らるんえべーる

兎井乃椛

序章

知らないもの

好きなことをすれば父に怒られる。

嫌いなことをしなければ母に怒られる。


私は、ワタシをコロして生きてきた。





選択肢を渡されない人生を生きてきた私は、ワタシを見失った。

好きなことをすることの喜びなんてとっくの昔に忘れた。

だから、今更『将来何がしたいの?』と聞かれても答えることは何一つない。



「何がしたいんだろうね。」

さっきまで叶いもしないような自分の夢を自慢げに語っていた友人のあきは不思議そうに私の目を見つめてきた。

「趣味とか特技とかないの?」

「なんでも満遍なくできるけど、これが得意ってものは無いかな。」

「満遍なくできるのいいな!私なんてフランス語と英語がごっちゃになってさぁ〜…」

暁の出来ない話はもう4回目。暁は出来ないといいながらも出来るように克服していっているのはこの大学の2ヶ月間一緒にいるだけでもわかる。

暁は元々理系脳だったが、キャビンアテンダントの仕事に就きたいが為に苦手な英語を克服するため、高校は英語コースに通い、大学はフランス語を専攻にしてトリリンガルを目指している。

そんな暁と過ごす内、受験の受かりやすさだけでフランス語を選んだ私が惨めに思えるのを感じる。

「よく頑張れるよね。」

「だってなりたいもんは仕方ないじゃん?」

暁はこの皮肉に気づいていないように思える。好きなものを追っている人間はこうもポジティブになれるのかと時々感心する。





私、咲冴ささは、

高校までは親に決められた進路の言いなりになって進んできた。

だが、大学だけは抗った。

親から進められた大学はいい具合に手を抜き、一目惚れをした大学を滑り止めとして全力で勉強した。結果、あたかも実力が足りなかったかのように演出することが出来た。


その大学は私の実家から程遠く、一人暮らしをしないといけない距離にあった。

もちろん箱入り娘は一人暮らしをさせてくれない。

だから、寮生活。そこまで厳しくない寮は家よりも自由で、楽しい。暁も寮生。だからずっと一緒にいる。

唯一違うのはサークルくらいだ。




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