始まった数日間

第5話 開けた世界

クックックという音が耳元で聞こえ、べちょべちょと音と共に木々の葉擦れの音が聞こえる。



チャチャか・・・と思いながら少し経ってアルクは目を開けた。

最初は眩しかった日差しが徐々に治まっていき、霞んだ視界がはっきりしていく。

見慣れた池がキラキラと太陽の光でいつもより美しく見えるが、周りの森がおかしい魔族大陸の木じゃなく人間大陸の木だった。

匂いにも違和感を覚える中、視界を横へ動かすといつも見慣れたチャチャがニタァと笑っているように見えた。



寝すぎておかしくなったか?15周年のアップデート時間や長時間ログインしていれば強制的にログアウトさせられるはず。



もう一度チャチャを見る、笑っている?



そして目線を下に向けるとそこには2つずつ色の違う4つの目があった。



「ファッ!」



アルクの体がびくりと動くと、こちらを見ていた4つの目も自分の声にびっくりしたのか、目を見開いて驚いた顔をしてきた。



そして不意打ちと言わんばかりにチャチャが顔を舐めて来てべちょりと顔によだれがつく。



よだれ?



目線を上にあげ木葉が風で揺れるのを目で追い自分を落ち着かせる。

現実逃避していると視界の端に何かが映り、なんだろう、何か飛んでるのが見えるが遠すぎる。



(赤い鳥?)



なんだあれ?そんな上の問題よりも、下の問題に向き合う事に決めた。



「何故赤ん坊が?」



そう自分の両脇にはバスケットに中に白い布で巻かれた生後間もないだろう赤ん坊とただの白い布に巻かれていた赤ん坊が居た。

まだ1人なら許容範囲だったかもしれない、なぜ2人居るのだろう。



はぐれた?NPCの赤ちゃんがはぐれる事なんてあるんだろうか?



勝手にアップデートされてしまったのか?バグか?そんな事を考え込んでいると、1人の赤ん坊がぐずり始めてしまった。

焦ってはいたが、昔親戚の赤ん坊を抱かせてもらったり、少しだけ面倒を見てあげていた経験のおかげで、あまりてんぱる事もなく生後間もない少し髪の生えた白髪に肌が黒く耳が尖ってる紅い目のした赤ん坊を、握らないようにゆっくりゆっくり慎重に優しく抱き上げ体をゆらす。



「ダークエルフの子かな?どうしたの~?お腹でも減っちゃたのかな~?」



ゆっくりと揺らしながら顔を覗いて笑いかける。

ッハと我に返り顔を逸らす、今更ながら自分がゴブリンという事に気づき、焦りながらもう一度覗くとキャッキャと笑っていた。



「あぁ、よかったぁ」



と安堵していると



「オギャーーオギャーーー」



と、もう一人の赤ん坊がぐずりはじめた。

さすがに二人を抱き上げるのは無理なので、アルクはまん丸に膨らんでいるマジックバックのリュックを背もたれにし、体勢を斜めにして、腋に赤ん坊の頭が来るように、もう一人の赤ん坊もバスケットから取り出し寝かせ両腕で揺らしてあげた。

両方の赤ちゃんに顔を覗かせよ~しよしよし~どうしたのかな~?と微笑みかける

すると機嫌がよくなったのか。



「あぅ あぅ」



と両方から聞こえたアレクも落ち着きを取り戻し赤ちゃんを改めて観察する。

ダークエルフの子は、肌が黒く耳が尖がっていて、薄っすらと頭に毛が生えて白色だ、紅い色の瞳そしてまつ毛も銀色に輝いていた。



もう一人の赤ん坊は人間だと思う。

耳は尖がっていないから人間かな、薄っすら生えてる髪の毛は金髪の瞳の色は澄んだ水色でまつ毛は金色だった。



しばらく揺らしていると、赤ん坊達が落ち着いたので、そろーりそろーりとバスケットに戻し、赤ん坊の名前がないか探って見ることにした。

するとそれぞれ異なった金属のタグのついたネックレスがあった。



「よかった、お腹が空いたとかじゃなく見慣れない景色で驚いちゃったのかな?

・・・それにしても、年季が入ったタグだね・・・この文字?・・・見た事ないな、何々?ベラ?あれ苗字とかはないのかな?・・・女の子なのかな?

それにしてもここまで傷のついたタグはこの子の名前なんだろうか・・・親の物なのかな?でもこれしかないからなぁ・・・呼び名はベラにしようか」



アルクはゲームで産業スキルの【言語】熟練度をMAXまで上げていた事で名前らしきものを読むことが出来た。



「きっと美人さんになるな、男に気を付けるんだぞ!みんな狼だ!

もう一人の子のタグは綺麗なんだよなぁ・・・エリク、男の子かな?かっこいい名前だね、きっと将来男前になってモテモテだろうから、後ろから刺されないように注意しないと」



アルクは、そう二人小声でささやき微笑みかけた。

自分でも馬鹿なこといってるという自覚はある、たた現実逃避がしたかった。

目覚めたら目の前に赤ん坊が居て、ほかの事を後回しにできたおかげでゆっくりと状況が把握できてはいたが。

そう簡単に受け止められるわけがない。


アルクは頭の整理をしながら、傷ついたタグと傷のない綺麗なタグをそれぞれの場所に戻した。

そして一度息を吐きだすとアルクは覚悟を決め、頭に乗っている同じ緑の仲間に手をかけて胸に抱くと。



シュっと音とともに自分の顔がチャチャのベロでなめまわされ。



「おうお~うお~~う、一旦落ち着いてチャチャ」



アルクはチャチャの頭を撫でる、落ち着いたのかチャチャはこっちをじっと見つめ、アレクの顔はチャチャの唾液でべちゃべちゃなのだが気にしない。



「チャチャ・・・此処は何処?」



「ック」



と鳴き顔を下に向ける、落ち込んでるのだろうチャチャをアルクは胸に抱いて撫でる、そして周りを見渡した。



おかしいのだ。

自分の目に映っていた、HPバーもMPバーもフィールドマップもなくなり、従魔でもこんな繊細な動きはできない、呼べば反応するが呼ばなければ反応しない。

周りの風景も歪な形の木々ではなくなり、真直ぐ立っている巨木が庭の周りに生えている。

そして唾液と匂い・・・ゲームで感じてたものではなく、現実世界の物だ。



ここはFlow Of Worldの世界じゃないのか?

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