼肉を盛った皿を持ち、ヴィアスの前に出した。



「どうぞ、召し上がれ、チャチャさんにはちょっとの間おつまみ禁止令を出そうか」



「シュー」



アルクは反省したチャチャの頭を撫でている横で、ウメエウメエと手で焼き肉を鷲掴み口に運ぶヴィアスを見て頭を抱えた。



「旦那まだまだ足りねえ!!」



「はいはい、ちょっと待ってね」



その後は、ヴィアスにフォークの使い方や家のこと自分が異世界から来た事を教えたりベラとエリクと遊んだりしていた。

途中に思い出してなんでヴィアスは言葉が喋れるの?って聞くと、人が喋ってるものやドリアードに話しかけられて覚えたと言ってた。

結構言語知能高いんだな魔獣達って、と思いながら一日を終えた。




________




アルクが気が付くと、日が昇り朝になっていた。

この世界に来て初めて睡眠を取ったアルクは安堵していた。



「さすがに疲れが来たのか。

睡眠が取れるみたいだし、これからは睡眠も取るようにしないとな」



念のために体を軽く伸ばし体操をしているとチャチャが顔を舐めてきた。



「ん?誰か来たの?」



「クック」



「南の主さん?」



「クック」



「ありがとう」



アルクはチャチャに感謝を述べ頭を撫でると、昨日個室で寝かせたヴィアスの元へ行く。

個室のドアをノックし、起きているのか確認するとヴィアスはすぐにドアを開けてきた。



「ヴィアス起きてる?」



「おう、旦那おれぁ初めて人の寝床を使ったがいいもんだな、体が痒くねえ」



「そっか、それはなりよりだよ、ヴィアスは今まで土の上だったもんね」



昨日も、風呂場でヴィアスに人の水浴びはお湯も使うと話すと、人すげえすげえと自分見たいに語彙力が迷子になっていたのをアルクは思い出し苦笑しながら、ここに南の主が来るよと伝える。



「旦那、おれぁもついてくぜ」



ヴィアスも付いてくるらしいので、南の主さんや狼さん達の食事と水を桶に入れ準備をすると、家を出て2体と1人で玄関の前で帰りを待つ。



しばらくすると樹林から南の主と細い5匹のグレートウルフがやってきたのが見えたが。



(・・・あれ?ここを襲ってきたグレートウルフ達と違い、小さいな・・・それに痩せすぎじゃないか?毛並みも健康そうには見えないな)



アルクは声を掛けようとするが、先にヴィアスが南の主に声を掛けた。



「おーう南の主!久しぶりじゃあねえか!」



聞こえているだろう南の主は、何の反応もせず5匹のグレートウルフを引き連れて歩いてきてアルクの前に止まった。

何故か隣のヴィアスも黙っていた。

アルクは感謝を述べようと声を掛けようとするが、南の主の顔が至近距離まで来て念話を送ってきた。



『アルク様、無事に東に住む者達を連れてまいりました』



神々しい容姿をしている南の主の眼は充血していた。



(え?え?ナニ?・・・怖すぎっ!)



南の主の迫りくる圧にアルクは気圧され、南の主が何を言っているのか数秒の間、理解できなかった。



「み、南の主さん、あ、ありがとうございました。

ドリアード様達はどうでした?会ってくれそうですか?」



『まだ即座には決められないようですが、時間の問題かと』



「それはよかった、朝食の用意も出来てますので、よければお食べください。

グレートウルフさん方も、私の我が儘を聞いて来てくださり、ありがとうございました」



アルクは、ドリアード達に会える確率があがり心の中で喜び、南の主さんを労うために朝食を南の主さんの前に出していく。



アルクがそう言うと、服従のポーズをとっていたグレートウルフ達が先程よりも震え始め、アルクはそれを見て慌てて誤解を解く。



「痛めつけようとかじゃないですからね。

話し合いをしましょう、まずここを襲った貴方達の仲間は自分が殺しました。

それについて謝罪もしませんし、亡骸を返せと言われても返す事はしません、こちらで有効活用させていただきます。

それと、こちらに危害を加えなければ、貴方達に危害を加えるつもりはありませんので縄張りは今まで通り好きにしてください」



そうグレートウルフ達に言うが、ただ震えているだけだった。

伝わってるのか分からなく、南の主さんにお願いして伝えてもらい、伝わったはずだが、グレートウルフ達は変わらない。

自分は、そんなウルフ達を眺める。



(ウルフ達は家族を殺されて憎悪を募らせてると思っていたけど、そんな感じはしないな・・・あぁそういう事か・・・自分のよく知る眼をしている。

こんなにも痩せこけて・・・群れで残ったのはいい扱いを受けなかった者達なのかな・・・)



自分のあの頃と同じ眼を見て。

アルクはウルフ達の傍に寄ろうとするとチャチャが鳴くが、大丈夫と一言だけ呟き、ゆっくりと瞬きまばたきをしながら、ウルフ達の傍で腰を下ろし、そのまま少しの間じっとし手を1匹の左目が傷がで潰れたウルフの体に優しく添えた。

ウルフは、体に手を添えられるとビクッと体強張らせるが、そのままされるがままに、身を委ねたみたいだ。



(前の現実世界の自分だったら、猫と犬でも野放しにされてる動物に触るどころか近づく事さえしなかったな、絶対に逃げる自信がある。

これもゲームの世界とヴィアスや南の主に出会って危機感が麻痺して来ているんだろうな)



アルクはそんな事を思い口元を緩ませながら手を添えているウルフを見つめ、ゆっくりと瞬きまばたきを繰り返す。

魔物に効くか解らないが、動物は見続けた状態で近づくと警戒してしまう、獲物として狙われていると思われてしまうからだ。



(これは・・・手を添えただけでも解るな、肉がついてない・・・こんなにも痩せてしまって。

このままではほかの魔物に殺されてしまい絶滅の可能性があるか、早めに何か対策しないと。

まずは・・・話を聞き、この体をどうにかすべきか・・・)



「貴方達は、群れでは良い扱いを受けてなかったのですか?」



「ヮフッ」



(言葉は解っていたのか・・・それにしても弱弱しい鳴き声だな)



アルクはそう考えると、立ち上がりウルフ達のために用意した食事をウルフ達の前に置いた。



「ここまで来てもらいましたから是非食べて力をつけてください。

それと水はこの桶の物を飲んでください、そこに見える池の水は飲まないでくださいね」



池の水を飲ませるのは気が進まなかった。

あそこに毎日1匹凍った狼を投げているから、間違えてズンナマさんに食べられてしまうかもそんな事を思い一応注意しておく。



そんな事を考えていると、言葉が通じたのか、空腹で我慢ができなかったのか分からないが、グレートウルフ達はブタ肉ブロックのしばらく匂いを嗅ぐと食べ始めた。



アルク達はそれを見つめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る