第6話 教師が面倒ごとを背負ってきた(前編)

生徒会仮役員として一か月ほどが経とうとする頃、我々一年生の最初の行事がもう目前まで迫ってきている。ただ、行事の全てが楽しいものだなんて保証はどこにもないわけで。


「本当にやるつもりですか、我々の負担も考えて頂きたい。」


今回はその一件で生徒会議会が開かれている。一つ上の先輩役員はどうも今回の件に納得がいっていないようだ。勿論、仮役員でも生徒会に籍を置いているため俺自身出席しなければならない。


「にしたってなんで登山なんか」


そう。今回の行事は山岳活動を主とするキャンプイベントである。この行事は通年開催されるものではない、今年限りのイベントだ。今年の一年の主任である御園清子みおんきよこの意向が大きいらしい。


御園清子は数学を担当する女性の教師だ。山岳部の顧問であることも今回の騒動の要因の一つである。毎年、学年主任の担当がその年ごとの行事を進行するのだが、稀に自分の趣味全開で進める教師もいる。今回がまさに”それ”だ。


「本当にすみませんでした!」


「頭を上げてくれ。別に君のせいじゃないだろう、鈴夏」


深々と頭を下げているのは二年の御園鈴夏みおんすずか。山岳部部長であり山岳部顧問である御園清子の実妹だそうだ。今回の件は姉の行き過ぎた暴走が形になってしまったことにどうやら責任を感じているらしい。


実際一年からは不平不満の嵐が押し寄せている。今回の行事に関しては正直なところ俺も二つ返事での賛同というわけにはいかなかった。生徒会に所属しているというだけで訴えてくる人がいることも一つだが、いきなり山登りというのも難しいだろう。


「校風が自由を象徴するなら先生たちの行動にも自由はあるよねそりゃ…」


彼女が頭を下げるのも理由があった。各行事において生徒会役員から一人、監督責任者を選出する必要があるのだ。選出された者は学年主任との密な連携の元、予算やスケジュールなどを決めていくことが主な仕事となる。


つまり、よくもわるくも選任された人物はその行事の間、周りからは目で見られるということ。実施は七月の初旬、梅雨が抜けた頃合いでやるようだ。


「準備期間が約一か月半ほどか。三宅、お前はどう思う?」


「あまり高低差のなく、山道が整備された場所であればなんとかなるかもしれないがキャンプができる場所というのがな。人数も人数だ、実施場所や予算組はかなり大変になるだろう」


鷹原と同学年の三宅総司みやけそうじは短髪でガタイがよく、生徒会のほか陸上部にも所属している目に見えて分かりやすい体育会系な印象を与える。だが周りの人曰く、繊細で気遣いが出来る優男君なんだそうだ。


確かに、知的な雰囲気を感じる。本人もガタイの良さは親譲りのものがあるらしく、少し動くだけでもすぐに筋肉が付くんだとか。なんとも羨まし…いやいや妬ましいことか。まあ生徒会は総じて人智を超えた能力保持者が沢山いるから今更な感じではある。


「本当になんで俺は生徒会にいるんだ…」


「幸ちゃんってたまに変なこと言うよね」


「ほっとけ。それよりもこの行事の担当誰がするんだろうな、担当する人は可哀そうに。せめて見届けてあげようじゃないか」


「ねえ、行事の担当者って同学年の生徒会役員から優先選出だよね?いなければ公務員が担うことになっているけど」


なにを当たり前のことを言っているのだろう。先程の話にもあったじゃないか。辰巳もボケっとすることがあるんだな。本当に監督責任者に抜擢された人には同情しかない。表に立ってヘイトを買うようなもの好きなんているはずもないからな。


「神田君、本当にごめんなさい」


なぜ俺に頭をさげるのだろう。御園のせいではないというのに。猪突猛進を生き様とする戦神のような姉を持つと色々と苦労もあるんだろうな、自分の責任ではないはずなのにしっかりした妹だ。


「ん…?」


皆が視線をこちらに向ける。頭を下げさせるような発言はしなかったはずだが、なにかまずいことを言ってしまったのだろうか。そもそもの話、御園妹が俺に頭を下げる必要性も感じないし。


いや、まてまて。今回の行事は一年生の登山キャンプ、監督責任者は同学年で生徒会役員が優先選出される。そして生徒会に一年の在籍メンバーは現状一名のみ。瞬間、冷や汗が止まらない。血の気が引いて自分でも顔が青ざめていくの感じる。


「あの…辞退って出来ますか…?」


「すまないがそれは出来ない。ほかに一年生がいれば融通が利いたのかもしれないがな。仮役員とはいえ表向き、君は生徒会役員であることに変わりない」


「幸ちゃん、どんまい」


膝から崩れ落ちた。厳密には立ったまま心が膝から崩れ落ちてしまった。瞬く思考の中で生徒会を辞めることも考えたが、流石にそれは責任放棄になってしまうし流れに乗ってふらふら入ってきた性格上、自分から辞めるとも言い出せない。


「この件については流石に一年に全てを任せるのはまず無理だ。ただでさえ行事が不評だからな、同じ学年から反感を買うことになるだろう。神田と言ったか。俺たちも協力するからあまり気を負いすぎるなよ」


「三宅の言う通りだな。流石に私も心苦しいものがある。一度学年集会を開いて事の経緯を説明する必要があるだろうな」


三宅は神様だ。さっきと言ってることが違うって言いたいのだろうけど、こればっかりは手のひらを簡単にひっくり返してしまう。やはり、無茶であることは共通の認識であるようだ。そして御園清子、お前は許さないからな。教科担当違うからあったことないけども。


一旦の解答が出たところで今回の集まりはお開きとなった。なんだか生徒会に入ってからと言うもの、忙しない日常を送っている気がする。まあ授業に出なくてよくなるからそこは少し気が楽だけど。


なんとかなるといいなと当事者意識をぶん投げて、今日はベットに抱きしめてもらうとしよう。









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