第3話 目を瞑る

アルクは自分の家が見えるところまで帰えると、レザー装備からいつものラフな格好に着替えた。



「やっと家に着いた・・・、薬草はストックもあるから、まぁアプデ後でもいいか・・・それにしても、ゲームの世界でも食物連鎖を目の当たりにすると震えてしまうな、こればっかりは十年以上ゲームをやっていても慣れないなぁ」



そんな独り言を言いつつ精神的に疲れた体で、家の池傍の木陰に座り込む。

顔を上げ空を見ると紅く染まりきった夕焼け時で、目の前の池はまだ日が届き水面が紅くキラキラとしていて、美しいそれをアルクはボーッと眺めた。



「もう、あと数時間で15年か・・・アップデート何が来るんだろうね、従魔の行動がもっと自由になればいいのにね」



アルクは膝に乗せてるチャチャを見つめながら体を撫でそんなことを呟いた。



「15年か・・・。」



また呟き池を見つめながら、自分の過去を振り返っていた。



昔の自分はある失敗がきっかけで複数の人の目が怖くなってしまい、笑わなくなってしまった。


誰にも迷惑を掛けたくない一心で、相談もせずソレを耐え続けてしまったのが間違いだったんだろう。

そんな事に気づいた時には、一人称が俺ではなく自分に変わり、自信を無くしてしまっていた。



自分の中の何かが欠けてしまっていたのだろうか。



誰かに話しかけられると笑顔を張り付かせては、周りの空気や目を気にするようになった。

悲しく笑ってはいけない場面であっても人の目があると笑顔を張り付かせ、自室で一人になると泣いていた。


自分がいつ、人ではない理性を失った獣になるかもしれないと怯え、ただ【人】でありたいと願い、気を張って過ごしていたら。

転職した先の後輩達がflow of worldの発売日が待ち遠しいと話をしているのに聞き耳を立てていると。


「Flow of WorldってVRMMOはすげぇんだよ、先行でテストプレイをやってみたけど生まれ変わった感じがしたんだ」


そんな言葉に興味を持った。

生まれ変われるのなら何処でもいい、仮想世界でもいいから少しでも現実世界から離れられる場所へ行きたかった。



もう精神の限界を感じていた。



そんな思いで発売当日にゲームを買いプレイしてみると。

キャラクター作成時で所属する国を選ぶことになり、人族の国、獣人族の国、魔族の国の3つの国があった。

その中の魔族の国を選ぶと、いろんな種族が選択できオーガという鬼の種族もあったが、見た目がかっこよかったから、ゴブリンという緑色の肌の醜い小鬼を選んだ。

理由も、外見が醜い鬼だろうが心は人でありたい、そう願って作成するが。

結局は仮想世界で生まれ変わろうとしても、現実の自分に重ねているなと思い呆れながら作成ボタンを押した。



キャラクター作成画面からゲームの世界に変わると、魔族の国というのもあり様々な者たちが、人とは違う歪んだ姿で街中に歩いてるから、最初は戸惑ったが数時間立てば流石に慣れた。

そして目の映るNPCの頭にあるビックリマークを見つけては適当にクエスト終わらせていった。

クエストを進行している途中にテイマーという職業を知り【声】で魔法が使えると言われ、興味を持った。


テイマーになったおかげでチャチャという友達に出会い、一緒に様々なクエストを終わらせていった。

そうしていくうちに仮想世界にハマり、NPC達の話が面白くなっていった。



とあるNPCの男性のリザードマンは、NPCのエルフに恋をした。

お近づきにと、お肉を渡すとビンタを食らった。

エルフは肉を食べない種族らしく、リザードマンは肩を落としていたが。

そのリザードマンのクエストを進めていくうちに恋は実り、仲睦まじい二人を見ることができる。

結婚式にも呼ばれるのだが、参加している近くのエルフの男性に話しかけると、花嫁姿のエルフを見て。



「・・・だが男だ」



と意味深な発言をした。

西洋の結婚式なんだと思うところもあったが、爆弾発言の衝撃で、すごく考えさせられた、二人がそれでいいならいいんだけど。

え?どっちなの?と2日は悩んだ、そのあともその二人を見ると、あの時の言葉が過ぎってしまう。



そんなこんなで意味深なものや、切なかったり、暖かかったり、腸煮えくりかえるようなクエストがあって、感情を揺さぶられたおかげか、自分の何かが欠けてしまった事を忘れさせてくれた。



そしてある日、従魔を連れて散歩をしていると。

困ってる他種族の3人組を見かけ話しかけてから、目まぐるしい毎日が始まった。

3人はケラケラ笑いながら自分をいろんなダンジョンに連れていってくれた。

自分には拒否権はなかったんだろう、ほとんど強制だった、でも嫌じゃなかった。

この山の上にはきっとドラゴンがいる!と登山させられ、結局頂上に着くと、お山の大将のでかいサルがいてみんなで死に戻りし笑いあった。

心の底から笑う日々が続くと自ずと周りに人が増えていた。

人間関係のゴタゴタも増えていく、でもその時の自分には関係なかった。

仲間ができたおかげで不安なんてものはなかった、Flow Of Worldの世界を旅して明日で15年。



『当たり前の日々が続く』とはいかない。

結婚やら仕事やら私生活でみんな忙しくなり離れて行く、これが続かない、今を大切にしないと。

そんな思いを毎年感じ、時間に余裕ができるよう会社をやめて低収入だが、なんとかやるくりしている。

自分がみんなからもらったものを返せるか分からないけど、一秒でも長く共に居れたらいいなと思うが、すぐ頭を振り後ろ向きの考えをやめる。



アルクはいろいろ思い出に耽ていると瞼が重くなってきた。



あぁ、明日は久々にみんなに会える。



目を閉じた緑と目を開けそのまま動かない緑



森に囲まれた場所は、地面から白い光の粒子が全体を覆うように浮かびあがり



やがて



消えた。

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