第2話 従魔

アルクは腐魔を見送り、自分の視界に映るゲーム内時間を確認すると、待機してる自分の従魔チャチャを呼びに家に足を進めた。


家の前までたどり着き、木製のドアを開けると、チリンチリーンと鳴る風鈴の音とともに入った。

目の前には家の外装と同じような凝った内装で優に8人以上のスペースの木製のロングテーブルがあり隣にソファー、その奥にはオープンの台所に壁には装飾品やら絵画などが飾られていた。


アルクはテーブルに視線をやるとテーブルの真ん中に丸まってる茶色の物体に声を掛けた。



「チャチャおいで」



呼びかけられた茶色の物体はピクリと動き、顔らしきものが上がると、大きな瞳をキョロキョロと動かし、こちらを見るとすぐ体を起こしテーブルの上を駆け、アルクの胸に飛び込んできた。

アルクは優しく胸で受け止め頭を撫でる、そこには『クックック』と鳴き、体の色が緑に変わっていく、紅い瞳をした緑色の体の小さなドラゴンが居た。



アルクの3体の従魔の中の1体、名は【チャチャ】種族擬態竜の雌だ。

主な能力は他者の体に触れると、自分とその者を風景に合わせて擬態し気配を断つことが出来きる。

それと索敵能力だ、相手の強さなどがどれくらいなのかが解る。

隠密行動では一番優れているアルクの仲間だ。



胸に抱いたチャチャをアルクが優しく撫で続けていると、満足したのかムクりと起き上がりアルクの肩に上り身を落ち着かせ、手で体をポンポンと軽く叩いてあげると出かけると理解しているのだろうか。



「クックック」



胸に抱いていたチャチャが「しゅっぱーつ!」と言わんばかりに前足でアルクの腕をタンタンと叩いた、それにアルクはクスリと笑い。



「チャチャいこっか」



と言い家を出た。




_______




畑仕事をしていた時の服からレザー防具に着替えたアルクは、景色など楽しみながらアルクは肩に乗っているチャチャと目的のランク2の森のフィールドにたどり着いた。



この世界のフィールドには、3段階にランク付けされていて2ランク以上のフィールドだとPVP可能エリア(プレイヤーと戦闘できるエリア)になっている。

そのためプレイヤーの野盗などが出没し危機管理能力が必要になる、そこで頼りになるのが従魔の【チャチャ】だ、索敵能力と隠密行動をするために必要な存在だ。



一応PVP不慣れの人用に対策も打たれていて時間帯によっては、2ランク以上のフィールドは平和時間があったりもする。

平和時間にプレイヤーキャラを攻撃するとフィールドを巡回している騎士部隊に斬り殺される。



このゲーム世界ではPVPエリアだと、パーティーを組んでも味方へ攻撃を与えることが出来き、一度、平和時間中に仲間が間違って自分を攻撃した事があった。

仲間のダメージを受けると、ピーーーーーーッ!っとホイッスルの音と共に10人ぐらいのフルプレートの騎士達が来て、槍で仲間が串刺しにされ殺される事があった。

血がでるといった残酷な描写はないが、仲間1人に対して四方八方から槍で串刺にされている姿を目の前で行われたらさすがにトラウマ物だ。



そして【死】へのデメリットも、もちろんある。

自分が持っている素材及びある程度の金を落とし、自分のレベルが高ければ高いほど落とすものが多く、そして自分が最後に寄った街での復活となる。



アルクはそんな昔を思い出し身震いをすると改めて気合を入れチャチャに指示を出す。



「チャチャ索敵と擬態をお願い、近づいてくる者が居たらすぐに教えてね」



「クック」



チャチャは了解という意味で鳴く。

ここからはランク2エリアの戦闘エリア、同族に対しても警戒して進まなければならない。

擬態も万能ではなく草などの採取なら術は解けないが伐採、採掘などの音が大きく出てしまうと擬態が解けてしまう、解けてしまうとプレイヤー達のミニマップに表示され自分の位置が気づかれる、モンスター達も自分達に気づいて襲ってきたりしてくるので気を付けなければならない。



アルクは、問題なく目的の薬草の群生エリアに入ると、ゆっくりと薬草を採取していく。

近頃のゲームでは珍しくインベントリーというものがなく、キャラクター作成時に1人1つもらえる自分専用のマジックバッグにアイテムを入れなければならない。



アルクはまだ十分とはいいがたいが採れた薬草をマジックバックに詰め終えると、一度休憩するため周りを見渡し安全確認をして大きなリュックを背もたれにしてチャチャを膝に乗せて座り込んだ。

草木の葉擦れを聴つつ、ボーっとしながら流れる風景を見つめと、スライムがのそのそと移動したりボアが木陰で眠っていた。



アルクはのんびりボーっとそんな景色を眺めているとチャチャが舌を出して舐めてきた。



「ありがとうチャチャ、何か来るんだねまだ薬草はほしいけど、無理はせずプレイヤーなら帰ろうか、モンスターなら通りすぎるのを待とうかな」



アルクはすぐに教えてくれたチャチャに感謝を述べると、立ち上がりチャチャが向いてる反対の方向の木陰に移動し体を潜めた。



しばらくすると、微かにドスッドスッと音が聞こえて来てアルクはモンスターだと分かり息をひそめ、音のする方向をじっと眺めた。



すると、木々の間の茂みから音の出していたモノが姿を現し、薬草の群生エリアに入ってくる。

それはウーパールーパーみたいな外見の全長8mくらい全身は紫色でテカテカした魔獣、推定LV70のネームドボス【ヴドン】だった。



(ここは、最高LV65フィールドだぞ?なぜこんなところにネームドボスのヴドンが?)



アルクはモンスターを見て、焦る。

離れた場所にいたボアも脅威に気づき、逃げようと体を起こすが、遅かった。

ギョロリと効果音が付きそうなデカい目が獲物を捉えた瞬間。

地面を蹴りその巨体を脚力だけで飛ばす、物凄いスピードでボアに近づいてき、大きな口が開き、中から出てきた鮮やかなピンク色の長い舌で全長2mはあるボアの体の下からすくい上げると大きな口に入れた。



ゴクリ。



自分が唾を飲み込んだのかヴドンが飲み込んだのか解らなかった。

一瞬の出来事でなかなか見れない瞬間を目の当たりにし、足が震える。

決して恐怖ではない、そう強く思いながら気づかれないように忍び足で、2ランクエリアを抜けるまで気を緩めず家に帰った。

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