Side:霧島紗倉

 初めて春山士郎と出会ったのは幼稚園の時だった。

 家が隣同士だから、そんな理由で母と士郎の母が仲良くなり私と士郎は出会った。


「初めまして、僕は春山士郎! よろしく!」

「うん! 私は霧島紗倉、よろしくね!」


 士郎はとても優しい人だ。

 優しすぎてたまに自分を犠牲にするほどに。

 別に自分の利になるようなことではない。

 なのになんでそんなことをするのか?

 たまにわからなくなってしまう。

 私は彼のそこに惚れてしまったのだろう。


 出会って一月もすれば士郎が好きになっていた。

 好きというものが何もわからないけど、今思うとあれが好きだったんだ。


 小学校の修学旅行でのホテルでの出来事だった。

 恋バナとなった。

 もちろん私の番がきた。


「私は……士郎が好き」


 私はありのままの自分の気持ちを伝えた。


 すると、周りからは笑い声が舞い出した。


「さくちゃんはもっといい人でもいけるのに〜てか、春山くんって普通じゃん」

「そそ! さくちゃん、せっかく可愛いんだから!」

「ほんとほんと」


 誰も士郎を知らない。

 みんな一回は士郎に助けられてきたというのに。

 腹が立った。

 でも少し嬉しかった。

 よかった、誰も士郎が好きな人なんていないんだって。

 私だけの士郎なんだって。

 多分、私は士郎を嫌いになることはないだろうし付き合ったら別れない自信もある。

 そのくらい好きだから。


「そ、そうかなあ……」


 私だけが士郎を愛せる。

 そんな贅沢なことをしてしまっていいのだろうか。


「そうだよ! 慎一郎くんとか!」

「私も好きだけど、さくちゃんが好きならかなわないよぉ!」

「きゃー、それがいい!」

「やめてよぉ〜」


 慎一郎……?

 誰?


 私の脳内には士郎しかいない。

 異性は士郎かそれ以外かで分かれてしまう。


 嬉しいことが起こった。

 中学一年の時のことだ。


「士郎、お前のこと好きだぜ」


 各務原修也、士郎と仲のいい男の子が声をかけてきた。

 彼のことは知っている。

 だって士郎の親友なのだもの。


「そ、そうなんだ……」


 ドクンドクンと心臓の鼓動が上がっていく。


 やった、やった、やった、やった!

 士郎が私のこと好きだったんだ!

 両思いだぁ。


「まあ、霧野さんも士郎が好きなんだろ?」

「なんで!?」


 誰にも言ったことがない。

 言ったらまた笑われると思ったから。

 ならなぜ彼は──。


「俺は勘がいいんだよ。よかったじゃん、両思い」

「うん……ありがと」


 何か期待した。

 けれど何もなく、中学一年生は終わり、中学二年性へと上がった。


「紗倉、俺は紗倉が好きだ」


 中学二年の夏──。


 ついに私は士郎から告白された。


 ポロポロと涙が溢れ出した。


「え、なんで泣いて……」


 ぎゅっと、士郎に抱きつく。


 やっとだ。

 幼稚園からずっと待っていた、士郎と付き合うことを。

 かなった。

 やっと叶ったんだ。

 これで士郎は私のものだ。


「嬉しいから……!」

「じゃ、じゃあ!」

「うん、よろしく……」


 初めてのキスをした。

 好きな人との口付けは幸せだった。

 二度目三度目も幸せだった。

 一番幸せだったのは、士郎とシた時だった。

 あの瞬間は本当に士郎と一つになれた気がしたから。


「俺は紗倉と出会えて本当に幸せだよ」

「私も士郎と出会えてよかった。うれしいうれしいうれしいうれしい!」

「俺も」


 ぎゅっと士郎が私に抱きつく。

 痛い。

 でもそれより幸せなが勝ってむしろそれも気持ちいい。


 こんな幸せがずっと、ずっと続くと思っていた。

 でもそううまくは行かなかった。

 士郎のことを知っている人が他にもいたのだから。

 独り占めできないと気づいたのだから。


───────────────────────


おかげさまでラブコメ週間ランキング4位です!!

応援、ありがとうございます。

まだまだ応援よろしくお願いします!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る