バルセロナの熱い風

令狐冲三

第1話

 バルセロナへ到着すると、港は波も穏やかで、柔らかな陽射しが頭上から降り注ぎ、非常に開放的な雰囲気だった。


 山岳地帯を横断するつもりで街外れのマーケットで旧いオートバイを購入したのたが、それが思いがけずポンコツで、草原を抜けそろそろ山道にさしかかろうという3日目、突如エンジンが焼け付き、マフラーから黒煙を噴き出して動かなくなってしまった。


 ほの白い山々の稜線と、そこへ向かって延びる一本の道だけが草原の彼方へと続いている。


 仕方がないので、バイクを乗り捨てて先を急ぐことにしたが、山が近づくにつれいよいよ陽射しが強くなり、私は一時間おきに道端の木陰に憩い、リュックサックから水筒を取り出して喉を潤した。


 途中、運良くバスを拾うことが出来た。


 乗客はみな辺りの農夫らしく、黒い野良着に身を包み、どの顔も馬の鞍みたいだった。


 楽しそうにワインボトルを回し合い、見ず知らずの私にも気前よく振舞ってくれた。

 山を越えて間もなく大きな街に着いたので、特に当てもない私はそこでバスを降りた。


 旧い街並みがとても美しく、時折吹きつける南風は心地よかった。


 私は街路樹の立ち並んだ石畳をのんびり観光し、街外れの小さなホテルにチェック・インした。


 先の予定など何もなかったが、とりあえず二日分の宿代を前払いしておいた。

 他にイギリス人が1人泊まっているらしい。


 荷物はおかみさんが運んでくれた。


 古びた螺旋階段が、一歩踏み出すごとにギシギシ音を立てた。


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