第5話結婚前5
目の前の伯父は怒り心頭になっていますが、私はジョアンに愛人がいても別に構いません。客観的に見てもジョアンは優良物件です。思い込みが激しい点と少々想像力が欠落していますが、完璧な人間なんてこの世にいません。それに伯爵家の事業の一部を既に任せていてそこから利益を出しているのも事実。
「伯父様、私はこのままジョアンと結婚しようと考えております」
「フアナ!?」
「今の時期に結婚の取り止めをする事はあらぬ噂を社交界に提供する事になります。それは両家にとってマイナス以外の何物でもありません」
「だが、フアナ……一度婚姻すると離婚する事は困難だ。まず教会の審査に通らなければいけない。審査基準は厳しいものだ。家庭内暴力や三年以上の白い結婚でない限り早々に離縁状に判を押さないのだからな。しかも、証拠主義ときている」
伯父の懸念も理解できます。
警察以上に「証拠」がものを言う教会組織。
幾ら暴力行為を訴えても医師の診断書が無ければ「なかったこと」にされてしまうのです。貴族は、各家に主治医がおります。主治医は雇い主の命令が絶対。例え、雇い主が奥方を暴行で殺してしまっても「不慮の事故」として処理してしまう傾向が強いのです。
それは「白い結婚」を主張する者とて同じ事。
これを行う女性は歴代でも数人程度しかいません。女性にとって屈辱的な行為をしなければならず、場合によっては「傷物」とされるケースもあるからです。それに、嫌な言い方になりますが「妻の処女でなければ訴え出る事はできない」という事です。結婚相手が醜悪な者ならば妻を別の男に襲わせるケースもあります。伯父が私を心配するのはそういった過去が実際あったからに他なりません。
「私はアウストラリス伯爵家の血を残さなければなりませんから、ジョアンが子作りに非協力というならば別の方から子種を頂かなくてはならなくなります。その事を含めて伯父様の許可を頂きたいのです」
「フアナ……。確かに、今のジョアンでは白い結婚になるだろうな……」
我が国は血統主義。
その家の血を引かない人間に継承権はありません。それと同時に女性の爵位継承が認められていないという矛盾も存在しています。私のような跡取り娘は基本婿を迎えますが、世継ぎは何も夫の子である必要はありません。男性の場合、世継ぎは正妻の胎から生まれた者しか認められないのとは違い、女性が婿を迎えた場合に限り“直系女性の胎から生まれた子供にのみ跡取りの資格を有する”とされているのです。
「直ぐに見つけるのは無理でしょう。私もまだ若いので焦る必要はありませんが三年以内には子供を儲けたいのでジョアンとの結婚後はパーティー等に積極的に参加しようと思っています。その時には伯父様の意見も必要になりますので協力していただきたいのです」
「……そうするしかないな」
「はい」
「……すまんな、フアナ。私の教育が悪かったせいで……とんでもない
いえいえ、伯父様の教育は間違ってないと思いますわ。
どんなに優れた教育を施しても
それに、夫ではなくビジネスパートナーとしてならジョアンは優良物件です。
「伯父様、婚姻契約書の一部変更を今からでも可能ですか?」
「勿論だ!結婚式までには準備して提出できるようにするぞ」
「お手数をおかけして申し訳ありません」
「謝るのは私の方だ。これから大変だろうが私やグリア侯爵家はフアナの味方だ」
「はい」
それを聞けただけで百人力です。
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